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77.弱点はちゃんと、その後のケア、そして悪意ある切り取りと編集!

77話目です。


ではどうぞ。



<所有奴隷“アトリ”がポイズンモスを討伐しました。48Isekaiを獲得しました>  


<所有奴隷“アトリ”がアーミースパイダーを討伐しました。55Isekaiを獲得しました>  


<所有奴隷“アトリ”がアーミースパイダーを討伐しました。55Isekaiを獲得しました>  



 結局はアトリが全部倒してくれたのか。

“赤い奴”と“黒いノーマルな奴”とで、名称や獲得Isekaiなどに差はないらしい。

 

 ゲットできたパーティーポイントもそうだった。


 じゃあやはり、違いは見た目だけか――



「……ん?」

 


 目の前。

 いつもなら倒されたモンスターは死体として残らず、光の粒子となって消え去ってしまう。

 

 だが“赤いアーミースパイダー”だけは、少々様子が違った。



「あっ、光が――」



 光の粒子となるところまでは同じ。

 だが、それが消失することはなく。


 むしろ集まっては塊となり、強く赤色に輝いて光る。

 それがフラフラと浮いていたところ、いきなりショッピングモール内を目指して飛んで行ったのだった。



「うわっ! だ、大丈夫でしょうか(あるじ)さん! あれ、燃えちゃいませんか!?」



 目的地に向けて止まらず飛行する赤い光を見て、リーユが目をグルグル回して慌てていた。 

 確かに、見た目は何となく怪談に出てきそうな火の玉っぽかったけど……。   



「あれが仮に火だとしても、かなり小さいから。流石に大丈夫だと思うけど――あっ、すり抜けた」



 一応俺も注意して、その行く先を目で追っていた。

 すると、赤い光はなんと、ショッピングモールの外壁など気にしないというように、スルっと入って行ってしまったのだ。


 ……壁を通り抜けるなんて、本当に霊的な何かかと思ってしまいそうになる。




『――ZIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』 




 ――そして程なく、とても大きな音がした。




「なっ、なんですか!?」


「ひゃぅ!?」



 傍にいたリーユも思わずビクッと跳ねる。

 怖い物から少しでも距離を取るというように、ソルアの胸に飛び込んでいた。



 ……うわっ。

 色んな意味で凄い跳ねたな。

    


「断末魔……かしら?」


「デカい声だな……ここまで届いてんぞ」



 ついさっき無双っぷりを見せたアトリでさえも、警戒感を露わにする。


 未だ無事なショッピングモールのガラスが、ビリビリと震えているのがわかる。

 俺たちの周囲、その空気までもヒリつかせた。


 だが一方で、これがどういう現象を意味しているか。

 それが何となく察せられ。


 自分たちの行動が正しかったのだと、答え合わせができたような気がしたのだった。



 ――今のは確実にボスの悲鳴だ。つまり……“赤いの”を倒せば、ちゃんと弱体化ができる。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「じゃ、じゃあ……そのネバベト。治しますので」



 ボスの弱点がきちんと効いているとの実感を得た後。

 戦闘での状態異常を治療するため、時間をとることに。



「ええ。ありがとう。お願いするわね」


「ごめんなさい。よろしくね、リーユちゃん」

 

 

 久代さん、そして来宮さんが、リーユの前に二人並んで待つ。

 ……それにしても、本当、絵面が凄いことになってるな。


 アーミースパイダーの糸に被弾した二人は、それぞれ白い粘性の液体がベットリ体に付着した状態だ。


 

「…………」



 久代さんはボクシングや、普通に自然な動作でとったような防御の姿勢で、腕を拘束されていた。

 だがやはりそういったことに慣れてないからか、立てた腕と腕の幅は広めだ。



 ……つまり何が言いたいかというと。

 

 久代さんの形のいい豊かな胸が。

 両腕で横からギュッと挟み込まれるようにして、糸で固定されているのだ。


 

 ゴクリっ。

 

 

「――いやぁ、眼福、眼福。まして遥さんなんて、もうお兄さんと何ラウンドもファイトを繰り広げた後みたいですもんねぇ~」



 ――水間さん、君は一体俺に何を耳打ちしてんの!?


 

 いや、確かに来宮さんの脚なんて、もう凄いことになってるけどさ!

 俺、全く関係ないから! 


 やっぱり君、頭の中にオッサンが何人か住んでるでしょ!



「…………」



 ――ってリーユさん!?

 

 

 詠唱しながら俺にジト目送ってくるって、君器用だね!

 竜人ってもっとおおざっぱで不器用なイメージだったけど、やっぱり君は例外だな!!

 


「≪癒しの力よ、かの者の身に宿りし異物を、浄化せよ……≫――【キュア】!」



 詠唱が完成する。

 リーユは、アームカバーに包まれた腕をグッと前に突き出した。


 魔法の発動に共鳴するように、リーユの限定衣装が全体的に光り輝く。


 そして優しい光が久代さんと来宮さんを包みこんだ。



「あっ――んっ」


「ふぁっ、んぁっ、あっ――」



 それと同時に、二人の体に付着した糸が溶けるようにして消滅していく。


 ……それ以外にも。

 まるでおまけに、疲労感をも取り去っていくかのように。

 二人はとても気持ちよさそうな声を漏らしていたのだった。


 

