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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第一章:獣の厄災と強欲の魔女
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獣の軍靴と強欲者②

「………何だ?」


その異変に最初に気が付いたのは〝円卓〟が指揮する北方だった、獣の群れは着実に勢いを削がれ、獣達の中には逃走を試みる者も居た、だが。


「森が震えている?」

『やぁやぁ、聞こえているかねアーサー君』

「ップロフェスさん、実は――」

『言わずとも既に調査隊を派遣している、この街を中心とした東西南北から〝アレ〟の出現が確認された、想定されたモノよりも大分早い、足の遅い魔物が捕食されている』

「……」

『私個人としては〝アレ〟の行動変化が気にな――何?見せろ!』

「ッ!?どうかしたんですか!?」

『いや、例のサンプルの鑑定に成功した……アレの名前は〝貪食寄生蟲獣〟、蟲ベースのキメラだ、テキスト及び実際の検証でその性質の幾つかが判明、〝異常な生命力〟と〝硬い皮膚〟……攻撃性能は私達は問題ない程度……しかし一般には危険だ……ふむ……アーサー君、例えば君の〝アレ〟は屍を塵1つ残さず消せるかね?』

「出来ませんが……何故?」

『私の推測だが……恐らく〝アレ〟は〝女王個体〟だと思うよ、繁殖の為に餌を求めている筈だ』

「〝餌〟……成る程、そういう事ですか」

『既に全方角の面々に伝達している、再三言うがアレの目的は餌の確保、我々はその絶好のカモなんだ、急ぎ焼却したまえ、アレとの邂逅は1時間程しかない』


●○●○●○


「〜〜♪お〜良々、美味いか?」

「キャーッ♪」

「ソレは良かった」


現在俺は、防壁の上に腰を降ろし、戦況を眺め……るのでは無く、その最中に懐から孵化した〝幼蛇〟(名前はアジィと決めた)に餌の肉と虫をやっていた。


――カプッ――


「ん?どうした、まだ食い足りんのか?」

「キャーッ?シャーシャーッ」

「ん?……あ、気付いたか」


四方のカメラに視界を通し、戦況を見ると、乱戦の中で、魔法でアイテムで、各々のプレイヤーが死骸を燃やしたり、運んだりしていた。


「ふぅむ……やっぱ例のプロフェスか?……しかしこの数の骸を破棄されるのは困る」


「〝回収人(コレクター)〟、死骸を回収しろ……気づかれん程度にな」


影の中から死霊を出す、それは今までとは異なる形状の死霊。


――ベチャッ――


『『『『………』』』』


人型でも獣型でも無く、不定形で蠢く、肉と骨の塊の様な〝死霊〟。


「〝運び屋〟、コイツ等を運べ」


〝回収人〟。

形状は語った通り、不定形であり悍ましい見た目だが、その性能は名に相応しい、輸送、回収に特化させた死霊、体積の何倍も取り込める身体、攻撃性は無いが俊敏さはそれなり、代わりにコストは高いが優秀な死霊だ。



「しかし、ふむ………存外粘ったなぁ、あれだけの戦闘で被害は守護者が1割、やはり〝知恵〟と言う分野において、連携能力の高い人間と言う種族は優秀だな」


良くも悪くも……ではあるが。


「まぁメインディッシュはこれからだ、気張れよ人間……さて、またつまらん光景が続くのを見るのは時間の無駄だし……丁度ティータイムだ、ベクター、茶の用意を」

「了解致しました」

「キシャーッ♪」




〜〜〜〜〜


――カチャッ――


「お?アレは……〝タマモ〟の所の……」

「確か主様の同胞でしたか……アレは……荷馬車ですね」

「フッ♪成る程、商魂逞しいな」


運搬能力の貸出……守護者はインベントリと言う便利な保管能力を持っている……しかしインベントリに入れられる、いやスタック出来る数は職業によって異なる、俺の場合本領なので〝固有〟の物以外はスタックが出来る、ボス素材や、セレーネの様な〝強力な魂〟は対象外だ、つまり彼等はそう多くの死骸を入れられない。


一刻も早く死骸を処理したい彼等にとっては渡りに船だろう、高値で貸し出したか、安く魔物の素材を仕入れる腹積もりなのか……何れにしろ上手くやっている。


「流石だな、アイツに〝回収人〟貸したらどうなるだろうな?」

「常人なら悍しさと機能で複雑な心境に陥るでしょうね」

「クフフ♪そりゃそうか……俺的には見てみたくもあるが」

「シャ〜〜♪」



『※※※※※※※※!!!!』


お?戦況が動くな……ん?


