白の鬼と黒の鬼
拠点間に転移門を繋げに行った、タラト含む四人の性質が垣間見えて中々面白かったよ。
バリッドのは屋敷の周りに罠を張り巡らせた……そうだな、戦場要塞?連結トーチカ……取り敢えず、対外敵に目を向けた戦闘向けの拠点だった、名は〝戦猪の要城〟、良いネーミングセンスだ。
ディヴォンは湿地帯に不気味に鎮座する洋館風、周囲を湿地帯の湿気った霧で視認性を下げ、幾つも視線を誘導するような物を作っている、見た目は子供だが、やはり狡猾さは健在な様で、中々楽しかった……忍者屋敷の様で、因みに名前は〝白蛇の家〟、シンプル。
グルーヴのは、〝屍御殿〟に似た黒い屋敷、中は、とても美しい調度品で飾られ、しかし何処か恐ろしげな、畏怖と美を感じさせる、気品ある令嬢の様なグルーヴに、とても良く似合う拠点だった……名前は〝黒愛の館〟。
「どれも特色が濃く、それでいて求められた機能は満たした、素晴らしい拠点だったな」
現在屍御殿、各々が自由行動(タラト&グルーヴは俺の研究室に籠もりっ切り)、イベント開始まで一週間を割った現在、最終調整に入って居る段階だが。
「………」
「………」
俺の隣で……そう、俺の隣で、じっと…じぃっと見つめてくる緋色の双眸……随分と熱烈な、思わず身震いするような激情の籠もった眼。
――ギギギギッ…――
「……近イネ?」
「………そうか」
……近い、さっきまで1、2メートルは離れていた距離が、既に手を伸ばせる位置に。
「……」
「………」
目を逸らして、再度見る……さっきまでの距離よりも更に近い。
「……如何サレタ?」
「別に」
…………。
――チラッ――
「………」
「………」
最早何も言うまい……一言言うなら、メンチ切ってる輩か、或いは熱々のカップルの距離である、鼻がくっつきそうな程近い……それに気の所為かな?殺気が凄い。
「……流石に離れてくれるか?このままでは動いた拍子にキスしかねない」
「………暇だ」
「そうだな、でも少しやることが有るんだが」
「私は今回、何も出来ない、見てるだけだよな?」
「……まぁ」
「新設の拠点を見に行く道中で、戦った奴等は弱過ぎた……すっごい暇だ」
「つまり?」
「私とヤレ」
「……今?」
「今」
「何処で?」
「此処で」
オーケー……つまり闘争本能がゲージを振り切ったのか、オーケーオーケー。
「……仕方無いか」
――ガシッ――
「流石に此処を壊すのは困るからな、〝中へ来い〟」
――グパァッ――
セレーネの手を掴み影が覆う……そのまま暗闇に意識を落とし……。
――グチャッ――
俺とセレーネは心象世界……肉とそれに突き刺さる血濡れの武器の無限回廊に立っていた。
「ようこそ俺の世界へ、始めに言っておくと此処は精神だけが居る、現実の肉体とは無関係、つまり死ぬ事は無い、しかし攻撃は死ぬ程痛い、ちゃんと相応のダメージは受ける、オーケー?」
――ドォッ!――
――ブパァァンッ――
「取り敢えず早く殺ろうぜ!」
「オイオイ、流石に不意打ちの全力攻撃は洒落にならんな……腕が一本オシャカだ」
「不死身の化物が何言ってやがる」
「不死身でも痛いものは痛いぞ?」
「そんな風に見えねぇなァ!」
説明終了と同時に発射された緋色の弾丸、控え目に言って重く、鋭い一撃に辛うじて差し込んだ腕が千切れ飛ぶ。
「一応聞いておこうか、〝殴り合い〟? 〝殺し合い〟?」
「どうでも良い!」
――シュッ――
「それじゃあ〝殺し合い〟で」
「ッ!?」
跳び進むセレーネの真ん前に〝移動〟し、そのまま蹴りを入れる。
――ブチブチブチッ――
「――ックゥ……テメ、ソレ〝転移〟かッ!?」
「正解……まぁ、色々と特殊だが」
何とか衝撃を殺したセレーネの背後へ回り、再度蹴り飛ばす……む?
