白き美しき愚神、黒き悍ましき悪魔①
「アーサー……?」
三人が困惑を漏らす……そうだろう、端から見ればアレだけの重体だった男が、治った様子でもなく、楽々と立ち上がっているのだから……。
「否、コレはアーサーでは無い……世界の均衡を保つ存在、善を統べる者、悪神の対……そして、己の責務を放棄した〝ロクデナシ〟だ」
「戯言を…私は人を守護する、其の為に彼等を呼んだ、悪神が送り込んだ破壊の種を駆除する為に」
アーサー……いや、善神が憎悪の眼差しを向ける……ふむ。
「アーサー……お前が力を与え人形の身体を一時的に借りたのか……〝神降ろし〟とでも言うべきか、本来の力よりも遥かに劣るらしい」
十分の一か、百分の一か……いや、或いは千か……?
「何れにしろ殺る事は変わるまい……それに……クックッ……ある意味では都合の良い事だ♪」
――ドッ――
「ッ……」
「お前を全力でぶん殴れる、またとない機会だな♪」
――ズズズッ――
「「「ッ!?」」」
「すまないな悪夢狩り、処刑人とその相棒よ、本当に口惜しいがお前達とのゲームは持ち越しだ、悪いな」
影で囲み、三人諸共適当な位置に転移させる。
「さぁ、此処にはもう誰も居ないぞ……アーサーもどうせ聞こえてないだろう、さっさと化けの皮を剥がせよ〝善の〟」
「その不愉快な呼び方を控えろ、クソ悪魔」
「ッハ!……オイオイ善の神サマが随分と口汚いじゃないか♪……もう少しお淑やかにしたまえよ……神だろう?」
――ギィンッ――
「悪魔風情が」
「その悪魔風情にここまで言われる情けない神様が居るらしいな?……ケヒャッヒャヒャヒャッ♪」
善神が剣を振るう……フフフッ♪
「流石は神、尋常成らざる膂力だ……コレでは打ち負けてしまうか――何てな?」
「――!?…馬鹿なッ」
ハデスと善神が剣を競り合う……一見、善神がハデスに押し勝っていたように見えた……だが、それを否定する様にハデスが剣を押し込んで行く。
「如何に神と言えども、器を用いて顕現する以上その力は器によって制限を受ける……当たり前だ、そのまま本人降臨すると世界がねじ曲がりかねん……それすらも忘れたか愚神」
「クッ……知った風な口をッ」
「そりゃ〝器と受肉〟、〝死と隷属〟の術理は俺の十八番だ、当然それらも調べ尽くしてるとも」
「チッ」
――パチンッ――
善神が舌打ちと共に指を鳴らすと、空を光の剣が無数に現れ、俺を囲む。
「〝悪滅〟」
言葉と共に牙を剥く剣の群れ……だが生憎と、それは〝見慣れて〟いる。
――パチンッ――
「〝聖鏖〟」
光の刃を大地から闇の刃が掻き消していく、その光景を善神が顔を歪めて見ていた。
「小手先を処理するには役立つが、これならプロフェスのが万倍……いや兆倍マシだな」
――ギィンッ――
「で?……次はどんな小細工だ?」
冷たい眼で、善神を見据えるハデス……それに対し、善神の顔が見る見る赤くなる。
「この私の、神の裁きが小細工だと?」
「……はぁ?」
「巫山戯るなよクソ悪魔ァァッ!?」
そして、駆ける……いやそれは最早瞬間移動と言っても差し支えのない速度で。
――ギィンッ、ギィンギィンギィンッ――
「何故私の思い通りにならないッ、世界の全ては私が管理するべきだろうッ、何故どいつもこいつも邪魔ばかりするッ!?」
「………」
「彼奴も、世界も、私よりも弱い癖に――」
「五月蝿え」
――ゴスッ――
「ブ――ッ!?」
血管が浮き出るまで騒ぐ善神の顔を思いっ切りぶん殴る……ふむ、意外とスッキリ。
「耳元で騒ぐな愚神……〝下らん戯言〟は聞くに耐えん」
「戯言だとッ――」
「戯言だろうが、クソガキ」
瓦礫から這い出る善神を見据えながら言葉を吐く……。
「思い通りにならなければ癇癪を起こし、騒ぎ立て暴れて盤面を滅茶苦茶にする……それをさも当然の様に騒ぐそれが戯言だって言ってるんだよ阿呆」
「黙――」
「黙るのはお前だ下郎が、お前は餓鬼だ、力だけを持った餓鬼、何一つ成長しない、下らないつまらない、無用物だ」
――ギィンッ――
「どうしたカミサマ、ほら立てよ、人を従える者なのだろう?世界を廻す者なのだろう、悪魔風情に何を梃子摺っている、ほら立てよ……立て」
おいどうしたよ、何を動揺している?
