霧に隠れる霊樹
「霧が濃いな」
西の森を歩きながら、ボケ―ッとそんな事を考える、時折見える採取ポイントから毒草やら薬草やら、様々な草を採取しつつ進む、時折見つける人間を見つからぬ様に殺すのも中々痛快だ。
――ベキベキベキッ――
「音でバレバレだ阿呆が」
後ろから伸びた枝を叩き折り、腕を斧に変えて木を伐採する……コレがマイ◯クラ◯ト流伐採術。
「まぁ木材は四角じゃ無いけど……しかしなぁ、樹霊しかり、ゴーレムしかり、自我が薄いと出てくる感情も薄いんだよなぁ?」
コレじゃ水と同じだ……まぁ木材は豊富な魔力を持ってるし使えるか?
―――――
【樹霊の木材】
樹木に魔力が宿り、魔法生物と化した魔物、その存在は魔力を持つ者を求め、擬態しながら過ごす。
樹霊から採れる木材は豊富に魔力を含み、魔術触媒として高い人気を得ている。
―――――
「魔術触媒ねぇ……俺も死霊術に使える触媒探そうかね?」
呪われたとかその手の類なのは必須だろうなぁ。
「……しかし、北の禿鷹を倒した時も思ったが……流石に強過ぎるな、俺」
別に自惚れている訳では無いが、こうも容易く倒せてしまうと些か退屈だ。
「どうにか力を抑制出来ないかね……ぱっと思い付くのは〝聖属性〟だが、死霊の俺達には無理だな、溶ける……むむぅ……」
『ボスエリアに――』
「〝聖属性〟……〝聖属性〟をどう加工するか……〝封印術〟……確か結界術を調べた時にチラッと――」
――バキバキバキッ――
「――んぁ?」
『―――』
そう物思いに耽っていた最中、突如身体に穴が開く……俺を取り囲むように生えてきた木の枝が、頭蓋を、腕を、腹を、足を突き貫き、血を啜っていた。
「流石に不用心過ぎた――グェェッ」
コイツ人が喋ってんのに喉突き破りやがったな?
「上等だ糞木材、切り刻んで磨り潰しておが屑にしてくれる……名前なんだぁ?」
―――――――
【霧隠霊樹】LV:50
生命力:8000
魔力 :10000
―――――――
「――成る程、魔力特化のクソもやしか」
で、魔力を変換して自身の身体を成長、再生させる仕組みか。
「種が分かれば殺ることは単純だな」
――ゴポォッ――
「出番だぞ〝悪食蟲〟、其処の無限食料食い尽くせ」
――ブォォンッ――
「『ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチッ』」
何時ぞや作った角笛から貪蟲を呼び出す、さぁこのクソ木材をチリ一つ残さず食い殺せ。
○●○●○●
ソレは飢えていた……獲物に、生き血に、魔力に。
『――』
ただ魔力を求めるだけではない、自我が薄いながらに、悪辣な悪意を持ち、相手の苦痛に歪む顔を見て、生き血と共に魔力を啜る、ソレが楽しくて堪らなかった。
――パキッ――
久しく獲物が来た時、歓喜し、獲物を逃さぬように気配を殺し、待った……たった独りで此処へ来た人間……馬鹿だとさえ考えていた……獲物に飢えていた故に、その〝異様〟に気が付かなかった。
――ドスドスドスッ――
「……んぁ?」
間抜けた声と共に滴る血……ソレを吸った……そして。
――ゾッ――
見た……悍ましい闇を、何一つ見えない、闇だけの世界を、深く深く手繰り寄せる事すら叶わない深淵を、深く落ちて行く……その先に座して待つ狂気の化物を。
――ブォォンッ――
その音に現実に引き戻された……と同時に、更なる絶望が舞い降りた。
――ガチガチガチガチッ――
それは幾千の羽の音色、飢えた口をカチカチと鳴らして飛ぶ蟲の群れ。
この時、動けない己をどれ程呪っただろうか?
「へぇ?……〝樹霊〟にしては感情の起伏が大きいな?」
蟲の奥から、愉しげな、悦を孕んだ声が聞こえた……見下ろし、嘲り、愚弄する男が、そして。
――ギシ……ギシ……――
「俺を舐めた代償だ」
男の手に潰されながら……今更な後悔と、懺悔を浮かべ……常闇の中へ沈んだ。
「……何だ?お前で終わりでは無いのか?」
●○●○●○
確かに死んだ……間違い無く、色も見えない抜け殻に成った筈だが……はて?
「何で終わらんのだ?」
一向に戦闘終了アナウンスが流れない……つまりは。
――パチンッ――
「〝周りのも食え〟」
――ガチガチガチガチッ――
食い潰す、食い壊す……周囲の木々の尽くを……時偶あの木偶の坊と同じ奴が出てきたが、それで一つ分かった。
(コイツ等は下っ端、或いは複数体で一つのボス、ステータスを考えた場合は後者の方がしっくりくるが――)
――ドゴォッ――
「……予想が外れ――」
思考に脳を寄せていた、その瞬間に背後の地面から木の根が迫り、俺の半身を抉り貫く。
――パキパキッ――
――バタンッ――
視界が黒に染まり……身体が倒れる音がする。
「『―――――』」
倒れ伏した男の骸に木の根が伸びる……そして遠くの白霧が晴れ……周囲の木々よりも更に黒い樹が現れる。
そしてソレは骸を手繰り寄せ、その割れた樹の口へ運ぶ。
「『案外見つけられないモノだなぁ、おい』」
「『―――ッ!?』」
――バッ…バババババッ……――
樹霊の身体を幾多もの腕が突き破る……そして、腕が無理矢理に樹の身体を割り開き、中から"男"が現れる。
「魔力察知には引っ掛からなかった……つまりアレは魔力で創った霧では無く、自然そのものを用いた物、では気配はどうやったのか……いや、違うな、お前は周囲の木々にダミーの樹霊を置いたんだ、思考を逸らす為にな……何だったか……そうだ、〝ミスディレクション〟だったな、それだ……まんまと引っ掛かった訳だな、俺は」
――ベキベキベキッ――
「認めよう〝霧隠老樹霊〟…お前の勝ちだ」
丁寧に、丁寧に……敬意を以て老樹霊の身体を裂いていく。
「『――――ッ!?!?!?』」
辺りに形容し難い叫び声を散らしながら、西の森、第二エリアの長は死に絶えた。
『〝霧隠れのアヌトリアス〟が討伐されました!』
「ステータスはまだまだ全然相手にならんが、搦手で負ける可能性が有る……そうだそうだ、ソレを人間だけに当て嵌めていた……認識を変えるべきだな」
この世界の遊び相手は人間だけではなかった……♪
「次は……南だな」
――ギュチギュチッ――
「次の獲物はどんな奴かな?」
少し…いや、かなり楽しみだ♪




