怒れる竜とイカレる悪魔
――バキバキバキッ!――
「グルァァァァ!!!」
――ドガァンッ!――
「ガアァァァ!!!」
――ブンッ、ズバンッ――
「※※※※!!!!」
「自重しろ馬鹿!」
荒れ狂いながら馬鹿みたいに攻撃の雨を降らせる火竜にそう言いながら逃げる……通った箇所を薙ぎ倒し、吹き飛ばし、時偶吐くブレスは森を焼いていく。
(セレーネの所からは大分離れたか)
5分も追いかけっこしたんだ、ステータスを考えれば当然か。
(しかし、しかしどうするか……相手には微量のダメージしか与えられん、硬い防御力にトンデモ火力、広範囲の炎ブレス……フェイディアも傷は与えられるが軽いし……今の状態だとマトモに攻撃を通せない)
唯一殺す方法と言えば……〝自滅〟か、先のブレス誘爆然り、竜自身の攻撃でならばダメージは与えられる、問題は――。
「グガァァァァ!!!」
――ゴォォォッ!――
(ブチ切れてもそこまで馬鹿じゃ無いことだよなァ)
暴れまわっても自分の攻撃に当たりに行くことはしない、当然だそんな間抜けなら疾うの昔に滅んでる。
『で有るならばやはり“逆鱗“に攻撃を加えるのはどうだろうか』
(逆鱗?……あ〜確かそんなの有ったな?)
確か昔の伝承か何かで、“竜の力の源“だとか“全神経の集まる箇所“だとか“宝物の隠し場所“だとかで……確か喉の辺りに…。
「あ、有った」
首の喉の辺りか、その辺りに1つ形の違う鱗を見つけた………多分彼処が逆鱗だな。
「問題はこの激怒クソトカゲの猛攻をどう凌いで逆鱗に攻撃するか……だが」
現状俺の単体火力じゃキツイんだよなぁ………ん?
「あ、俺死霊術師だったわ」
忘れてた……いや、ブレス防ぐのに使ってたのに何で忘れた?
「まぁ良いや……〝百屍:屍人死獣百鬼夜行〟」
周囲から百の死霊を呼び出す、まぁ足止めに成るかどうかだが……さて、まだまだ。
「〝一屍:鏖殺に咆える黒鬼〟」
自身に死霊術を使う、瘴気が溢れ出し、身体を黒に変えられていく。
「グルゥッ!?」
「お、始めての色だな?」
俺の変貌を見た火竜が始めて警戒を顕にする、百鬼夜行には目もくれず雑に処理しながら……つまり、つまりだ。
「少なくともコレは、お前にとって〝面倒〟な事なのか?」
尾を避け爪を避け肉薄する……頭に。
「ガァ――」
「もう遅い、目前でブレス溜めるとか舐めてんのか?」
また顎をカチ上げる……ドムっと沈む感覚を受け、口が閉められる。
「クハハッ、成る程確かに良く通る……さっきより、だが」
煙を吐きながら、俺を睨む火竜、その口から赤い雫が垂れる。
「何だ、舌でも噛んだかトカゲ」
「グルァ……」
お、色が変わった……〝怒り〟に加え〝殺意〟も乗ってきたか。
(ふむ、しかし……コレは少し面倒な)
恐らく、今の一撃で怒りが少し萎えたのだろう、怒りが収まり、その動きに冷静さが戻って来る。
(こうなっては煽ろうが無意味か、仕方ない)
地道に削るか………ッ!
「ガァ!」
「マジィ?」
次の瞬間、俺の背後に火竜が現れる……眼の前の地面が砕けたと同時にだ、寸での所で躱せはしたが。
――ブシャァッ――
腕から血液が飛び散る……喪失感と痛みが走る……俺の目の先では、口をモゴモゴと動かし、瞳に愉悦を映すクソトカゲ……〝腕を食い千切られた〟。
――ペッ……――
――ベチャッ――
「オイオイ、人の腕喰っといて吐くなよ……喰われる気は更々無いが流石に傷付くぞ?」
(でもヤバいな〜……流石に種族の身体能力差をシラフで使われると面倒臭い……其の為に怒らせたんだが……やり過ぎたか?)
