夢の化物と致命の男子
――ギィンッ――
剣鬼の斬撃が肉を裂く。
――ボチャッ――
弾丸が肉を抉り、穴を生む。
――ガンッ――
――ガチャンッ――
「ハッハッハッ、まだッ、まだまだまだッ!」
身体を抉り、四肢を引き千切る、既に20の屍を積み上げて、戦場を駆ける。
――ズシャァッ――
「取っ「てない」――ッ!?」
混戦、1人の戦士が俺の首を斬り付ける……其処じゃない。
「「其処は人の急所だぞ?」」
「ウェッ……ギッ!?」
また1人、頭蓋をもぎ取り屍を積む……。
「「ケッヒャヒャヒャッ、恐れたな?」」
――グチュッ――
「ヒィッ」
その悍ましい形に、多くの人間が足を止める……それを6つの眼が捉え、口角を歪め嗤う。
「どうした〝生き残りの敗残兵〟、殺す為に来たのだろう?何故刃を振るわない、敵は今もこうして無防備に立っているぞ?」
――ギィンッ――
「シィィッ」
「三郎丸、お前は本当に面白い……だが」
――グチャグチャッ――
――カチャンッ――
「詰みだ♪」
翁の心臓に銃口を突き付ける。
――ガチャンッ――
――ブパァッ――
そして、その心臓に、胸元に大きな風穴を開く……剣鬼は死んだぞ?
「サァ、次は誰の番だ?」
「ヒィッ――」
――ガシッ――
恐怖を漏らした戦士の腕を掴む、その切っ先を私に向けさせて。
「さぁ、敵は此処だ、化物は此処だ……殺せ、鏖せ、壊せ、其の為に来たのだろう?……出来ないならやり方を教えてやる」
ゆっくりと、俺の喉に剣を通していく……恐怖に顔を歪めさせる男の顔が愉快だ。
「どうだ?…伝うだろう?震える声の振動が、聞こえるだろう?肉を裂いて進む音が、感じるだろう?肉を抉る感触が……コレが〝殺す〟だ、コレが死を与えると言う事だ…さぁ、お前がこの剣を振り下ろし、俺の心の臓腑を切り裂けば、俺は死ぬるぞ?」
「あ……あぁぁッ」
「さぁ、さぁさぁさぁさぁ!…殺れ!やってみせろ!そして吠えろ!俺が英雄だと、俺こそが化物殺しの勇者だと!」
「―――」
グラリと、男が垂れた……強制ログアウトによる死亡だな。
「クックックッ、肝の小さい男だ…そして、同時に残念だ」
この場に居る数十人、その中で動こうとする者が居ない……〝勇者〟足り得る者は居ないらしい。
「お前達の中で、誰か一人でも動けば、誰か一人でもあの男に手を貸し、俺の臓腑を刺し貫けば、俺の命をくれてやっても良かった……」
「シィィッ」
「ァアアッ!」
「遅かったな勇者共……だがもう〝飽きた〟」
漸く復帰した勇者達を見ながら俺は、取り出した"菓子"を喰らう。
――ゴポッ――
「此処らで潮時だ……〝夜は夢の世、夢は悪夢へ〟」
――グチャッグチャッ――
「〝旧き古き言の葉、無意の音色、迷いし少女、狂い回る時計、着飾るは導きの兎、帽子屋は狂気に溺れ、狂乱の茶会、白き駒の女王、赤き札の女王〟」
黒い黒い瘴気が包む、何人も近付けず手出しできない混沌の渦の中で、俺は言葉を紡ぐ。
「〝ソレは人で在り、獣で在り、化物で在り、〈悪夢〉で在る〟」
「――〝千屍:狂い唄う悪夢の屍獣〟」
「〝炙りの刻、粘らかなるトーヴ、我が息子よ!ジャバウォックに用心あれ!〟……ってな?」
その姿はまるで黒い靄の様に、其処に在った、その姿を無限に変形させ、蜥蜴にも、人にも、狼にも天使にも、竜にも見せ、6つの赤紫の目が嘲るように嗤っていた。
「さぁ生き残りの敗残兵、〝致命の剣〟は持っているか、既に現は夢と化したぞ、お前達が悪夢を選んだ、悪夢は夢にて化け物として現れた、残されたのは斃すか死ぬかだ、此処にお前達を助ける〝帽子屋〟は居ないぞ?」
さぁ、生き残る為に死にに来い。
「〝浄滅の光条〟」
浄化の光条は霧を焼く……だが。
――パァッ――
「惜しいな勇者、その剣では俺を殺せない」
光は霧散し化物はせせら笑う。
――グチュ、ボキッ――
「サァ、歌え」
霧が収縮し、屍の鋭い爪が人の身体を裂く。
「豚の悲鳴を、蛙の叫びを、忌むべき狂騒を、絶望し、そして途絶え、また繰り返す狂気の時間を、終わらせるのは誰ぞ、無論、無論覚悟有りし夢の少女、赤射の男子だ、泥臭くも気高き、弱く強い真なる勇者で有る、さぁ悪夢に迷い込みしアリスよ、お前はアリスか、それとも兎か?」
問答に返すは苦痛の叫び、また1人、弱き兎の躯は積まれる、恐れ抱き逃れようとする度に、お前達は生から遠退く。
「〝残るは十の少女達、さぁ今一度問おう、お前は何だ?〟」
聖剣の男、聖剣の女、その背後には恐れ抱く兎達、さて――。
「うおぉぉぉッ!!!!」
『ッ!?』
――ザシュッ――
霧を〝斬った〟、化物の〝肉〟を裂いた、勇者で無く、聖剣を持たぬ凡才が、誰一人と傷付けられなかった化物の体を、化物の命を削った……つまり、つまりは――。
「〝見つけた、見つけたぞ赤射の男子!化物を狩る迷い姫!帽子屋を救う祈り手!狂気終わらせる現の勇者ァ!〟」