「……どうですかぃ、お兄さん。リーユちゃんの癒しの力、恐ろしいでしょう?」



 まるでこの世のすべてを知る者であるかのように、水間さんは悟った表情で声をかけてきた。

 ……あのねぇ。



「糸でエチエチ状態もおつですが。堅物そうな透子さんや、清楚可憐な遥さんが。あんなに簡単にメスの声を出してますぜぃ。……リーユちゃん、就職先に困ったら一つ、あたしに任せてみませんか?」

    

「やめい」 

    


 小悪党っぽい小芝居を入れる水間さんにチョップ。

 これ以上は俺も共犯にされかねないので、早々に離脱することにしたのだった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□


「っす。リーユ、お疲れさん」



 そうして地球(こっち)での初戦闘を終えたリーユを労う。



「あ、主さん! あの、その、お疲れ様です」



 リーユは一仕事済ませたばかりとあって、リラックスした状態だった。

 しかし俺が声をかけた途端、ビシッと背筋が伸びる。


 かと思うとソワソワしだして、サッと俺から目を逸らした。



「……えっと、何?」


「い、いえ。……その、主さんは、“糸”。大丈夫、でしたね」



 目はあらぬ方を向きながらも。

 リーユは何とか口に出来たという感じで、思いを伝えてくれる。



「“糸”? ……ああ。状態異常か。――そうだな、うん。俺は大丈夫だ」



 無傷でピンピンしているとアピールするつもりで、むんっと腕に力こぶを出す。

 それもリーユは見てくれず。


 ……なんか、俺一人が滑ってるみたいじゃん。



「……すいません。私、主さんが無事で。元気でいてくれて嬉しいはずなのに」 



 今度こそリーユは顔を上げ。

 そして俺の目を見てくれた。


 だが、後ろめたさに耐えられなかったというように、すぐさままた目を逸らしてしまう。



「でも、心のどこかでは、別の自分がいるんです。“役に立ちたい”“主さんのケガを、自分が治したい”っていう私が。……それは、つまり、主さんがケガをするのを願ってるようで。凄くそんな自分が嫌で、申し訳なくて」



 あぁ~。 

 なるほど。


 良かった。

 水間さんと共犯認定されて、見損なわれたわけじゃなかったようだ。



「――いや。そうやって深く自分の気持ちを掘り下げて、言葉に直せるのは重要なことだ。……ウチは、肉体派が多いからな」



 そうしてソルアやアトリを見る。



「…………」


「…………」



 二人もこちらの様子を見守ってくれていたようで、目が合った。

 ……だが、頷くだけで、介入はしてこない様子。


 俺に任せる、ってことですかい……。

 


「肉体派……」


「そう。俺もなんだかんだ、主なスタイルは害悪肉盾ゾンビだから。心配しなくても、そのうちケガの一つや二つはするって」

 


 ファムの【フェアリーシールド】や、【旗を立てし者(フラッガー)】の称号のおかげで、ダメージは今のところない。

 だがこれが無くなれば、もちろんHPは消耗していくことになる。


 特に、ボス戦がこの先控えてるんだから、ダメージはあるものとの想定でいる。 



「だから、リーユが忙しくなるのはこれからだろう。……あの、リーユさん。被弾しまくる覚悟はできてるけど。俺が本当にゾンビっぽくHPからっからになっても、見捨てないでね?」



 これからこそ、働きどころがもっと出てくる。

 そうすれば難しく考えてる暇なんてないほど、活躍してもらうことになるだろう。


 そうした意図や、最後の茶目っ気が伝わったのか。

 リーユはクスっと笑い。

 

 今度はしっかりと俺の目をまっすぐ見て、気持ちを伝えてくれたのだった。



「フフッ。主さんが、たとえどんな姿になろうと。私、ずっと癒し続けますから。安心してください」


「――えっ。リーユちゃん!? それはつまり、お兄さんには休みなんて与えないってこと!?」 

    


 問題が解決した、まさにそんなタイミングを見計らったかのように。

 水間さんがあたかも俺を心配するような表情で入ってきた。



「カナデちゃん!? えっ、私、そ、そんなこと言ってない――」


「――ソルアお姉さーん! アトリお姉さーん! お兄さんが『ウチは肉食系ばかりで。でも俺も、からっからになる覚悟はできてる』って! でもリーユちゃんが『ずっと癒し続けますから、安心してください』って言ってます! 皆さんでちょっと色々相談した方がいいんじゃないですかー!?」



 ――悪意ある切り取りと編集が俺を襲うぅぅぅ!!



 しかも“肉体派”とは言ったけど、二人をさして“肉食系”なんて一切言ってない!!

 伝聞とはこんなにも恐ろしい誤解を生めるのか!? 



「……あの、ご主人様、それにリーユ? 詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「へぇぇ~。マスター。私、肉食系でも良いのね? ――リーユ、ありがとう」



 ガクガク。

 ブルブル。



 二人の圧ある笑顔に押された俺とリーユは。

 本当に取って食われる獲物のように、震えて縮こまったのだった。



その後、主人公の姿を見た者は誰もいなかったのだった――


水間「えっ? いや、お兄さんならさっき、ソルアお姉さんやアトリお姉さんに連れられて、口では言えないようなことをしに――」

滝深「そこっ、100%の嘘吐かない!」


様々なメディア媒体が発達した現代、悪意ある切り取りと編集には十分注意しましょう!(教訓)



 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全エピソード全てにおいて細かい所が記載されているところがいい。 人間の関係性、主人公の視点、奴隷の過去の記憶などを明細に表しているのがいい。 そして誤字脱字もこれまでに目立った所がない。 …
2022/04/24 20:18 二代目 天津河 秋斗
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