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78.方針の更新、もしかしてこの中……、そして【施設】と生存者(サバイバー)

78話目です。


ではどうぞ。



「えっ? ここを臨時の拠点に……ですか?」



 必死になって弁明し、何とか凄みある笑顔を抑えてもらった後。 

 目の前にあるホームセンターを見つめ、ソルアはキョトンとした顔で確認してきた。



「ああ。わざわざホテルに帰るのも面倒だろう」



 ここを仮の拠点として使えれば、さらにショッピングモールとの行き来が楽になる。

 前線をちょっとでも上げることができればそれに越したことはない。


 

「しかも“赤い”アーミースパイダーが、ショッピングモール外にも出て来たってのがデカい」



 おかげで、あえて危険を冒して直ぐ中へ突入、としなくていいのだ。


 俺たちの目標は可能な限り危険少なく、ボスを倒してクエスト達成すること。


 そのためにボスの弱体化が重要になってくるのだが、そのカギとなる“赤い奴”は外にも普通に出てくるのだ。

 なら、ボスがいるショッピングモール内にわざわざ入らなくても、その前段階の目的は達成可能。



「つまり、出て来たところを1匹ずつ狩っていって。着実にボスを弱めるってことね?」



 理解を示すアトリの言葉に、頷いて返す。

 ……もうアトリさんも、サキュバスの妖艶(ようえん)な笑みは(しず)めて下さっているようだ。


 ありがたや……。



「趣旨は分かった。時間もまだまだ余裕がある。滝深君の言う通り、少しでもリスクを避けられるのなら大賛成……なんだけれど」 



 久代さんは最後、歯切れ悪く留保した。

 そして視線を目の前、その件のホームセンターへと向ける。



「……これ、中は大丈夫なのかしら?」


「あぁ~」

    

「それな~」

  


 来宮さんの納得するような声。

 俺も思わず同意の声が出ていた。


 

「『それな~』って……いや、一番大事な部分じゃないの?」


 

 ……あっ。


 せっかくソルアとアトリの怒りを宥めたばかりなのに!

 今度は久代さんに凄みの効いた笑みが浮かんでしまっている! 


 ――鎮まれ、鎮まりたまえ! さぞかし名のあるミスキャンパスと見受けたが、何故そのように荒ぶられるのか!?


 

 ……いや、うん、俺のせいですね。

 ごめんなさい。



「いや、うんうん! もちろんもちろん! ちゃ~んと分かってますよ、ええはい!」


「……口調が変。後、早口になるのが凄く怪しいんだけど」


「ねぇ~。マスター、こういう時っていつも変なこと考えてるから」



 ぐぬぬっ!

 アトリめ、ここぞとばかりに久代さんと結託して俺を責めおって!

 

 攻めていいのは、攻められる覚悟のある奴だけだ!

 

 ……ん? 

 なんか違う――



「マ・ス・ター? やっぱり、私、ちょーっと血が騒いじゃうのか、肉食系みたいで――」



 ぎゃぁぁぁ!!

 すいませんすいません!


 一瞬だけだが、アトリにまたとても強烈な色気を感じ、早々に撤退を選択。



 ふぅぅ……危ない危ない。


 ……ふんっ、いいもんっ!

 意地悪するんなら、俺にだって考えがある。

 リーユに早速仕事をしてもらうだけだ。

 


□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□

 


 ――うわーん、助けてリユえもん! 心が傷ついたから、何か癒せる道具だしてよ!

 


「わっ、わわっ!? びっ、ビックリした――あっ、主さん、いきなり目の前に立たれると驚いちゃいます。ど、どうかしましたか?」


「あっ、お兄さんですか。……すいません、ちょっと集中してたんで気づきませんでした」

 


 ……普通に目の前に来ただけのに。

 えっ、俺っていつの間にかプレイヤースキル【気配遮断】でも取ってたのかな?


