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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第六章:盲信は鏖殺に帰す
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聖戦の転機

「――うん、うんうん、順調順調」


戦局は極めて順調に進んでいる……コチラの被害は守護者側の超兵器により2万近く喪った、しかしアレだけの兵器は長期運用するには耐久面もかなりギリギリだったのか、今は沈静化している。


「さぁ、次は誰を投入しようかな〜♪」


――シャッ、シャッ、シャッ、シャッ――


手の内でトランプを切りながら、戦局を見ていると、ふと横から声が掛かる。


「ね〜ハデス〜?……何でグルーヴが此処で倒れてるのかな〜?」


見るとタラトが顔を引き攣らせてコチラを見ていた。


「………(ピクピクッ)」

「そりゃ頑張った御褒美って奴さ……グルーヴの望む〝御褒美〟を堪能させてやっただけだよ」

「……どんな?」

「知りたいのか?」


俺はタラトに軽く耳打ちする……すると。


「何だ……お前もして欲しい――」

「ッ〜〜〜!!!」


――スパンッ――


タラトが顔を赤くして、俺を細切れにする……全く、ほんの軽いジョークだと言うのに……困った部下だ……あ、目玉増やし過ぎた。


「さて、戦線は第1幕の佳境……」


相手の手札は2つ切られ、コチラの手札は1つ切った……さて。


「次の札は……ふむ。」


〝お前〟か……第一幕を締めるのなら悪くない……良い役を貰ったな。




●○●○●○


「おいヒーラー!負傷者の治癒を頼む!」

「分かってる!コッチも手一杯よ!」

「おいッ、一人毒貰っちまった!」


防壁の内側では、怪我人がごった返していた、毒を貰った者、手足の貫かれた者、酷い者は身体を削り潰された者も居る。


「『緊急通達ッ、前方数km先から黒い何かが接近中!……鑑定が弾かれた!Sクラスと推定!』」



健常な者達が地平線を睨む……其処にソレは居た。


それは竜の姿をしていた、いや判別できたのは〝竜の部位〟のみと言ったほうが良いだろう。


その身体は竜で在った、だがその身体の至る所に生えた目と口がそれを普通の竜とは認識させない。


「撃てッ、アレはヤバいッ、絶対に防衛ラインに近づけさせるなッ!」


そして、矢が、鉛が竜へ迫る……それを。


『………』


竜はつまらなそうに見ていた……そして。


――ゴオォォォッ――


身体の口の至る所から放たれた、竜の炎が鉛と矢を溶かしていく。


「第1の呪壺の王……中々面白い進化をした」


力を求めた竜、生命の、生存の椅子を賭けた争奪戦の中、コレは己の優位を常に活かしていた。


その中で竜は求めた、全てを見据える眼を、己の武器を活かす力を。


屍肉を貪り、切に願った。


より多くの眼を、より多くの口を。


一を喰らい願い、十を喰らい願い、百を喰らい、千を喰らった……その果てに、竜は王座に着いた、五万もの異形を統べる王として。


「〝千呪竜王〟……何じゃ、貴様が此処の主かいな?」

「グルルルル?」


竜の名を呼ぶ、その声に反応し、竜は声の主を見た。



其処には、鬼が居た……白い髪の、如何にも好々爺と言える様な姿だったが。


竜の目には違って見えた。


先ず、纏う空気が違う……他の有象無象と異なり、気配が薄い、それだけでない、その気配の隠し方は、そう……。


『ふむ、随分と血気盛んな若造だな?』


あの日、渓谷で挑み、敗れ、そして情を掛けられた……あの白い龍……。


此奴も同類だ、己の力を理解し、戦を選ぶ……選ぶ事の出来る〝化物〟だ。


「グルルルルッ♪」

「何じゃ……気色の悪い目じゃのう……アヤツを思い出すわい……ククッ♪」


とても、嬉しい……そんな稀有な化物と、こうして生命を奪い合えるのが、俺を選んだ事が。


「グルァ!」

「〝火走り〟!」


ブレスと、息吹がぶつかる……。


「ろ、老鬼の援護を「要らん!」」


――余計な事はするな、良いな?――


『ヒッ!?』


老鬼が殺意を他に向ける、それと同時に周りの有象無象の手が止まる……有り難い。


「グルゥッ」

「ん?……なぁに、お前との遊びに邪魔が入っては愉悦が濁る」


――ッ……――


そして、老鬼が剣を抜く……それは蒼い鈍色の、反った片刃の細い剣だった。


「グルゥ……」


物の形には何かと意味が有る……鱗は矢を滑らせ、爪は物を抉り切る、牙は肉を噛み千切り舌は餌を運び異物を探る……そして、剣はその重みで叩き切る、其の為に太く厚い刃が必要だ……では。


あの剣は何だ?……何故片刃だ、どんな仕掛けが有る?


