剣と杖と、血と肉と④
「う〜ん……Cブロックは程々だな、何人か面白いのは居るが、他に何も無さそうだ。」
三郎丸が居れば少しは楽しかったが、仕方無いか。
「〜〜〜ッはぁ、どれだけ見ても目ぼしい拾い物は居ないか……仕方無い、少し外に…………おや?」
観戦を止めて控室室を出ると、会場の人の気の離れ……もっと言えば〝ゲスト〟方面に気配の薄い集団が幾人か見つけた。
(この気配……かなり薄いな、死に掛けか生来の素質で無ければ〝要人の暗殺〟……だな)
「都合が良いな、丁度退屈に殺されかけていた所だ、少しの間遊ぼうか」
〝部外者〟に〝イベント〟の邪魔をされるのは不愉快だしな、分かるとも……。
●○●○●○
――カツッ……カツッ……――
黒衣の集団が薄暗がりを歩く……顔は見えない、だが歩き方と、その洗練された動きは、その集団が幾つもの〝死〟を潜り抜けた猛の者だと理解させる。
「標的は?」
「この先だ」
「気を付けろ、相手は元Sランク冒険者だ」
「何、我々には神聖たる善神の祝福が有る、異端者共等恐れるに足りん」
そして、その集団の目から放たれる、淀んだ、ドス黒い…いや、幾多の絵の具を混ぜて創った様な、〝黒い狂気〟が、それ以上に危険性を物語っていた。
……だが。
――パチッ……パチッ……
「「「「「ッ!?」」」」」
狂気の集団は気付かなかった……己以上に狂気を知る化物が、退屈に微睡む化物が、目をギラつかせ、近寄るのを。
○●○●○●
「今から大罪を犯さんとする狂人の崇める神が〝善〟な物かよ、中々面白い言葉を吐く……クッカッカッ」
――カツッ……カツッ……――
「あぁ、やはり祭りは素晴らしい、こうして退屈凌ぎの〝鼠〟が良く現れる、退屈を嫌う〝猫〟にとっては正しく求めて止まない獲物だろう、なぁ?」
薄暗がりを歩く……人気のない場所で、〝彼等〟の席への扉の前で屯する黒い集団に、俺は悦を零す。
「〝魔術の女帝〟、〝剣と炎の王〟、〝強靭な獣王〟……四人の内で3人が実力者、それを秘密裏に殺すには、やはり相応の狩人が求められる……なぁ、〝聖皇国の狗〟共」
〝アフラーマ聖皇国〟。
この世界に根差す巨大宗教〝善神教〟の主神……それ自体は良く有る宗教話で主神の下に幾つかの眷属神が居て、その下に天使等がいてその下に人が居る……とまぁそんな宗教団体が居るわけだが、それ自体はどうでも良い。
問題はアフラーマ聖皇国、宗教大国であり、善神教の大元、昔々は平穏であり清廉な国家だった、他国とも良好な関係だったと聞くが、やはり時代に連れ変わるものは変わる、幾ら高尚な王であっても次の後継者が正しい心と言うわけではない、私利私欲に走る者、清濁併せ呑む者、或いはより良い宗教にしようとする者、そうしてその地に住むものは変わっていき、やがては〝思想〟が変化した……所謂〝人間至上主義〟だ。
厄介なのは森人、獣人のみならず他国の人間すら〝紛い物〟として扱う点。
「……面白い、面白いなぁ……お前達の血生臭い〝死の匂い〟はちゃんと感じるのに、纏うのは聖人のソレ……面白い、オモシロイ……ドウナッテイルノカナ?」
とりわけ俺の目を惹くはソイツ等の〝気配〟、持っている色は〝悪性〟だが、感じる物は神聖……つまり俺にとってはゲロゲロな気配なのだが。
――ヒュンッ――
――ギィンッ――
「あ〜ヤメロヤメロ、今この〝身体〟を壊すわけには行かんのだよ、しかも大会用に性能下げてるからお前等相手だと尚更壊れ易い」
――ズブズブッ――
――ギョロッ――
「ソレに人目も有るだろうし……〝此方で殺ろう〟」
此処でなら俺の本領も出せる。
「いやぁ、成る程……コレは中々予想外な状況だぁ」
そして入るは〝心象世界〟、しかしソレはいつも見る光景とは異なり、神聖な教会の中、そして其処に散乱する血みどろの死骸共。
「ソレか、そのロザリオか、白銀のロザリオ、籠もる聖の気配は並の物じゃないな」
神官、その上位職か、はたまた……フフフッ。
「此処でなら〝肉体〟が崩れようとも問題無いが……それではやはり芸に欠ける」
「お前達は神官、俺は人として居る……で、在るならば、ソレに準じ、その本懐を遂げようか」
――カチャッ……――
剣を抜き、ソレ等を見据える、空より飛来する、白く光る剣を携えしソレ等を。
