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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第三章:燃える燃える、骸は燃える
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裁定の勇者と屍鴉の令嬢

――カチャッ――


「ん〜?……思ったより突破人数が少ないな……大体五百人か?」


かなり削られたパーティーも考えると……残存数は三百も満たないかね……つまらんな。


「まぁ最近彼奴等は退屈してたらしいし、ちょっとはストレス発散になるか?」


――ザシュッ――


『自分は奥に引き籠もって部下任せとは、何とも卑劣な悪人らしい』

(あの女の剣……アーサーの〝同類〟か、第二陣の連中にしては案外動けるな)


しっかし……こうも聖剣ポンポコ出されると世界のバランス崩れるだろうに……ふぅむ。


「……お、早いな、もう辿り着いたか」


女が扉を切り飛ばし、突入する……さぁ。


「黒鳥はどう踊るかな?」




●○●○●○


「……何だ此処は?」

「あら、あらあらあら……漸く来ましたのね……待ちくたびれましたわ」

「……貴様は」


扉を切り飛ばし、中へ入った女は、その光景に眉を寄せる……其処は室内だと言うの広く、殺風景な荒野の様相をしていた。


「うぅむ……野蛮な人間が相手なのは気は乗りませんが、選り好みはいけませんわね……」

「フンッ、魔物如きがよく喋る……降参しろ、今なら苦しまず殺してやる」

「……はぁ?……貴方、些か高慢ですわよ?」

「ッ!?」


――ギィンッ――


黒い服の令嬢がそう呟くと、ふと風を切って何かが飛翔する……それは黒い羽だった。


「まぁッ!…その剣、主様が言っていた聖剣ですわね?……成る程、確かに私達にとって毒となる様ですね」


――バサッ――


「ですが、殺し方等幾らでも有りますわ……主様も見ている様ですし、此処は1つ、主様に良い所を見せて御褒美を……フヘヘッ」


――ドッ――


「死ね」

「あら?……羽が無いのに飛べるのですね?」


――ブンッ――


「なッ!?」

「しかし空は私の物、翼を持たぬ有象は地に這いつくばるが良いですわッ!」


四方八方を黒い羽が埋め尽くす……それは風を受けて飛び交う凶器の嵐、逃げ場のない空中、そして身動きの取れない状況は、人にとって余りに都合が悪すぎた……だが。


「……〝裁定の聖鎧(ジャッジマン)〟」

「……それ本当に〝聖剣〟ですの?」


その至極当然な疑問の刃は、白く輝く聖なる鎧に防がれる……それは触れる黒い羽を容易く溶かし、悠々と地面に降り立った。


「〝悪滅の聖弓〟」


鎧は消え、その女の手には白い弓が握られる。


「今度は弓ですの?……ッ!?」


――ビュンッ――


放たれた光の矢、それだけを見れば少し変わった矢で済ませただろう……その〝数〟に目を瞑ればだが。


――ジュウゥゥッ――


「あぁッ!?私の翼が!?主様に褒められた翼なのに!?」


そう素っ頓狂な事を叫びながら落ちる令嬢を女は冷めた目で見ていた。


「クゥゥッ……流石に主様程の自己修復は出来ませんわね……まぁ良いですわ」


忌々しげに羽を瘴気で癒やし、令嬢は優雅に立ち上がる。


「そう言えばまだ名乗っておりませんでしたわね?」

「下らん、不要だ」

「私はグルーヴ……〝黒雨〟のグルーヴですわ」


グルーヴの自己紹介を待たずして、女が矢を放つ。


「貴方、聖剣について何処まで知っています?」

「ッ!?」


その矢はグルーヴの展開した黒い霧に防がれる。


「質問していますのに無礼な方ですわね……まぁ良いですわ、続きです……聖剣…いえ、此処では聖属性と……闇属性と定義すべきでしょうか?……その2つは互いに特攻の作用が有るのですわ」


立ち込める瘴気の霧が、黒い人の形を取る。


「力のより強い方が、弱い方を打ち破れる……この様に」

「……何だソレは」

「私の質問に答えなかった貴方が良く質問出来ましたわね?……まぁ良いでしょう、私は寛大ですので許しますわ……これは主様とヴィル叔父様が共同して御造りになられた品……御二方は〝人工魔装〟と言っていましたか……〝魔剣〟を神の力を使わずに再現した物、その試作品ですわ」