『で、どうするんだ主よ』
――グチュグチュ――
「依然変わりない」
殴って〝喰う〟、削りながら進化を目指すしか無いだろうな……ハードな勝負だが。
「クフフッ、熱くなってきた♪」
こうで無ければ面白く無い。
「言っておくがクソトカゲ」
――ダッ――
「俺は死んでもお前を殺すぞ?」
この身体が壊れてもな♪
○●○●○●
「〝十屍:その身縛るは二十の屍腕〟」
〝虫〟が吠える、俺の身体を下等な腕が触れる……不愉快だ。
――ブチブチブチッ――
「〝百屍:百身百魂混合一鬼〟」
引き千切ったその直後、1つの影が俺へ迫った、そして――
――ゴンッ――
俺の鱗に棍を打ち付け、俺を少し蹌踉めかせた……〝死肉〟如きが俺へ攻撃する事が堪らなく不愉快だ。
――ザクッ――
「ふぅむ……百の魂、百の肉、1つに固めて1つだけに力を与えるとかなり強くなるな……焼け石に水程度だが、量で攻めるよりは使えるな?」
何より不愉快なのはこの〝虫〟だ、低等な雑魚の分際で生意気にも俺の攻撃を躱し、俺へ怖れ崇めもせず、愉しげに俺を見ている……何よりコイツは俺へ血を流させた、同族でも上位の存在でも無い、ただの塵がだ。
「動きが止まった?……ブレスの気配も無し、何のつもりだ?」
耳障りな声と共に、身体に傷が増えていく……怒りが湧く、しかも徐々にコイツの攻撃はその威力を増していく……〝許せない〟…〝許せるものか〟。
――ザクッ――
「ガァ――」
「3度目――ッ!?」
喉に力を込める、すると虫がまた来た……しかし、その瞬間虫の目に驚愕が写った……ソレが堪らなく心地良い……だが。
――ゴォォォッ!――
「火を纏――」
――ブンッ――
その程度では足りない、無様に、醜く、愚かに死ね。
――バゴンッ――
地面に叩きつける、尾で、何度も、何度も。
――バゴンッ、バゴンッ、バゴンッ――
何度も何度も何度でも、執拗に、念入りに。
――バゴンッ、バゴンッ、バゴンッ――
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も叩きつける、地面が砕けても、俺の気が済むまで……。
〜〜〜〜〜〜
――バラッ……――
ソレから十数分後、漸く気が済んだ時には空が赤く変わっていた。
「グルルルッ♪」
さぁ、気が済んだ事だ、今度はあの赤い虫と、羽虫共の番だ、俺を倒すだとかほざいたツケ、何倍にもして返してやる……。
●○●○●○
―――…………―――
火竜が飛び立つ……その惨状を残して……大地は荒れ、木々は薙ぎ倒され、その場に生命の欠片1つと無い、ましてやその猛攻に晒された哀れな〝虫〟など、原型も留めて居まい。
――ドクンッ――
事実、あの猛攻をセレーネが受けたならば無事で済まない、確実に死ぬだろう、それが例えどんな人間でも、死霊の長達でさえ。
――ズルルゥッ――
――ゴポッゴポポッ――
周囲に飛び散った血液が、一人でに動き始める、それは肉片へより集まり、心臓の鼓動を奏でる。
――ズズズズッ――
『クフハッ……クハッハッハッ♪』
何処からか笑い声が響く……愉しげに、心底愉しげに。
『ケヒッ♪ケヒッヒャヒャヒャヒャッ♪』
影が肉片を包む……笑い声は続く、無邪気な笑い声が、徐々に、徐々に狂気を帯びて行く。
――グチュグチュグチュッ――
『ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラッ!!!!』