「グラァ……」

「ふぅむ、獣……いや、魔物の癖に良い目をする」


――ダンッ――


「実際に食らって見るが良い」


剣を手に迫る鬼を、尾で迎撃する……その瞬間。


――ズパンッ――


「かぁったいのう!?」

「ッ〜!?」


尾は綺麗に断ち切られた……たった一振りで。


――ザッ――


「………」


触れた、見た……感じた、その剣の感触を……普通の剣とは違う……〝横に走る〟……それで切れるらしい。


「ケッケッケッ、こりゃ手こずりそうじゃなぁ♪」


――ズチュズチュッ――


「何じゃ、再生出来るのか……便利な身体じゃなぁ」

「ガアァァァッ」


幾多ものブレスを放つ、大地に炎が這い回り、草木と生命を飲み込んでいく。


「温い炎じゃのう!」

「グァ!?」


炎の中から三郎丸が飛び出る……そして、そのまま俺の腕を落とす。


「ガァッ!」

「フンッ!」


残った腕で、踏み潰そうとすると鬼の姿が掻き消える。


……強い、手も足も出ない。


俺の見立ては正しかった……己よりも遥かに弱いその力で、俺よりも遥か上に立っている……。


――バシュンッ――


そう言えば……何故、俺は戦いを求めたんだ?


――ザシュッ――


ボロボロになってまで、何故焦がれた?


――ドシュッ――


『憧憬だろう?』


嗚呼……見ていたのか、〝黒の王〟よ。


『無論だ、第1幕の幕引きだぞ?』


憧憬……俺は憧れていたのか?


『そうだ、憧れた……圧倒的な強さを、強き者の生き方を……戦い、喰らい、強くなり、そして死ぬ……戦に生きる者の持つ〝狂戦〟を、お前は憧れた』


そうか……俺はソレを得ていたのか?


『無論得ていた、他を寄せ付けぬ力を持っていた、そして今、更に強い化物にその生命を狩られようとしている』


そうか……それは良かっ――


『良いものか、阿呆が』


……何?


『お前はまだ生きているのだろうが、死んでないだろうが、何勝手に満足してる?』


何を言って――


『まだ戦いは続いてるだろうが、何故戦いを止める?』


戦いを……止める?


『お前の憧れたソレは、死を望んでいる、それはそうだ、戦いの中で死ぬ事を求めている……だが、〝簡単に死ぬつもりは無い〟』


ッ!?


『戦いに死にたいならば、其の辺の雑魚に首を差し出せ』


……巫山戯るな。


『自ら隙を作れば良い』


誰がそんな事を。


『生を望む弱者に施してやれば良い』


俺が、雑魚に殺されるだと……。



――巫山戯るな――


『眼の前の老鬼は、果たして強者か?』

『己よりも弱い身体なのに?』

『己よりも劣った力だと言うのに?』

『さぁ、まだゲームは続く、ゲームオーバーは全てを出し尽くしてからだ』


――全てを出し切れ――


炎の使い方を模索しろ、身体の動きを良く見ろ、己の持ち得る機能の、その全てを利用し、そして作り変えろ。


それすら無意味と帰す化物と出会い、逃げる事も出来ないその時こそ、お前の死は完成する。





………良いだろう。


その挑発……乗ってやる。


『大変結構、踊れ竜王、宴を己の物に作り変えろ』




「グガァッァァァッ!!!」

「ぬぅッ!?」


竜を中心に炎が吹き荒れる……大地を、空を、己を焼き尽くして。


『〈再生〉のレベルが上がりました!』

『〈竜の息吹〉のレベルが上がりました!』

『〈再生〉のレベルが上がりました!』

『〈竜の息吹〉のレベルが上がりました!』


『〈再生〉が〈超再生〉に進化します!』

『〈竜の息吹〉が〈竜王の赤炎〉に進化します!』


『個体名…〝無し〟の種族が変化します』

『【千呪竜王】は【炎天の竜王】へ進化します!』





空を、炎を纏った竜が睥睨する……。



周りの人間が絶望を浮かべる中……空を見ていた老いた鬼は。


その顔を喜色に染めていた。

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