「光は闇、闇は光……互いに毒であり、互いに糧である、つまりは――」
『ッ!?』
「それだけでは俺を、化物の心の臓を貫く事は出来ない」
光の剣が、俺の黒い剣に弾かれる。
「しかし、それは無敵無双の強さでなく、決して人の手が届かぬモノでもない……火で燃やそうが、水で飲み込もうが、風で切り裂こうが、土で擦り潰そうが、光は消せるし闇は潰える」
――パチッ……パチッ……――
「実を言えば、俺自身は基本の五属性はそれ程でも無い……覚え始めたのも最近だし、今も扱えるのは、まだ〝火〟だけだ」
教会に煙が上がる……肉の焼ける匂いが香り、教会の端々が黒く焼けて煤けて行く。
「だが、3日も有れば研鑽は積める……不完全な属性の結合も、技術で何とか抑え込める……お前達が来たのは僥倖だった、こうしてまだ未完全な魔術を完成させられるのだから……"Φωτιά――」
言の葉を紡ぎながら、術を構築する……僕を起点に幾つもの文字を模った魔力が這い回り繋ぎ合わさり、陣を創る。
『新たな能力、〈火属性魔術〉を獲得しました!』
「―――」
『新たな能力、〈土属性魔術〉を獲得しました!』
見る見る内に青ざめて行く黒衣の集団は、足掻くことをやめ……〝ソレ〟に飲み込まれて死んだ。
●○●○●○
「「ッ!?」」
――ガタッ!――
「ん?どうしたお二人さん」
「キルト殿」
「あぁ、今凄まじい魔力を感知した、すぐ其処だ」
「「ッ!」」
二人の魔術師の言葉に、二人の戦王が警戒と共に立ち上がる。
――ギィィッ――
そして、四人は眼の前の扉を開くと同時に飛び出す……その場所には。
「お?……王様方か、丁度いいな」
「「「「お前(貴方・君)は……」」」」
死に掛けの黒衣の男を掴んだ、赤髪の男がコチラを見ていた。
「こいつ等が妙な動きしててなぁ、暇つぶしについて行ったらお前等を殺そうとしてたらしくてな、1人だけ生かして、残りは始末しといた」
「……」
「……嘘は無い様です」
――ドシャッ――
「じゃ、俺は控室に戻るから、後はお前らで「待ちなさい」……ん?」
「何者です、貴方…」
「ん?ん〜?………あ〜、しまったしまった……〝森人〟は精霊と共生しやすかったな、森人の女王が精霊を使役しているのも当然だったなぁ……ハッハッハッ♪」
――ゾオォォッ――
「「「「ッ!?」」」」
「そう警戒せずとも良い、この結界はただの遮音結界だ、見た目がおどろおどろしいのは俺の魔力のせいだから気にするな……でだ、その精霊ちょっと出してくれ、多分〝使えない〟だろ、〝直してやる〟」
「………」
黒い結界の中で、男……〝カイン〟はケラケラと笑いながらリーゼルにそう言うと、リーゼルの手に白い少女が力無く現れる。
「中位精霊か……ふむ、流石と言うか運が良いと言うか、何とか形は残ってるな……コレが下位精霊なら弾け飛んで消えてたか……ヨイショッ」
『ッ〜〜〜!?!?!?』
「ッミリィ!」
「あ〜騒ぐな、もう直した……でだ、〝恐怖〟に逆らって首を突っ込みすぎるのは止めておけ、恐怖は生命が備えた危機察知装置だ……ッさて、そこな四人の王様王女様は俺の正体を知りたくてウズウズしているだろう、まぁ勘付いてるっぽいが……コホンッ」
カインはそう言うと、顔を歪め、恭しく礼をして告げる。
「俺は〝カイン〟……始まりの殺人者の名を冠する〝人間〟であり、悪魔〝ハデス〟の〝分身〟……この身体は此度の祭りに参加するために創った〝肉体〟だ♪」
「やはり居たかッ!」
「おいおい待て待て、俺はしがない参加者として此処に居る、予選ならばいざ知らず、俺は決勝に進出した、勿論ズルは何もせず、守護者の持つ戦力の範囲内でだ……折角の大規模な闘技イベントの決勝戦で、寒い不戦勝何て作るつもりじゃないよな?」
「「「「………」」」」
「今も態々イベントのお邪魔虫を処理したんだ、分かるだろう、私は君達の敵だが〝他所のイベント〟の範囲内では中立だ……今回はただ祭りを楽しみに来た〝人間〟だ、オーケィ?」
「「「「……」」」」
――シュウゥゥッ――
「ん、宜しい、それでは俺は控室に戻る……警備は良く選び給えよ」
結界を解き、踵を返す〝敵〟を、四人の王は睨むしかなかった。