――『『『『………』』』』――


「アレは……アーサー……他のは、プロフェス……ダルカン……三郎丸?……ッ!」


その瞬間、カメラが捉えた……その光景を。



○●○●○●


『※※※※!!!』


咆哮が遠方から響く……遠目に見える黒い影……獣達はその咆哮に身を竦め、立ち尽くす。


「〝聖剣開放〟」


咆哮に多くの者が立ち止まる中、鞘から白銀の剣を抜き、アーサーは構える。


「〝その光は魔を滅し、その身は神の権威を示す、賜るは選ばれし勇〟」


白銀は太陽に照らされながら光を纏い始める……そして白銀は淡い黄金を纏う。


「〝守護の剣、不浄を滅する一刀一振り、その身を以て知るが良いッ〟」


――ザッ――


「〝浄滅の光条(ニルヴァーナ)〟」


放たれるは高濃度の一条の光、光の進む先は醜い化物、周囲の魔物を光で焼き尽くし、ソレは大地を這い進む。




●○●○●○


「ボスーッ!奴さん来ましたぜーッ!」

「応!行くぞお前等!後ろは任せたぞ!」

「「「イエッサーッ!!!」」」



――ダンッ――


馬車から飛び降りる、ダルカンは口角を上げる。


「丁度新調したこの大剣、その全力を試すのにゃ丁度いいわなッ」


――ドッ――


西の平原を駆ける、翔ける……邪魔な獣を力任せに薙ぎ払いながら。


――スゥ〜〜ッ――


「邪魔ダァァァァァァ!!!!」


大気を震わせる怒号、それと同時にダルカンの身体が膨張する。


「〝身体激化〟」


紅い、それは紅いオーラを纏いながら、ダルカンは大地を駆ける……自身の身長程はあろう大剣を片手で振るいながら、ダルカンは只管に突き進む。


「コイツを使うのは〝β〟以来よなぁ!」


ダルカンは心底嬉しそうに顔を獰猛に歪ませる、それはダルカンがその名を轟かせた所以である一つの技。


――ドゴンッ――


肉を切る、切りながら進むダルカン、それは以前と変わらず豪快に……だがその変化は、大剣が大蜘蛛を両断して漸く認識できた……早過ぎるのだ。


――ドゴンッ……ドゴンッ……――


大剣が魔物を過ぎ去る、吹き飛ばされ、破砕されて……その速度は衰えないどころか更に増す、今やその変化は一目見ては分かるほどに明瞭に成った。


――ドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッ――


「グルアァァァァァァ!!!」


『※※※※※※!?!?!?』


そして〝ソレ〟に気が付いたのは化物だった、今の今までただ喰らう事のみを考えていたソレは、突如脳裏に奔る〝寒気〟を感じ取り、その触腕を〝ソレ〟へ向ける。


――ドゴンッ――

――ブチィッ――


『※※※!?!?』


――バスンッ、バスンッ、バスンッ――


触腕をぶつ切りにしながら進むダルカン。


――ギュンッ――


「〝フルスイング〟!」


――ズバンッ――


触手を蹴り飛び上がり、ダルカンは化物の頭へ飛び上がる。


使われたのは戦士の一般的な戦技、しかしダルカンのとある〝特性〟によってその一撃は、凡そ人の手のモノとは思えぬ威力と化した。



――ドオォォンッ――


○●○●○●


「個人的には捕えて調べたい所ですが……仕方ない、殺すしか無いか……はぁ」

「リーダー?流石にアレを捕まえて逃げ出したらあたし等完全に戦犯だよ?」

「分かっている……全く」


――コンコンッ――


「〝魔力同調〟、〝属性融合開始〟……〝調整儀唱開始〟……〝我等は真理を拓く者、神の庇護を受けて尚、神へ逆らう愚か者、さりとて我等は理性の獣、その理性を以て我等は神を滅ぼさん〟」


魔術の行使には例外を除き2つの方法が存在する、術式を実際に展開し行使する〝陣式〟、術式を詠う事でその事象を引き起こす詠唱、扱う魔術が強ければ強い程、詠唱に必要な節や陣の展開する大きさが変わる……何処かの誰かが扱うアレはその例外だ。


