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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第六章:盲信は鏖殺に帰す
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聖戦の前触れ

――ガチャッ――


「ガレリア、邪魔するぞ」


重苦しい会議の中、不意に男……と少女が入ってくる……皆の視線が集まり、龍王ガレリアも思わずと身を乗り出す。


「ッハデス!淀みは――」

「もう終わった……土産だ」


ガレリアの問に食い気味に答え、男は……ハデスは影からソレを取り出し、皆の前に優しく置く……ソレは龍の頭だった……安らかに、安堵するように、穏やかな死に顔の骸だった。


「……エト……漸く眠れたのだな」

「知り合いか」

「あぁ、私と……エレノアの友だった……優しく、気高い龍だった」

「だろうな、でなければ凡そ千年も独りでアレを抑えられるものか……丁重に弔ってやれ」

「無論だ」

「じゃあ、俺の方は要件が終わったんで帰るが……折角だ、帰り際にお前達の所へ集る虫を駆除しといてやる」

「ッ!……すまんな」

「何、ちょっとしたボランティアだ、気にするな」


それだけ言い残すと、ハデスは扉を開けて出ていった。



○●○●○●


「クソッ、まだ見つからんのか!?」


渓谷の其処で、兵士を動かす指揮官は苛つきを紛らわすために怒号を上げる。


〝龍〟。


絶対的な力の象徴にして、人と獣を超越した生命、生半可な攻撃では傷一つ付かぬ鉄壁の鱗、恐ろしく強い剛腕、全てを焼き尽くす業火……人が伝え聞く龍を、彼等は探していた……その生命を断つ為に。


龍を殺せば莫大な力を得る……当然と言えば当然、彼等程の強者は力の塊は例外を除けばそうと居ない、だが無謀だ、兵士も、それを指揮する指揮官も、龍を殺すには到底足らない……では、何故これ程までの騒ぎを起こすのか?


単純だ、永き時が達、人は龍の伝承を伝え聞きこそすれ、実際の力を見たことはない。


人とは、物事を都合良く解釈する存在、故にその伝承を偽りだと、迷信だと断じた、〝してしまった〟……。


何よりも、その愚かな考えを助長したのは、彼等の背後に座す〝勇者〟の存在……善の神が彼等の声に送り込んだ使者、〝絶対の正義〟……最強の存在……その強さは、人々から恐れを奪い、脆く弱い虚栄を生んだ。