 ……陰キャボッチで影薄くて悪かったね。



「いや、何でもないです……」



 傷ついた心を癒してもらおうと思ったが、さらに追い打ちをかけられた気分である。


  

「そ、そうですか? ……でも、なんだか主さん、気分、下げ下げ、ですか? ふむむ……!」



 すると、リーユは何を思ったか。

 必死に腕を伸ばして俺の頭を触ろうとしてきたのだった。



「えっと……リーユさん?」


「むんっ! 主さん、私より背、高いですね! よしよしのなでなで、ちょっとだけ難しい、です!」


 

 ……などと供述しており、動機は今のところ不明です。

   

 なお、言うほどリーユも背が低いわけじゃないので、背伸びまでは不要な様子。

 程なくして、アームカバーに包まれたリーユの手が、俺の頭に到着。

 


 ――あっ……なんか、誰かに頭撫でられるの、久しぶりな気がする。



 魔法も何もない。


 ただリーユが。

 一定のゆっくりペースで、手を優しく往復させているだけ。


 だがそれだけなのに、凄く心が落ち着き、疲労が溶けていくような感じがした。



「……フフッ。主さん、よしよし、です。もっと周りに甘えてもいいんですよ?」



 あぁ、なんか、これ―― 

 


「――ドスケベ衣装着た美少女が頭なでなでしてるのを、間近で見させられてる件について」



 うぉっ!?



「ど、ドスケベ!? ど、どう言う意味だろう……か、カナデちゃん。これ、だ、大事な衣装、なんだけど……」

 


 ふ、ふぅ……。

 リーユに矛先が向いてオロオロしている間に態勢を立て直せた。



「……んっ、んん! ――で、水間さん。集中してたって、言ってたけど。何か、してたんだろ?」


「うわー、凄い白々しい話題転換……まあ今回は、リーユちゃんのドエロい恰好に免じて見逃しましょう」

 

 


 水間さん、なんだかんだ言いながらリーユに甘々だなぁ……。


 

 すまん、リーユ。

 水間さんはリーユの恰好、ドストライクらしい。

  

 

“ドエロい”発言に、またもやリーユが衝撃を受けているが、今は置いておこう……。




「――私、【商人】のジョブで。【買付け】っていうスキルがあるって、話したじゃないですか。それを試してたんです」



 水間さんは表情を引き締め、真面目な話に入る。

 俺もそれに(なら)い、ちゃんと聴く姿勢に。



「その場にいずとも【施設】での買い物ができるって話だったか? ……それが?」



 先を促すと、水間さんは視線を目の前。

 ――ホームセンターへと移した。



「ここ。【施設】みたいなんです。で、商品も売ってました。ただ……全部、別々の生存者(サバイバー)たちに買われていたようで――」



 一度、考えをまとめるように、水間さんは言葉を区切る。

 そして核心を突くようにして、水間さんは告げた。



「――この中、もしかして生存者、いるんじゃないですか?」



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



(にわ)かには信じがたいな……」

    

  

 確かに、この広大な敷地内にあるだけあって、ホームセンター自体もかなりデカい。

 外の喧騒や話し声が届かない、あるいはそれに気づかないとしても、おかしくはないと思う。

 


「でもさっき、ボスの凄い悲鳴、あったよね? 中に人がいたら、普通気にならない?」



 リーユも不自然さを抱いて意見を口にする。


 

「いや、あたしも確信があって言ったわけじゃなくって。ただ……透子さんや遥さんからちょろっと聞きました」



 水間さんは、チラッと久代さん・来宮さんのことを盗み見る。


 

生存者(サバイバー)同士でも、絶対に味方ってわけじゃない。ヤバいことされそうになる時だってあるって。……だとすると、中にいる可能性があったら、事前に用心しておくに越したことはないかなって」


 

 あぁぁ。

 あの大学生と高校生の、男子コンビの件か。


 普段からあえてセクハラめいた発言をすることで、水間さんは俺たちを何度も和ませてくれている。

 だからこそ、本当にふざけてはいけない部分を、むしろこの子はよく理解しているのだ。



「……ん。分かった。そこは久代さんの言った懸念と通じるところだしな――ファムっ!」


≪はいはい! 何かな、ご主人?≫ 



 呼ぶと、ファムはすぐに目の前へと飛んできてくれた。

 


「働かせまくって悪いな。……用件は、また調査を頼みたい。ただ、今回はショッピングモールじゃなくて、この中だ」 

 


 そうして目の前の建物、ホームセンターを指さす。


 

≪ううん、全然! むしろどんどんボクを頼ってよ、ご主人! それで……この中を調べればいいんだね? わかった!≫



 ファムはビシッと敬礼した後、すぐに飛び立とうとする。

 だが急ブレーキをかけたように止まり、一瞬だけリーユと水間さんの方を見た。


 ……いや、リーユを、か?