狂笑は止まること無く沈み掛けの太陽と赤らんだ空に響き渡る……肉を掻き混ぜるながら、その形を大きく、悍ましく、醜く歪めながら。
――ドクンッ!――
『「■■■■■■■■■■」』
○●○●○●
「ハァ……ハァ……あの……馬鹿野郎……結局倒せてねぇじゃねぇか!?」
「グルァ♪」
湖に近い森の中、セレーネは苛立たしげに悪態を吐く、それはそうだろう、戦いを愉しむ者において、その竜の行為は侮辱に映ったからだ。
「グラァ、グラァ♪」
『駄目!』
そんな声を上げながら、ヨロヨロと爪を振るい、当たりもしない尾を振るう、かと思えば木々を薙ぎ倒し、精霊の静止の声を無視してゆっくりと森を壊していく。
「巫山戯やがってあのクソトカゲ……ッ」
セレーネが大地を踏み砕き、竜の身体を殴る……硬い音と共にセレーネの拳が跳ね返される、それを竜は嘲りながら見ていた。
「グラァァ?」
セレーネの拳を受けて、そう声を洩らしながら、態と顔を近付ける、まるで無駄だと言う様に。
――ペチャッ――
「グラァ?」
そして顔を近付けた時……ふと竜の目に何かが掛かった……それは透明な粘体。
「ハッ、クソトカゲ、コレでも舐めとけバァーカッ」
セレーネがそう言いケタケタと笑う……そして、その粘体の〝正体〟に気が付いた竜の顔が見る見る内に血走っていく。
――グルァァァァッ!!!――
荒れ狂い、そう吠える竜にセレーネが嘲りの声を上げる。
「人を舐め腐るからこうなんだクソ野郎……〝神落〟」
そして、セレーネの攻撃が吠える竜の横顔を殴りつけ、地面に倒れさせる……土埃が上がり、一瞬だけ静寂が包んだ……だが。
――ビュンッ――
その瞬間、セレーネが吹き飛ばされる……木々を薙ぎ倒しながら、地面に転がり……そして四肢を砕かれ、座り込む。
「グルルルル……」
その様相を憤怒の声を上げながら迫る火竜、その姿を真正面に捉えながら、セレーネは尚好戦的な笑みを止めない。
「ハッ、地面に張り倒されただけで狭量なトカゲだなぁ?本当に竜かぁ?」
「グルルル……」
「どうした癇癪竜、また唾でも吐かれたいのか?」
「グォォン」
怒りと愉悦を目に宿しながら低く唸る竜、その意図に気付いたセレーネが、馬鹿にしたようにそう告げる。
「謝る訳ねぇだろトカゲ野郎、間抜け面が笑えるぜ」
「………グルァ」
――ブンッ――
そしてその尾はセレーネに振り降ろされ……。
「『手酷ク殺らレたナァ……セレーネ?』」
――ブチィッ――
横から千切り取られると言う結果に終わった。
「ッ!?……ハデス………なのか?……お前……?」
「「オイオイ、何処ヲどウ見てモ俺だろうガ……寝ぼけてンのか?」」
その姿を見て、セレーネは呆然とそう呟く……声は確かにセレーネの良く知る男だ……声は、だがその姿は余りに掛け離れていた。
――グチュ……グチュ……――
「グルルルル………」
火竜は突如現れた〝ソレ〟に警戒を見せながら、尾を再生させる……それを〝複数の目〟で眺め、口を歪めて見る〝ソレ〟。
「「「「オォ、何ダ、再生出来るノか……増々トカゲだナぁ?……まァ良い」」」」
それは無数に、至る所に生えた眼を瞬きもせずに動かして竜を見据え、その巨躯の至る所に生えた口で悍ましい声を並べながら、その六の羽を伸ばす。
「「「「第3ラウンド、開始と行こウか、クソトカゲ」」」」
悍ましく、醜い、千の屍を混ぜ合わせ創られた竜で在った。




