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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第二章:悪夢に足掻く者達
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巡る悪意②

『目覚めよ』


その声に、男は目を覚ます……そして、その場の異常を一目で理解した。


「現実か?」

『否、此処は我の心象世界、主を呼び寄せたのだ……我を手にした者よ』

「………テメェは何者だよ」

『我は生命に非ず、人に非ず、獣に非ず……ただ担い手に力を与える〝対価の指輪〟也』


その声がそう言うと、暗闇から指輪が現れる。


「対価の指輪、ねぇ……その指輪が俺に何を求めるんだ?」

『何も、我はただ貴様の行いから生まれた〝力〟を喰らう、そして力の一部を貴様に還元する道具で有る』

「あ〜? じゃあ何時も通り殺しまくれば良いのか?」

『左様』


男はその声に口角をグチャリと歪ませ、その指輪を嵌める。


「殺せば力が貰えるんだろ? それじゃあ細かい事はどうでもいいや」

『話は終わりだ』






●○●○●○


『目覚めなさい』

「んん……んぇ?………ッ!?な、何よ此処ッ!?」


冷たい水の様な声に目を開く修道女は、その真っ暗な光景に眠気を帯びた脳を覚醒させ、悲鳴混じりの声を上げる。


『此処は私の心象世界、私を身に着けた貴方を此処に呼んだのです』

「み、身に着けた……?ってソレは!?」


修道女は暗闇から目の前に現れた蒼い指輪を見て金切り声を上げる。


『私は〝対価の指輪〟、貴方は私に選ばれた、貴方が私に対価を払うならば、相応の報酬を与えましょう』

「た、対価……?何よソレ!」

『この街から離れない事、私を着け続ける事、それだけで良いのです』

「……本当でしょうね」

『ええ』


それを聴いた修道女は指輪を嵌める。


『対価を払えば報酬は与えられる、努々、忘れない様』




○●○●○●


『起きろ、担い手』

「………はっ!?こ、此処は」

『落ち着け、俺の所有者よ』


暗闇で、声と共に目覚めた男はその光景に動揺する……しかし、その暗闇から現れた黄色の指輪を見て、目を丸くする。


『俺は〝対価の指輪〟、幾人もの手を介して、お前の前に居る、お前は俺に選ばれたんだ』

「何?」

『お前が一番俺を使い熟せるって事さ、お前が望み、俺へ対価を差し出すのならば、俺はその願いを叶えてやる、故に〝対価の指輪〟である』

「……何でもか?」

『お前達に出来ない事も全て、だ』


念押しする男に指輪が無機質に答える。


『俺の力は着けなければ扱えない、けして肌身から離す事の無い様に』




●○●○●○


『目覚めなよ、新たな所有者君』

「ッ……な、んだ……此処は」


暗闇に、青年が立ち上がる、その何気ない呟きに声が届く。


『此処は僕の心象世界、新たな所有者君を歓迎する為のね』

「所有者だと?」

『そう』


そう言うと、暗闇から緑の指輪が現れる。


「なっ!?〝意思持つ道具(アルテマ・ウェポン)〟だと!?」

『僕は〝対価の指輪〟、与えられた供物を喰らい、相応の力を貸す、そういう機能を有した道具、君は僕に選ばれた、優秀な森の民、至上の生命である君はね』


無機質な声はそう言う、すると森人はその言葉に顔を良くする。


「当然だ、我々は精霊を使役する森人だ、選ばれるのも当然だな」

『僕は君に力を与え、君は僕に供物を与える、ある種の共生関係と言える物が、我々の繋がりである、指輪を外せば効力も消える、けして離さない事だよ』




より悦楽に。


より貪欲に。


より怠惰に。


より傲慢に。



四人は超常の現象故に、その思考を放棄した……否、そんな奴等を〝ソレ〟は選んだのだ。



悪夢は着実に、迫りつつある。




○●○●○●


「それじゃあ、タラトの御手並拝見と行こうか……」

「………フフフッ、期待すると良い、主、私が彼等に無茶して創り上げたこの砦をねぇ!」


現在、俺は西エリアの一つ先、〝誘霧の樹海〟へ来ていた、道中合流したタラトと拠点へ共に向かっていたのだ。


「GIGI!!!」

「しかしコイツ等、鬱陶しいな」


無造作に迫る影を振り払う、紫の血液を撒き散らして死に絶える蟲を見てそう呟く。


――――――

毒吐蟲人ポイズン・インセクト・ヒューマン】LV:25


生命力:6000

魔力 :3500

筋力 :4000

速力 :5500

物耐 :4000

魔耐 :3500

信仰 :1500

器用 :4000

幸運 :1500


【保有能力】

〈悪食〉LV8

〈毒耐性〉LV8

〈威嚇〉LV3

〈毒生成〉LV:5


―――――


「数は多い、身体の全てに毒を持っている、その毒も並の生物なら致命的なダメージ、出回ってる解毒剤では遅延させるので精一杯……その上この数だ、人が近寄らないのも納得さ」

