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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第六章:盲信は鏖殺に帰す
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剣姫と拳姫

――ギィンッ、ギィンギィンッ――


「フンッ!」

「ッ!」


剣戟が、鉄拳が、地面を砕き、切り裂き、街道を破壊していく。


「ちょこまかとッ!」

「……脳筋」

「あぁ!?」


セレーネの怒気が膨れ上がる、それと同時にニノの殺気も昇っていく。


(早い、重い、反射神経も凄い……魔術を排した、肉弾戦に特化した戦闘タイプ、あの鉄拳に魔術攻撃が乗る仕掛けがある……?)


(コイツ……ただ早いだけじゃない、的確に急所を狙って来る)


……良いな。

……良い。


――ギィンッ――


腕と剣が交差する、攻撃を避け、捌く……それが続く度に、二人の口角が上がっていく、殺気に空気が凪ぐ、鉄の音色が大地を走る。



「フフフッ♪」

「……♪」



○●○●○●



「……クフフッ♪」


随分と美しい音を鳴らすじゃないか……俺まで滾ってくる。


「さて……俺のダンスパートナーはお前か」

「ヌゥンッ!」


――ドオォォンッ!――


空を影が覆い、大地が吹き飛ぶ……そして、その中心地には二人の男が居た。


「相変わらず惚れ惚れする火力だなぁッ、実体験するとその重さが身に沁みるッ♪」


一人は黒い、高貴な服を纏った、悪魔の王〝ハデス〟。


「実際に会うのははじめてかァ?……ハデスよぉ」


もう一人は、赤い獅子の如き苛烈さと勇猛さを持つ、獰猛な大男。


オケアノスの長、〝ダルカン〟。



「散々暴れてくれやがって……テメェ、覚悟は出来てるのか?」

「何の覚悟だ?」

「〝ブチ殺される覚悟〟に決まってんだろォッ!」


――ドォンッ――


風を凪ぐ巨剣が、俺へ迫る……フッ、フハッハハハッ♪


「殺される覚悟、殺される……俺が?お前に?……ハッハッハッ♪…素晴らしい、スバラシイッ!……何と楽しい事を、俺の前で臆面なく語ってくれるッ?」


良い、実に良い、ならば示せ、この世界に刻みつけろ、お前が俺を殺すに足る〝英雄〟だと、俺へ見せつけろ!