ソレが……悪魔の怒りを買うと知らずに。





――ガラガラッ!――



「ッ何の音だ!?」


岩が雪崩れる、大地が揺れる……その異常に気付いた指揮官は声を上げる、そしてその問い掛けは。


「ギャアァァァ!?!?」


悲鳴と言う形で返された。


「な、何だ、何が起こった!?」

「ば、化物です!」

「龍か!?」

「い、いえ!」


――ドシャアァァァッ――


岩から手が伸びる……〝人の腕〟……凡そ人間の者と思えぬ程大きな腕が。


人間の腕だけではない、竜の脚、龍の腕、馬の脚、狼の脚……継ぎ接ぎに無秩序に、だがその悍ましさは統一されて、肉塊の様なその身体は這い出てきた。


――『『『『※※※※※』』』』――


見た目は、遠くから見れば竜、龍と言えなくはない、だが近付けば近づく程、その見た目の異様さは浮き彫りに成ってくる。


ソレは無数の眼で世話しなく周りを見ながら、身体中に生えた腕で獲物を掴み、腹と顔に貼り付けられた口で咀嚼する……悍ましい竜の様な何かの姿が有った。


『『『何だ、この程度か?』』』


無惨にも屍を食い散らしながら、龍は呟く……酷く飽きた様に。


「うぇぇ……コレが龍かよ?」

「キモすぎww」

「アカツキ君、早く倒しちゃおッ!」


そんな中、ふと場違いな声が響く。


「そこまでだよ、〝龍〟」


すると、眼の前に四人の男女と、1人のやけにムカツクドヤ顔の男が登場する。


『『『お前が此処の総大将か?……勇者、勇者ねぇ〜?』』』


ギョロリと、無数の眼が冷めた目で男を、アカツキを見据える……。


『『『下らん、この程度のゴミ、相手にするだけ無駄だ』』』


それだけ言うと、また獲物を捕食する作業に入ろうとする……その瞬間だった。


――ザンッ――

――ボトッ――


「随分と余裕だな?」


ふと、龍の足が一本切り落とされる。


「鈍い奴だ、粋がっていた割に簡単に脚を奪われてるじゃないか?」

『『『脚を取った程度で随分と嬉しそうだな?』』』


――ドパァッ――


途端に、血液が足から湧き出す……そして。


『『『〝一屍:語らず謀らずの屍夜叉〟……〝(あらため)〟』』』


血の池から、一匹の赤く染まった黒装束の鬼が現れる。


『『『〝血染め夜叉〟……〝壊せ〟』』』

「……」


俺の命令と同時に、鬼が駆ける……その刃は勇者の首を狙っていた。


「――ッ!」


――ギィィンッ――


勇者の剣と鬼の剣が打つかり合い、火花を散らす。


『『『〝十屍:疫死鴉〟』』』


そんな中、龍の身体から十羽の黒い影が飛ぶ……。


『『『〝殺せ〟』』』


その号令と共に鴉は空を舞い踊る……黒い羽を落としながら。


「……羽?」


ソレを1人の兵士が触れた……その瞬間、兵士は"死んだ"……身体をグズグズと溶かされながら。


「ッ!?…羽に触れるなッ!」

「む、無理だ……こんなもん避けれ――ギィィッ!?」


一人、また一人、死んでいく……恐れながら、絶望を纏いながら、食われ、或いは肉塊と成り……兵士共は消えた、勇者達を残して。


「何だ…この屍人は……何故、何故聖剣が効かないんだ!?」


焦り、戸惑い、苛つき、勇者アカツキは叫ぶ……その疑問を、龍は嘲笑混じりに答える。


『『『教えてやるよ……〝光と闇は表裏一体……光が強ければ闇を呑み、闇が強ければ光を喰らう〟』』』

「僕がコイツよりも弱いだと!?」

『『『おぉ、気付きを得たな……じゃあ見せてやろう、コレの本気を……〝自害しろ〟』』』

「……」


龍の言葉と同時に、夜叉は飛び退く……そして、その刃を、己の心臓に突き刺した。


――ブワッ――


瞬間、溢れ出る…黒い魔力が、辺りを、辺りに散らかる屍肉を、大地を、生者を包む……。


『『『〝対価と代償〟……重ければ重い程、与えられる対価は大きく成る、それは死霊でさえ同じ事だ』』』


「あ……は?」

「何だよ……コレ」


勇者達が顔を青くする、無理もない、龍が召喚した一匹の鬼、その力は勇者よりも遥かに高く、今尚上昇してるのだから。


『『『〝決死の代償〟に〝能力上昇〟の上限を底上げした……元々は単一で国を落とす為に作っていたんだ、お前達如きが倒せる筈もない』』』


そして、心臓から血液を垂れ流す……〝化物〟は立ち上がった。


「ッリリナ、転移し――ッ」


その刹那、1人の女の首が飛ぶ……其処には崩れ落ちる首無し骸と血に染まった鬼が居た。


「ヒィィッ、た、助け――」


次に、腰を抜かした戦士が死んだ。


「アカツキ!アカツキッ!早く戦って――ッ」


神官の女の首が飛んだ。


「ハハッ、ハハハッ……終わりだ、もう終わりだァッ!」


泣き叫ぶ斥候の男も死んだ、残るは血の海に崩れ落ちる勇者だけだった。


『『『おい、どうした勇者、さっきまでの威勢は何処に行った?』』』


「化物、化物だ……コレは、夢だ……」


『『『粋がっていた割に随分と情けない姿を晒すじゃないか、ほらどうした、戦えよ、その為に居るんだろう?』』』


「止めろ……来るな、来るなぁッ!」


『『『勇者、お前は勇者を騙った、その称号を、その称号の誇りを穢した、その罪科の代償は、お前と、お前達聖皇国と、お前達の神に支払わせてやろう』』』


刃が勇者の首に喰い込む。


「ギィ……ァ…」


そして、胴と頭は切り離された。


――ゴプッ、グジュッ――


龍の身体が収縮する……辺りに散らかる屍肉も血液も、一点へ寄り集まる。


「さぁ、楽しく〝国潰し〟と行こうか」


その為に、色々と準備しなければな♪



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