「森人は薬品関連にも強い上、遠距離からの攻撃、魔術による範囲殲滅も得意……此処が要塞として運用されるのもまぁ解るな」


エルフの国が存在するのは、西に広がる広大な大森林の中、最も侵入がしやすい浅瀬でさえ、こんな厄介な敵が蔓延っているんだ、何とも恐ろしい奴等だよ。


「マトモな侵略戦術が取りづらい事この上ない」

「並のモノなら、だけどね……私も調整を手伝ったとは言え、中々酷いよね、アレ」

「傍目から見れば普通の宝飾品だからな、しかもデフォルトで鑑定偽装が入ってる」

「君の魔力のせいだろうね」

「せいではなくお陰と言ってもらいたい」


――ヒュンッ――

――グパァッ――


「〝十屍:深淵の大口(アビス・イーター)〟」

「〝十手の糸遊び〟」


タラトが手を動かすと、大量の糸が荒れ狂う、それは蟲と木を切り飛ばしながら収縮を繰り返す。


そして、落ちて行く蟲の死骸、辛うじて生きた蟲、運良く無傷な者……その幸運な生き残りを、大地蠢く黒い闇が貪り食う。


「う〜ん、苦い」

「味覚も共有出来るんだ、便利な身体だねぇ〜」

「何と言うか、舌がビリビリする、口に麻酔喰らった感覚だ」

「毒だよね、効かないとはいえ毒蟲食べるのはどうかと思うよ」

「お前も喰ってたろ」

「私は魔物だったし」


と、至極当然なツッコミをタラトに受け、暫く進むと……。


「此処だよ」

「ふむ……此処か」


不意に立ち止まるタラトの声に、俺は目を凝らす……確かに、微弱だが瘴気の残穢は有るが、次第に薄れて消えるだろう……一見普通の森の中だが。


「魔力が感知出来ない……気配もか?……幻覚、幻惑の類では無さそうだ、魔力の干渉を受けない……となると地面か?」

「フフフッ、正解ッ……主、この朽ちた樹の所に来て?」


タラトの指示に従い、其処へ向かう。


――ドンッ――


「それじゃ、レッツゴー♪」


タラトが抱き着きそう叫ぶ、横からの衝撃に脚を取られ、そのまま滑るように落下を始める身体。


――ヒュォォォッ――

「アッハハハッ!楽しいね〜!」


興奮したようにそう笑うタラトを抱えながら滑ること数秒……不意に光が差し込んだ。


「とうちゃ〜く!」

「ほぉ……コレは……如何にもタラトらしい拠点だ」


タラトが拠点に背を向けながら俺を見る、清潔な石造りの空間、周囲を等間隔で照らす証明、けして派手ではないが、かと言って殺風景とも言えない内装、シンプルな上品さと言うべきか?タラトの着飾らない美しさを体現した様な拠点に、思わず感嘆の声を上げる。


「フフン!実はまだ少し作業が終わってないんだけどね!凡その機能は備えてるよ!」


タラトに手を引かれ、案内を受ける。


「この場所は眷属達の住居スペースであり、侵入者殲滅用のキルゾーン」


厳重なセキュリティと複数の監視死霊による常時監視、常在する死霊も質の良い者ばかりだ。


「彼処で処理しきれなかったら魔力障壁と土の防壁でシャットダウンして、殲滅用のトラップと上位死霊で討伐する流れを作ったんだ……そして、此処が各幹部の部屋、内装も各々に合う物にしてるよ、その先に会議室……で、最後が主の部屋と僕の実験室」

「ふむ……魔力察知と気配察知が効かなかったのは距離のせいか、成る程」


20メートル落ちると感知系は不発するのね。


 「入口はあの樹の穴だし、罠察知にも引っ掛からないよ」


そうドヤ顔をするタラトと職人達。


「出口は?」

「此処に作ったエレベーターから上がってね、ちゃんと自然に隠蔽された場所から出るからバレる事もないよ」

「成る程……それで、此処の名前は?」

「〝隠森の研究所〟でどう?」

「良いね、それ採用……さて、と」


――ズルッ――


「此処をこーしてあーして……で、此処の魔力を混ぜて、術式に流し込んで……で、固定、登録名は〝隠森の研究所〟……よしよし、オーケー」

「主、それは?」

「〝屍御殿〟との転移門、拠点間の移動に使えるだろう?」

「………〝転移門〟?嘘、ホントに?」

「おう、解析に無茶苦茶時間掛かったけどな……下手に使うと惨殺死体に早変わりするから、手間取って手間取って」

「……ぃ」

「ん?どうし――」

「ズルい!私も混ぜて欲しかった!」

「いや、だから難しいんだって、まず特異魔術の性質から理解しないと始まらないんだ、お前が加わったら遠征出来んだろ、これだって昨日に漸く使える様に――」

「じゃあ!じゃあ教えて!私も使いたい!」



……コイツ、こんな子供っぽかったか?

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屍御前と屍御殿どちらが正しいのでしょうか……?
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