黒い霧の兵士が荒野を駆け、斬り掛かる。


――ギィンッ――


「ッ!」


聖剣と鍔迫り合いし、その隙に横から別の兵士が蹴りを入れると、女は地面に転がる。


「主様とヴィル叔父様が言うには聖剣、魔剣の所謂〝神造兵装〟は神の力を元に創られているが、その力の大部分は造り手の〝想い〟に左右されるのだとか……ですので、強力な力を別の物に置き換え、其処に主様が想いを込める、そうする事で出来上がったのがこの〝指輪〟」


――ズズズズッ――


「〝黒霧の愛輪〟ですわ……因みにコレは私命名ですの♪」

「聖剣を……造っただと……有り得ない」

「……はぁ、成る程……主様が失望する訳ですわ」

「何?」


女が放ったその一言、それを聞いた途端、それまでハツラツとした活発な美しい顔が失望の色を示した。


「神が造ったから他には出来無い、神がそう言ったからそれが正しい、神に選ばれた己は正義だ……何とも浅ましく、愚かな思い上がり……何とも壊しがいのない〝光〟でしょう?」

「黙れッ」

「昔の私ならそれで満足したでしょうね……ですが、主様と出会い、数多の人を見た今では……貴方に何の興味も湧きませんわ」


――ギィィッ――


グルーヴがそう言うと、扉が現れる。


「さっさとお帰りなさい」

「」


――ギィィンッ――


「……はぁ、そうですか、ならば死ね」


その目に憤怒を宿して、憎悪を宿して、グルーヴへ斬り掛かる女……それすらもグルーヴは冷たく見ていた。


「ッ……ガハッ」


生み出された兵士が女を襲う、殴り、蹴り、斬り掛かり……それを辛うじて耐える女……。


「勇者なのでしょう?正義なのでしょう?…何を手古摺っているのです、早く切り捨て、その切っ先を私に向けて御覧なさい」

「〝処刑の聖槍〟」


聖剣が槍と化し、霧の兵士を斬り殺す。


「さぁ、まだまだ踊りはコレからですわよ?」


その言葉を皮切りに、霧は渦巻き、兵士が無尽蔵に湧き出し、女の勇者を押し潰しに迫る……筈だった。


「〝聖剣開放〟……〝審判の秤、悪滅ぼす執行者、救済の刃、裁定の聖剣■■■よ、眼前の罪人へ裁きの鉄槌を〟」


聖剣は霧散し、荒野に大きな白い十字が浮かび上がる。


「〝裁定者の鉄槌(ジャッジマン・ロア)〟」


その十字は振り降ろされた手と共に落下し、膨大な光の奔流となり荒野を満たした。









――ブシュゥゥゥッ――


「……腐っても……聖剣と言うわけですか……つくづく邪魔な代物ですわね」


己を包んでいた翼、それをボロボロにして、辛うじて無傷なその状態で、グルーヴは不愉快そうに、その女を見ていた。


「……」


ボロ切れの様だった姿は既に無く、まるで無傷なその姿で、飄々と此方を見据え、切っ先を向ける女。


「これだから聖剣は……分不相応に与え、力を奪う……悍ましい神の枷ですわ」


そう吐き捨て、膝を付くグルーヴを真顔で冷たく見据える女は剣を振り。


――ズパンッ――


グルーヴを切り裂いた。


――バキンッ――


それと同時に、部屋は荒野から燃え盛る一室に姿を変える……それを認識すると、女は扉へ歩み始めた。



北館の守り人グルーヴは討たれ、王へ至る封は解かれた。



○●○●○●


「つまらん幕引きだな」


グルーヴと女の戦い、その感想はこれだな……つまらん、グルーヴの熟達した術の腕を、聖剣の能力1つで消し飛ばす……さぞかし全能的な優越感に浸れるだろうさ。


「全く気に入らんな」


だがしかし、ゲームが全て良い事で構成される訳が無い……この苦渋は必要経費と思おう。


「議題はそうだな……魔力消費無しの死霊回復アイテムか、アレが無ければグルーヴもまだやれたな」


最悪なのはあの光の奔流で霧が放出できなかった事と魔力を全力で治癒に回していた事だな……グルーヴ含めて彼奴等は自己治癒の精度が甘い、コレは別で補うのが良いな。


「……ま、何はともあれ勝利おめでとう、一応祝福するよ」


不本意極まるがね。

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