「捕まえた――ッ!!!」
蹴り込んだ瞬間、脚を掴まれて、壁へ投げ飛ばされる……そのまま壁に激突し。
――ドシュドシュドシュッ――
受け身を取る暇すら無く、そのままセレーネに心臓を剣で貫かれ、そのまま抉り斬られる。
「痛いな」
セレーネを弾き飛ばしながらそう呟く、幾らシステムで軽減されていようが流石にこの攻撃は痛い。
「〝百屍:屍人死獣百鬼夜行〟……偶にはセオリー通りに動こうか……〝行け〟」
百の人獣屍がセレーネへ駆ける。
「〝激動の赤鬼〟」
セレーネのその一声、そして一斉に集り飲み込む屍の群れ、しかしその瞬間。
――ボシャッ――
「……嘘ん」
俺の視界は潰れた……セレーネの拳によって。
「『その姿……〝技名〟……物理系の中で〝身体強化〟って言うのが有ったよな?』……アレは一定時間自身のステータスを引き上げて期間終了で一定時間半減させる……今回のはソレの延長か?」
「一発で当ててくんなッ!7割正解だ!――」
「あぁ、成る程」
セレーネの紅いオーラが止み、一転して蒼いオーラを纏う、それと同時にフッとセレーネの姿が掻き消える。
――ガシィッ――
「〝色鬼〟……効果はそうだな、〝対応した色のステータス変動〟、或いは〝調整〟か?」
「本気でどうなってんだお前の頭?」
「俺も分からん」
背後から無音で振るわれた拳を掴み止める……ふむ、やはり威力は赤より劣るか。
「しかし、そうか……魔術、武技、その何方も進化や変化は有るのか、そうだろうな、魔術に拡張性が有って武技に無いのは妙な話だよな」
イカンな、セレーネのストレス発散に付き合うだけだった筈なんだが……クフフッ♪
「少し楽しくなって来た」
セレーネの振るう拳に拳を合わせ、その衝撃で飛び退く……。
「やはり、お前は良い、セレーネ、見ていて飽きないな」
「……褒めてるのか?」
「あぁ、これ以上無い程に」
やはり、この世界は面白い……セレーネの様な〝宝〟がまだまだ眠っては居ないだろうか。
――ドガッ――
「っとイカンイカン、物思いに耽っていた……悪かったなセレーネ、お前の衝動に充てられて、少し昂ってきた」
「ッ!ニヒヒッ、良いねぇ!漸く本気で――」
「あぁ、付き合ってやる」
「ッ!?」
一瞬で間合いを詰めて殴り付ける、がセレーネがギリギリで防御を挟む。
死霊術のセオリー?大量の死霊による物量攻撃、大いに結構、それも1つの戦法だし、俺も好きだ。
「だがやはり、こういう異端も悪くはないだろう?」
「お前……ソレ」
死霊術における死霊の作製……質の悪い死霊を雑多に創り圧殺するか、或いは文献の屍龍の様に強力な個を一つ創るか……何方も正解だが。
「何故、自分に使うと言う発想に至らないか……簡単だ、〝人で居たいから〟だ」
だから気付かなかったのだろう、俺の前に存在した死霊術師共は、この術のポテンシャルの高さを、ただ作り襲わせるのではない、〝屍を支配する〟術の汎用性を。
「〝一屍:鏖殺に咆える黒鬼〟」
自身に扱う死霊術……この場に無限に存在する屍を俺へ寄り集め、混ぜ合わせ、制御し、形造った……1つが欠けた双角、内に秘めた膨大な怨恨の念、肢体に内包された力の塊。
「殴り合いならば、やはり全身全霊、全力が一番楽しいだろう?」
「オイオイ、そりゃ狡だろうがよ」
「その割に随分と楽しそうじゃないか?」
そうだろうな、お前なら、この圧倒的な力を内包した〝ソレ〟を前に、退く等あり得んだろうな。
「〝猛り笑む白鬼〟」
狂戦の笑みを浮かべる、緋色の髪を靡かせる白鬼。
対するは。
無垢な狂笑を浮かべる、黒い髪の黒鬼。
「時間が少ないし、さっさと始めるぞ?」
「……オーケー、やろうか」
―― ――
そこからは、何も言わず、何も躊躇う事も無く。
――ドガァァンッ!――
短く、面白い、〝殺し合い〟が始まった。
〜〜〜〜〜〜〜
「「………で?」」
現在、屍御殿にて、セレーネとの〝戯れ〟を終えて戻った所、グルーヴとタラト、その背後にはベクター達の全ての幹部達が居て……俺は正座させられていた。
「〜〜〜♪」
その横で、椅子に座りご機嫌な様子で菓子をつまむセレーネ……何故俺だけ?
「もう一度説明してくれますか主様?」
ニッコリと良い笑顔で問い掛けるグルーヴと、真顔で、それはもう能面の様な冷たい顔で俺を見るタラト、対極な見た目なのに背負う〝鬼〟は同じな二人の問に、俺は正座を余儀なくされた。
「何故、セレーネさんと、二人でくっ付いて、イタンデスノ?」
「クワシク、キキタイネ」
「………ストレス解消?」
――ビシッ――
オイ待てセレーネ、その言い方は誤解を生――。
「「有罪!」」
「……」
「「「「……行ってらっしゃい(ませ)」」」」
どうやら、四面楚歌、孤立無援らしい……ベクターめ、知っていて黙ってるな、何て性格の悪い奴なんだッ、一体誰に似た!?
――パリーンッ――
こうして俺は、怒れる二人に誤解が解ける間、ボコボコにされたのだった。




