龍の悩み事
「ォォォぉぉぉおぉぉぉぉぉッ!」
――ベチャッ――
どうも、地面と再び熱烈なキスをしたハデスさんだよ……と、言ってる間にエレノア達が降りてきたな。
「ハデスよ、何をしている?」
「何でそのまま落ちてくんだよ、飛べよ」
「馬鹿か?」
「『散々な言われようだなぁ?』……良し、偶には毒気を抜かないと狂ってしまう性分でね」
「主様には今の奇行が狂っていないとお思いなのですか?」
「そりゃな!」
『………』
「いやそれよりもだ、エレノアが早めに降りてくれて助かった――」
――ザワザワッ――
「エレノア様が来たぞ……?」
「あの人間……人間?…は敵ではないのか?」
「いや怪しいだろ、入れて良いのか?」
渓谷の底、その影に居る数名の〝人〟は俺に露骨に不審者を見る目で見ながら、話し合っていた。
「お前結構偉い奴だったんだな……って訳で俺達を〝龍畜無害〟な御友達だと説明してくれたまえ」
「貴殿と友に成った事をこれ程後悔したことは無いぞ……我まで可笑しくなったと思われたらどうするのだ?」
「何、そんなもん笑い飛ばせ、実際に頭の可笑しい奴はそんなもん反応すらせんよ!」
「いや、対処にはなってないだろう……コホン、すまないな、彼は我の……うむ、い、一応友達だ、危害は加えん、だな?」
「そうだとも、俺が襲うのは人間だけだ……いや、悪魔も殺したな、他にも魔物も殺したし同族も殺したな?……ンンッ、取り敢えず君達に無許可で襲う事は無いッ、遊びたいなら歓迎するがな!」
俺の言葉に、もう、それはもう悩み抜いた結果、エレノアの面子も加味してギリギリ天秤が勝ったのだろう、龍達は、俺を訝しげにチラチラと見ながら〝門〟を開く。
「ほう!……コレは転移陣か、かなりの大規模だな」
「稀に本来の姿で出る者も居るからな」
そして、俺達はとうとう龍の国へ脚を踏み入れた。
視界一面広がるは青空、緑豊かな大地、其処に見える人工物……壁。
「此処は我等が世界……龍神様が創りし龍の世界……龍の皆は龍神様の名をあやかりこの世界を〝ガウリア〟と呼んでいるのだ」
「精霊の所と同じで、異空間に世界を創ったのか……神のやることは規模がデカイ」
俺の心象結界も突き詰めれば世界を創れるかね?
「客である貴殿等にはこの場所をじっくり見て欲しくはあるが、我は龍王様に謁見して欲しい」
「構わんよ、此方の目的としてもさっさと済ませておきたい」
「助かる」
大地を離れ、空を舞う……至る所に龍達が居て、時折コチラを興味深げに見てくる……時折〝愉しい〟視線も来るが、それにはコチラも〝穏やか〟に対処する。
「……すまんな、龍の中にも自分より優れた者を嫌う者は居るのだ」
「其処は人間と同じか……自分を鍛えると言う発想が無いのも、やはり同じか……下らん奴等だ」
「全くな……見えたぞ……アレが龍王様の住まう城、〝龍宮殿〟だ」
其処には豪華な和洋混合の城が有った……そして。
「凄い〝圧〟だな、面白そうだ」
「主ならば問題あるまい、貴殿等には少し強かろう、私の元を離れぬ様に、下手に離れれば気を失うぞ」
――バサッ――
「これより先に龍王様は居る、不敬が無い様に頼むぞ?」
「考えておこう」
「はぁ、全く………」
城の前に降り立ち、暫く中を進むと、エレノアが立ち止まる。
「龍王様、只今戻りました」
「おう、入れ」
そして扉が開かれた…瞬間。
――ブワッ――
エレノアと比較にならないほどの魔力の圧、気配の濁流を受ける……セレーネは何とか堪えたか、バリット達は……顔色が悪いな……ふむ。
――ゾォッ――
『ッ!』
「ほぉ?」
コチラも魔力を解き、中和する……それを見ると、円卓に座る奴等は面白い程の殺気と好奇の色を見せ、玉座に肘を付く小僧の姿の龍は面白そうに目を笑わせる。
「吐くなよ、流石にゲロまみれになるのは御免だぞ?」
「分かって…ウッ」
「本気で頼むぞ………でだ」
セレーネをベクターに押し付け向き直る。
「御初に御目に掛かる、龍の王……俺はハデス、しがない悪魔で、コイツ等の主をしている者だ、今回は用が有って来訪した」