「〝焼き尽くす劫火〟、〝押し流す濁流〟、〝吹き荒れる大嵐〝、〝割れ揺れる大地の怒り〟、〝四の災い〟、〝包み繋ぐは染まらぬ空虚〟」


反発する四の属性、それを白い薄い魔力が包む。


「〝そして混沌は生まれる〟」


混ざりあった5色の魔力は塊となり、戦場を浮かぶ。


「〝混沌の暴威(ケイオス・ドゥーム)〟」


ソレはゆっくりと、ゆっくりと戦場を飛翔し、まるで無害かの様にソレへ迫る。


『※※※※※!?!?』

「何だ、危機察知能力も高いのか……〝強制崩壊〟」


その危険性を本能で理解したソレは逃げようと向きを変えるが……その瞬間に魔力の塊は爆発し、大地を吹き飛ばした。




●○●○●○


「ッ……ッ!?……」


その場に居た誰もが、その光景を見て固まる……咆哮と共に現れた〝異形〟、その姿は腐った肉の塊の様で、触腕が生えて、その場に居た生き物を貪らんと伸びていた。


「やっと来たなぁ!大物がぁ!」


――ヒュンッ――


ソレを止めたのは、空から落ちて来た一つの声……聞き逃しそうなほど小さな風切り音……その刹那。


――バラッ――


触腕は細切れに成った。


「うむうむ!やはり巻藁より生身の生命の方が切り応えがあるのう! カッカッカッ♪」


――タンッ――


「直ぐに終わってくれるなよ?」


その老人は砂煙から突き抜け、異形の前に姿を表す……そしてその手に持った刀を振るう。


――ジャンッ――


「ほれほれほれッ!」

『※※※※ッ!?』


その場に居た誰もが手を挟む事が出来ない戦闘、異形の咆哮と老人の笑い声が響いた。


『※※※※※!!!』


異形がその身体を震わせ触腕を周囲の獣へ伸ばす……だが。


「させるかよぉ…プハァッ! 〝火走り〟」


瓢箪を傾け、口に酒を流す男は、右手に炎を生み出しそのまま触手へ吹き掛けた。


――ゴオォォォッ!!!――


その炎はまるで意思を持つかのように触手を襲い、焼き尽くす。


「カッカッカッ!やはりこの身体は便利じゃのお!〝鬼人〟言うたか?」


老人は笑いながらも斬り掛かる……返り血を浴びる度にその額の角は大きく成り、やがては鬼の角と牙が生える。


「おう坊主、その剣借りるぞ?」

「は?」


戦闘の最中異形の触手を潰しながら、老人はその場に居た男の剣を奪う。


「東洋剣と西洋剣の二刀流は初めてじゃな……〝フシィィィィッ〟」


その時、研ぎ澄まされた殺意が、異形唯一人を射抜く……場は一瞬で静まり、老人は駆ける。


「鬼月流、二刀」


触手を避けてただその異形へ駆ける。


「〝裂き嵐〟」


その声と共に、老人は異形へ突き進み……ほんの少しの間を置いて現れる……緑の液体に塗れながら。


「ふん……生臭いのぅ」






○●○●○●


膨大な神の力によって、圧倒的な重き一撃によって、暴虐的な混沌の魔力によって、異質で熟達した剣技によって……獣災、スタンピードは終結………。





「何て訳無いよなぁ……?」



〝何も分からぬまま焼かれた光に〟、〝圧倒的な力の脅威に〟、〝異常な暴虐の塊に〟、〝ただ生命を斬り殺す殺意の技に〟……〝生き残り〟、〝ソレ等〟は〝恐怖〟した。



――ドクンッ――


生命の急激な変質、それは外的要因に適応する為に発生した生命の変態、彼等は〝未知(恐怖)〟に、(恐怖)に、混沌(恐怖)に、(恐怖)を恐れるが故に、未熟なままに進化を始めた。


『〝貪食寄生蟲獣〟が〝恐怖〟を知覚しました』


『〝貪食寄生蟲獣〟は特殊個体、〝恐憎の蟲獣女王〟へ進化します』




皮肉な事に人は、自らの手によって〝災害〟を成長させてしまった。




「うわ、グロッ……虫嫌いと集合恐怖症が見たら泡吹いて死ぬだろ」


――カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチッ――


飢え狂う〝蟲獣(厄災)〟が、四方より街へ飛翔する。



「キャーッ♪」

「美味そう?また残ってたら取ってきてやるから落ち着け、今のお前じゃ逆に食われるぞ?……そんで」


――アレが例の第三者、ねぇ――


街へ向けて飛翔する中型犬程の蟲を見て、笑い転げる黒い影……それを紫の眼が冷たく見据えていた。

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― 新着の感想 ―
今更なのですが、何処かの誰かが扱う例外はどう例外なのですか?
[気になる点] ここまで読み返してふと思ったことは、『アジィ』って元ネタアジ・ダハーカだったりします? ほら、蛇っぽくて邪龍として有名だった気がするアレです。 竜とか喰いまくったらそっち方面に進化しそ…
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