「「素晴らしい、素晴らしいッ!お前は選んだッ、誰が為に、己が為に!化物を殺し、今生きる兎を救う者として、そう在れと!…あぁ、嗚呼ッ!最早この夢に価値は無いと、微睡む光は無いと思っていた!この土壇場で、とうとうアリスは現れたッ!」」
――ズォンッ――
俺はその男子を包む、凡才の男子、人の域を出ない、主役に選ばれなかった者……その名は〝ビーク〟。
「さぁ英雄、此処から先はお前の舞台だ無才のアリス、お前はこの私、〝夢の化物〟を殺す唯一の存在と化した、その手には眩く輝く〝致命の剣〟、お前が死ねば兎も死ぬぞ」
「ッ!?」
「恐れ、しかし立ち向かう責任、実に結構、で有るならばアリスよ、ジャバウォックの首を、悪夢の心臓を、その剣で持って刎ねて見せろ」
――ザッ――
「――グッ!?」
「致命の剣は夢の物、悪夢殺す剣は、お前の意思で強くなる、分かるか、私の一撃を受けて尚砕けぬ強靭な剣を持つ者、お前の覚悟は確かに化物へ届いている」
――ドッ――
「そして夢の英雄はその身を砕けさせない、己の心が諦めへ至るまで」
腹を蹴り抜く、しかしその姿は五体満足、さぁ。
――ドォッ――
「化物の腕をもげ」
「その足を貫け」
化物の体を切り裂き、夢の英雄は迫る。
「掴んで離さず」
「引き寄せて殴れ」
その距離は、次第に詰まる、対岸から、同じ大地を踏み、剣戟が指を掠め、その顔が近付き――。
――ブシャアッ――
「これにて、悪夢の座興は終わり、しかしジャバウォックはまだ死なず――」
「シィアッ!」
その剣は、化物の首を刈り取り、その手に納めた。
――フッ――
『ッ!』
霧は溶け消え、勝ち取りし英雄がその姿を見せる……アリスがジャバウォックを打ち倒した。
「赤射の男子夢見る守護者、〝ビーク〟、選定に選ばれた英雄には相応の対価を与えよう」
倒れ込んだ化物の身体は霧散し、その身体から、白い純白の剣が現れる。
「〝夢破の鋭剣〟、神では無い、人の祈りが産んだ清き剣、お前に相応しく、お前以外には扱えぬ、お前だけの武器を……そして」
――ゾォッ――
「〝悪夢の呪い〟を、お前は夜の獣に襲われる、しかしその剣で以て斬り伏せた時、お前はさらなる力を与えられるだろう」
そして化物は消え……。
「『選定の夢は覚めた、新たな英雄の産声と共に』」
怨敵、ハデスは討たれた。
●○●○●○
「……二度目、いや、幾度目かな?」
死して再誕した俺は、その身体を見やる……未だ覚めやらぬ〝悦〟の色が心地良い。
「ベクター、ヴィル、今回のゲームは、俺達の負けだ」
「そうですね」
「んだよ、人にあんだけ無茶させて負けたのかよ!?」
「悪い悪い……だが、〝収穫も有った〟」
「「ッ!?」」
また1人、俺を殺せる者が現れた……フッフフフッ♪
「喜ばしい事だ……フフフッ♪」
俺の元へ帰還した5つの魂を、肉塊に入れる。
「お前達は暫く休め、器が出来るまで動けないぞ……早くても一ヶ月は掛かるな」
『ッ!?!?!?』
「そう騒ぐな、味覚も何もかもは創って有る、眷属達に世話させる……後は」
――グチュグチュッ――
「ピィッ?」
「コレを〝彼〟に…渡しそびれていた」
新たに生み出した鷹の死霊をとばす、その手には茶色い鞘の剣を持って。
「暫くはまた自由行動だ、俺は第二エリアのボスを殺して回る、好きに過ごせ」
「「御意」」
『ッ!』
それじゃあ、時間も時間だしそろそろ――
――ピロンッ♪――
ん?メッセージ……運営?……何々…〝先刻の戦いをプロモーションに使いたい?〟構わんぞ……ん?〝自重しろ?〟断る。
〜〜〜〜〜〜
「「「んあァァァッ!?!?!?」」」
「見事に拒否されたッスねぇ……御愁傷様」
「まぁ従う道理はねぇわなぁ」
そんなこんなでハデスがログアウトした後の某運営では、システム管理に奔走する職員達が絶望の声を上げていた。
〈アイテム紹介コーナー〉
コレは作者が思い付きで作った、主人公が使ったアイテムを偶に紹介するコーナーです(尚不定期に行います、気が向けば書きます)
ではドンッ!
――――――――
【悪夢のお菓子】
憎悪の生地に、たっぷりの血のクリームを、トッピングは赤い人の肉を、甘く蕩ける様な甘味を、そして悍ましい力を、弱き器は取り込まれる、しかし強き悪意はその力を形に出来よう。
ソレは"悪夢の化物"、意味の分からぬ悍ましい獣の姿。
――――――――
ハデス作消費型"呪物"、ハデスが現実で見た童話、映画を思い出し作った忌物、ハデス自身を触媒にせずとも"受肉"出来る物……例えば其処らに居る人間に食わせると……ハデス程とは言わないまでも相当強力な化物を作れる、アーサーや聖剣、魔剣持ちなら倒せる、頑張れば他の守護者でも……ハデスの場合は本編を見た通り"覚悟を持った者"に選ばれた者に"特攻"を付与します。
"悍ましき化物を討つは覚悟の勇士、アリスの担い手、首を刎ねて掲げ、心臓を穿つ者"