「おう、俺の名前は〝ガレリア〟……龍神の息子にして、現龍王だ、宜しくな悪魔」
「あぁ、宜しくな龍」
「貴様――ッ!」
俺が龍王と愉しくお話していると、ふと赤鱗の龍が叫び尾を振るう。
――ブンッ――
「ん?」
――パァンッ――
それは俺の頭蓋をを見事に砕き、俺を首無し死体にした。
「エレノアッ、貴様かような無礼者を招きおって!」
「〝シャーネル〟……君が龍王様を慕っているのは知っているが、今の行動は余りに短慮だぞ?」
「黙れッ、貴様の様な者が「『オイオイ、随分熱烈な歓迎じゃないか』」……ッ!?」
『ッ!?』
俺の言葉に、エレノアと龍王を除く全ての龍が俺の声に驚く、全く………ソレは精霊の所でやったぞ。
「『知らんのか?…人が会話してる最中に横槍を入れるのは失礼なんだぞ?』」
「死体が……動いて……」
「『ふむ、エレノアは知っていたので龍全般でも知られていると思ったが、知らんのか〝死霊術〟、まぁ稀な上人間社会では完全排除された異端の術理だもなぁ』……でだ」
まぁ、永きを生きる龍だからこそ、エレノアも少しの知識は有ったのだろう……それは兎も角。
「龍王よ、お前の部下がこうして俺に手を掛けた訳だが……〝そういう事〟で良いのかね?」
――ゾォッ――
「ハデスッ!」
途端、部屋全域を黒が伝う、エレノアが少し焦ったように叫ぶが、今は無視だ。
「お前達龍は、引いては龍の長は、この俺……〝悪魔〟ハデスと〝敵対〟すると、殺し合いを所望していると考えて良いのか?」
「……」
「答えろ、沈黙は肯定と見なす」
「貴様――ッ!?」
また〝赤蜥蜴〟が騒ぎ始めたので四肢を影の腕で抑えつける。
「……いや、俺の負けだな、非礼を詫びよう、〝ハデス〟」
「ふむ、では謝罪を受け入れようか、ガレリア……しかし、此度の無礼には相応の贖いをしてもらう」
「分かっている」
――ヒュンッ――
龍王が腕を振り下ろした、瞬間、シャーネルと呼ばれた龍の首が落ちる。
「〝暫くは魂のまま頭を冷やせ〟……シャーネルの屍肉は好きに使え」
「ふむ……では頂戴しようか」
さぁ、口煩い輩も消えた訳ださっさと本題に移ろうか。
「今回俺がここに来た理由だが……お前等の所のゴミを処理しに来た」
「ゴミ………ふむ、〝淀み〟の事か」
「察しが良いな、ソレだ、場所は分かるか?」
「無論、今現在も封印している……しかし、淀みの処理を本当に出来るのか?」
「既に1つ処理してる」
「ふむ……どうやって?」
「俺が〝喰った〟」
俺がそう応えると、ガレリアは目を見開き、そして吹き出す。
「ッハッハッハッ!アレを喰っただと?……正気かッ!?アレは魂を蝕む、下手に触れれば我々でさえ消滅しかねん代物だぞ?」
「確かに魂に干渉してくるが、元々魂の変質した俺なら淀みの干渉は防げるよ、死霊術は死と魂の術理だぞ?…舐めてもらっては困る」
元より狂っている……と言うのは言わんがな。
「ふむ……真に〝淀み〟を回収しに来たと?」
「そうだ」
「………」
ガレリアはそう問うと、エレノアを見る……確か真偽が分かるんだったな。
「………分かった、明日案内しよう……此度は休むと良い、部屋を用意させる」
「ン〜……まぁそれで良いか、偶には他所の生活に混じるのも悪く無い」
こうして、俺と龍王ガレリアの謁見は果たされた。
『特殊クエスト【聖戦の前触れ】を受諾しました。』
『このメッセージは、秘匿されます』
●○●○●○
「……信用出来るのですか、龍王様」
「淀みに触れようなど、危険では?」
〝彼の一団〟が、玉座の間を去った後、俺の家臣がそう進言する。
「エレノアが連れて来た〝客人〟だ、信用出来るだろう、〝アレ〟に関しては未だ信じられんがな」
忌々しい生命の〝歪み〟、生命ある者を蝕み喰らい増殖する〝概念〟……ソレを喰らい、腹に入れ、溶かし、消し去る等……俺でさえ無理だ……。
「器の方も限界だろう……最早この可能性に賭けるしかあるまい」
でなければ……間違いなく〝世界が壊れる〟。