≪うわぁ! また沢山増えたんだね! ボクも賑やかなの、嬉しいな! ――じゃ、行ってきま~す≫



 そうして今度こそ、ファムは空の旅へと飛び立った。

 


 ……えっ、何今の?

 ファムさん、それは皮肉ですか?



“うわぁ~。ご主人、また仲間の女の子増やしたんだね……クスッ、お盛んだこと”ってか!?


 悪かったな!

 こんなに超レベル高い美少女が沢山いても、お盛んな時間なんて一切ねぇよ、こん畜生め!



「今のが例のファムさん、ですか……」


 

 リーユはというと。

 まるでその優雅な姿に見惚れるようにして、ファムの飛び立った後を見続けていた。


 ……話せない人からファムを見たら、本当に妖精のイメージそのまんまの見た目だもんねぇ。



≪――はい、ご主人! 中、入ったよ~!≫



 そうして時間もかからず、ファムから第一報が入る。

 それを受け、すぐさま視界を共有した。


 

 バリケードがあるな。

 生活の跡も見える。



 ……これは、いるだろ、中に。



「どうです?」


「いました? 人」


「いや、まだだが……いる形跡はすぐ見つかった」  

  


 広げられたままのブルーシート。

 使っただろうブランケットも複数、見受けられる。

 

 災害用の商品を開封したのだろう。

 非常食のおかゆや、カレーのレトルトパックがいくつもあった。



 そうして人が見つかるのも時間の問題と思っていると――



≪――あっ、いたよご主人! ……うわっ、えっ、大丈夫かな、あれ!?≫



 最初、目的を直ぐに達成できたというファムの興奮したような声。 

 続いて、すぐ驚き、混乱したような声に変わる。



 それは、視界を共有している俺にもほぼ時差なく理解できた。



「っ!? ……人が、何人も拘束されてる」


「えっ!?」


「は、はい!?」



 10人は軽く超える生存者がいた。


 その人たちが皆、拘束された状態で。

 床に芋虫のようにして、寝かせられている。



 ガムテープで腕や脚をグルグル巻きにされている人もいれば。

 結束バンドで後ろ手に、その指だけを縛られている者も。


 そしてタオルや布で目隠しされ。

 口も同じく、ガムテープを張ったりタオルを噛ませて塞がれていた。



 ――その周囲、見張りに立つようにして5人。



『さぁ、よく考えて判断しろよ? ――誰が、この【施設】の商品を買った生存者なのか』


『そうだぜ? 言わなけりゃ残念だが……一人一人、ローラー作戦で行くことになっちゃうからな』


『まっ、女は漏れなく貰うけどよ。へへっ』



 そいつらは全員が高校生か、それくらいの年齢に見えた。

 そしてどいつも髪を染めていたり、あるいはピアスをつけていたり……。


 いわゆるやんちゃしていそうな見た目だった。



 ――そのリーダー格だろう男子が、言い聞かせるようにして告げる。



『他の生存者の奴が【施設】の商品を買っちゃってるから、俺たちが買えない。――なら、そいつらが死ねば、俺たちが買えるようになる。簡単な話だよな?』      



  

突然で申し訳ありません。

5月の15日まで、更新を不定期とさせいただきます。


詳細はこの後、活動報告にて記しますが。

簡単に言えば5月の中旬にとても大事な用事があり。

その準備を今からしないと間に合わないためです。


この作品を楽しみにしてくださっている皆さんには本当に申し訳ありません。

気長にお待ちいただければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり作者さんの作品は面白い! [一言] 後れ馳せながら、新作読ませて頂きました! 最高です!続きも楽しみにしてますね!
[一言] こういう状況だからこそ、生かしても今後一切役に立たない害悪人物はモンスター扱いで殲滅が正解なんだろうけど。 そこまで覚悟決まらないわなあ。 とは言え確実に邪魔にしかならないの分かりきってるん…
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