――ブンッ――

――ギィンッ――


「グッ、重ぇッ」

「ハハッ♪」


――ドッ――


巨剣と、黒剣が打つかる……ダルカンの筋肉が膨張し、俺の腕が揺れる。


「ウラァッ!」


そして、一際力を込め、ダルカンが巨剣を振るう……。


「〝身体激化〟ァッ!」


ダルカンの身体を赤い気配が纏う。


「おぉッ、それは前に見たなッ、確か――」

「ガアァァァ!!!」


――ギィンッ――


「そうそう♪確か身体能力がこんな感じで……凄く上がる技だったな♪」

「ッ!?」


ダルカンの一撃が、風を裂き、建物へ深い傷をつける……しかし、それが狩る筈だった獲物は、何事もなく、まるで何も変わっていないとでも言うように、楽しげに佇んでいた。


「舐めるなァッ!」


――ギィンッ、ギィンッ、ギィンッ――


そして、始まる、連撃が……それを楽しげに、それはもう楽しげに男は見ていた。


「重い重い♪…徐々に徐々に、重みが増している……そして、その攻撃の速度も……何処まで上がるんだ?」


――ギィンギィンギィンギィンッ――


「ウオオォォォォッ!」


――ギギギギギギッ――


「ふむふむ、ほうほう……成る程」

「〝重撃〟」


鉄の声が甲高く泣き叫ぶ中、ダルカンが、巨剣を上へ構え……振り下ろす。


「……フゥゥッ」

「……それで、終わりか?」

「ッ――グッ!?」


一時の静寂に、ダルカン我息を吐く……その刹那、土煙の中から声が響き、黒い腕がダルカンの顔を掴む。


「素晴らしい攻撃だった……真に素晴らしい、これほど削られたのは久しぶりだ♪……さぁ、お前の攻撃は十分に堪能した事だ、次は――」


――ダッ――


「耐久テストだ……簡単に壊れてくれるなよ?」


そして、その場からハデスとダルカンは消え、次の瞬間……建物が1つ吹き飛んだ。



●○●○●○




――ドガッ、ギィンッ、ゴォンッ――


「シィッ」

「ッ」


凡そ数十分、互いに生命を狙い合っていた……刃が掠め、拳が過ぎ去り、街道は滅茶苦茶な有り様へと変貌していた。


「……お前は何で剣を振るうんだ?」

「……?」


互いに間合いを取った時、セレーネがニノに問う……美しい少女は、その問いに静かに目を閉じる。


「昔……お祖父ちゃんの剣を見た」


少女の脳裏に、古い記憶が過る……古い屋敷の奥の林で、独り、剣を振るう男の姿。


「……〝綺麗だった〟」


淀み無く振るわれる技の美に、目を奪われた、刃の、光が反射する様に心を奪われた……少女は理解していた、己が他の者達と違う事を……〝戦いに生きる者〟であると。


「だから、剣を振るう……あの日見た、お祖父ちゃんに、そして、今も強くなるお祖父ちゃんを超える為に……」

「……クッ」


――クッハッハッ♪――


「そうか、そうかぁ……良い理由だな……〝気に入った〟」


美少女の淀み無い声に、美女は朗らかに笑う……そして。


「お前なら……コレを使っても良さそうだ♪」


そして、彼女は鉄拳を開き、己の心臓へ突き刺した。


「〝黒装:朱染ノ悪鬼〟」


彼女の装衣が赤黒い色へ変わる、額には白い角が、口には牙が、その姿は紛う事無き鬼で在った。


「それは……何?」

「私の魔剣……いや魔拳だな、取り敢えずその能力だ……他のと違って〝心臓を潰す事〟が発動なんだよ、変わってるだろ?」

「……そう」



――ザリッ――


「何はともあれだ……そろそろ、この馬鹿踊りも終いにしよう」

「…分かった」


そして、剣の姫は、背から鞘に収まった刀を取り出す。


「……〝白装死刃〟」


そして、白装束に姿を変えたニノは、その腹に短剣を突き刺す。


「……〝骸雪姫(むくろゆきひめ)〟」


そして、少女の手に握られた白い刀は、白い冷気を放ち、大地を霜で覆う。


「……成る程、お互いに時間制限付きの殴り合いか……死合を畳むには丁度いいな♪」


――ザッ――


「私が、勝つ」

「いいや私だ」


――ギィンッ――


そして、始まる……最後の剣戟、最期の舞踊。


鉄の拳が大地を抉り、白の刃が空を裂く、二人の距離は次第に近付き、それに比例して剣戟も激しさを増す。


二人の身体に掠り傷が増える、二人の動きが徐々に精密さを増す、刃の1センチ、拳の一ミリを躱し、互いに急所を狙う。


――カチッ――


そして、少女が刀を鞘に収め後ろに飛び退く、美女がそれを見て顔を歪める。


「コレで決着かッ、良いじゃねぇか!」


一瞬の静けさ、そして駆け出す二人。



「〝神落〟」

「〝音去〟」


2つの技が打つかる……空気が弾け、そして――



「……負けた」


剣の姫の腹に拳の姫の腕が突き刺さる。


「……私の勝ちだな」


――ボタッ――


切り飛ばされた腕から、赤い滝が流れる……それは地面に落ちると、霜を溶かし始める。


「三人目……」

「ん?」

「貴方で、三人目」


血を口から零しながら、少女は淡々と呟く……その目には、無邪気な歓喜が在った。


「貴方も、ハデスも……何時か斃す……それまでは絶対に逃さない」

「……クハッ♪……嬉しい事言ってくれるじゃねぇかッ!」


黒い結界がヒビ割れ、外へ繋がる……それと同時に。


――ドガアァァンッ――


建物が吹き飛び土煙を巻き上げる。


「相変わらず派手に暴れてんなぁ、アイツ」

「……また今度、遊ぶ」





○●○●○●


「もうッ、何なのよコイツッ!?」


――全然斬れないじゃないッ!――


黒衣の少女の叫びが、既に崩壊した街で響く、きっと、その背後の彼等も同じ意見だろう。


『GURURURU……』


それは黒い靄を纏っていた、いや、その言い方は正しく無い……〝黒い靄〟そのものだった。


獣の、狼の形をした、不定形の狼、その赤い六つ目が、眼下の餌を、玩具を楽しげに見ていた。

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