「どうした……〝揺らいでいる〟ぞ?……恐れたか?…悪魔風情とほざく癖に、さぁ、まだやれるだろう、起きろ、起きねば――」
――ゾワッ――
「――ッ!?」
「死ぬぞ?」
――パチンッ――
善神を空へ放り投げ指を鳴らす……それと同時に、大地から、空から、横から縦から斜めから、全ての方位から剣の群れが善神を狙う。
(さぁどうする、このまま死んで消えるか?)
「―――〝神器……顕現〟」
「ッほぉ!」
声を拾った……腐れた声を、吐き気とする声を……その言霊が空を這うと同時に、アーサーの剣が白く……〝燃える〟。
「〝神器:善ヲ拝スル焔ノ剣〟」
それは美しい焔だった、白い清き火花の迸る、剣を模しただけの焔。
溢れんばかりの……〝反吐の出る〟力の塊。
「フハッ♪……コレばかりは模倣出来んなあッ!」
「燃えよ、滅びろ、塵と化せ……〝悪魔〟」
――ゴォォォッ――
空より、白い焔が俺へ迫る……さて。
「〝神の力〟……味見としよう」
――ジュゥッ――
焔に触れる……右腕が焼ける、痛み、熱、そして俺の力を消そうとする感覚……。
「炎と聖属性の混合神器……上位の不死者なら塵に出来るな、魔物でも炎と聖属性に耐性が無ければ、間違い無く重傷だな」
俺を殺す……その点でも、これ以上無い程、効果的な兵器だが。
「……他には?」
「……何?」
「他にはコレをどう使う、この程度で終わりか愚神」
「強がりを……」
「……あっそ」
……ハァ……ツマンネ〜。
「腐っても神、この程度の力は有る……が、うん、やっぱお前はつまらんな、アーサーと同じだ、下らん塵だな」
――ゴォォォッ――
「生まれ持って得た、何の手垢もない力……普通なら十分だ、だろうとも、神であるならばそうだろう……だが、それでは〝俺〟を殺せない」
面白くない死に方を、俺が認めるか、愉しくない負けを俺は認めない。
「殺すのは〝勇者〟だ、進み、生み出し、作り変える、己の意思を曲げぬ、己の在り方を貫く……其の為に如何な犠牲をも厭わぬ者にこそ、〝化物〟を淘汰する権利は与えられる」
故に……俺はお前を認めない。
「教えてやろう……〝善を騙る者〟……お前が排し、滅ぼし、否定しようとする者の、在り方を」
手を翳す、空に光る屍肉の月へ。
「〝偽りの教典、十二の天輪、死を担う者〟」
〝屍月〟……空を覆う偽りの月……その力は力の〝吸引と貯蔵〟、死んだ者から瘴気を吸い出し、溜め込む……そして、所有者の言葉によって能力を解放する。
「〝魂を狩る鎌、死への導き手、神忠の堕天〟」
ソレは最も忠実な神の子、そして……最も神を愛した〝堕天使〟。
「〝月の支配者、血涙の慟哭者〟」
「"汝の罪を推し量り、咎を以て罰死を与えん"」
「〝天の翼、反天……死天〟」
――ドパァッ――
空から落ちる、紅い血が、俺を、大地を染める……ソレは俺を中心に渦巻き、そして俺の身体に染み込んでいく。
「〝死鎌ノ堕天使〟」
人骨の翼をバキバキと伸ばしながら、ソレは赤黒い大鎌を肩に乗せ、血涙を流しながら善神を睥睨する。
「さぁ善神、お前の罪を数えろ」




