表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/115

29.“ここで働かせてください!”、欠点がある方が、そして二重を訓練 

29話目です。


ではどうぞ。



「アトリっ!」


「うんっ、任せて!」


 

 ソルアの短い呼びかけに、アトリは全て承知というように答える。

 二人はまるで長年連れ添った戦友だとでもいうように、モンスター相手に見事な連携を見せた。



「せぁっ、はぁぁっ!」


「ZYUUUUAA――」



 凶暴な見た目をしたネズミは、位置を入れ替わったばかりのアトリに対応しきれない。

 モンスターは、その巨大な体のあちこちに傷を負っていく。

 

 だがその連撃は、自分で勝負を決めようとすることを意図しておらず。  

 後に再びバトンタッチするソルアへと繋げる布石だった。



「ソルアッ!」


「はいっ! ――やぁぁぁ!!」


 

 胸元、アトリが開けた傷口に、ソルアがその剣先を突っ込んだ。

 声を上げ、足を動かし、力任せに押し込んでいく。


 刃はやがてジャイアントラットの体を貫通し、背中側から突き抜けた。



<所有奴隷“ソルア”がジャイアントラットを討伐しました。31Isekaiを獲得しました>  

 

 アトリ加入後、ファムとの合流先へと向かう道中。

 二人は圧倒的なチームワークを見せ、(はば)む敵を倒していったのだった。



「ふぅぅ。お疲れ様。ソルア、ありがとう。合わせてくれて」


「いえ、アトリこそ。私の意図をくみ取ってくれたので、凄く動きやすかったです」



 お互いお世辞でなく。

 心から相手を褒めていることが、第三者の俺にもとてもよく伝わってきた。


 

 ……そう。



 ――この(ボッチ)! 外に出て来てから、未だ一度も戦闘に参加させてもらえてないのである!



 いやね、俺も戦おうって意志は凄いあるんだよ?

 でも二人が強すぎるの!

 

 俺が攻撃しようとする間も与えてくれず倒しちゃうんだよ、酷くない?



「えーっと。お疲れさん。……その、別に無理せず俺にもモンスター回してくれていいんですよ? その方が全体としては負担が減るんだしさ」



 訳:元の日常にとどまらず。こんなところで二人にすらハブられ、ボッチにされたら多分立ち直れません。



「? フフッ。マスターが出るまでもないわ。【魅了(チャーム)】を温存できているくらいなんだから。後ろでゆっくりとしてて」


「そうですよ。ご主人様はファムとの感覚共有がおありなんですから。戦闘は私たちに任せて、楽をしておいてください」



 はい、メンタルブレイク!

 いや、うん、わかるよ?


 二人の優しさでしょ、凄く()みるよ、ありがてぇ。

 ……でも時として、優しさが人を追い詰めるってこと、君たちは知っているかい?



 主人に戦闘をさせず、焦燥感と罪悪感を募らせる……。


 これさぁ~。

 もうさぁ~。

 逆パワハラだとおもうんだけどぉ~。



「……うん。そっか、ありがとう。もうパソコン教室まで直ぐだから。着いたら二人はゆっくり休憩してくれ」



 だがもちろん、そんなこと口にはできず。

 二人が純粋に俺を労わって、頑張ってくれていることはちゃんと伝わっていた。

 

 ここは早々に割り切って、アトリが来てくれたことによる恩恵を受けているんだと思っておこう。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□ 



「よしっ、かなり早目に着いたな」


 

 ファムとの合流先であるパソコン教室にやってきた。

 だが思っていた以上に早く到着できている。


 昨日・午前と遠征回数を重ねた慣れ・経験もあるだろうが、やはりアトリが加入してくれた戦力アップが相当大きい。


 単純な人数増加ということだけでは表せないパーティーの充実を感じた。     



「これからファムを“誘導(ナビゲート)”するから。二人はその間は休んどいてくれ」



 そうして、未だ無事に残っていた椅子を二つ持ってきて、ソルアとアトリに座るよう促す。



「えっ? あっ、はい――い、いえいえ! ご主人様こそお座りください」


「そうよ、マスターこそ座ったら? 私、別に全然疲れてないから。それに、視界を共有するって相当しんどいんでしょう?」



 二人の気遣いはとてもありがたい。

 しかし、これは単にレディーファーストということ以外の意味もあった。



「こういう時に練習しておきたいんだ。実戦だと、立って視界を繋いでることが多いはずだろう?」



 ファムと感覚を共有することで、【索敵】と合わせ、回避能力を飛躍的に上げることができる。

 ただ代わりに慣れていないからか、物凄く疲労するのだ。

 

 その諸刃(もろは)(つるぎ)状態を改善するために、本番さながら、戦闘時と少しでも同じ条件でやっておきたい。


 ……まあ立つか座るかの違いだけどね。 

 こういうのは意識することが大事だから、うん。



「まあ、そういうことでしたら」


「そう。なら仕方ないけど……」



 二人が渋々ながらも着座するのを見届け、早速ファムと感覚を繋げることに。

 目の前にいるソルアやアトリとはまた別の光景が、同時に視界へと映った。



≪――はぅぅぅ~! ご主人、ボク、どうしよう。道に迷っちゃった……≫



 泣きそうな、とても申し訳なさそうな声。

 ファムの様子につられるように俺も慌てそうになる。


 だが意識して冷静になり、状況の把握に努めた。


 見えてくる位置取り、まだ無事に残っている建物・看板など。

 記憶にある情報と対照させ、ようやくファムの居場所が分かった。



 ――あぁ~。なるほど。そこか。大丈夫、ちゃんとわかったぞ。



≪本当っ!? うぅぅ~。ご主人、ごめんね、迷惑かけちゃって≫ 

  


 申し訳なさの中にも、本当に嬉しそうにする様子が伝わってきた。

 ショボーンと(しお)れていた特徴的なアホ毛も、元気にニュィっと立ったに違いない。

 そんな様子が容易に想像できる反応だった。


 

 フッ、良いってことよ。

 ファムめ、可愛い奴だ。


 今目の前で美味しそうに飴を舐めてるツヨツヨ美少女ペアにも、教えてやりたいくらいだぜ。


 こうしてちょっと抜けたところがある方が、実はキュンと来たりするんですことよ? 



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



 ――いいか、先ず下に行って……ああいや。ファム本人の視点だと、北方向って言った方がいいのか?



≪えっ? こっち……でいいの? これで合ってる?≫



 ――あっ、いや。うーんと……あっ、そうだ。目印を言うから。そっちに向けて飛んでくれ。



≪うん。……あっ、あれか!≫



 目印作戦は当たりだったようで、ファムは指示通りに着々と進んでいく。

 元々空がファムの道なので、モンスターによって壊された悪路を使う必要はない。

 

 どんどん俺たちが待つ場所へと近づいて行った。



「ふぅぅ。もう後は時間の問題だろう。さて――」



 ようやく人心地つくと、集中していたので喉が渇いたことに気づく。

 同時並行でこの感覚共有に慣れるという趣旨からもちょうどいい。


 ペットボトルに入れてきた水道水をゴクゴクと飲んでいく。


 未だ水道から水は出続けてくれる。

 仮に止まっても、ドラッグストアに飲料水は沢山あった。

 しかしトイレやお風呂などのことを考えると、やはり止まって欲しくはない。



「んくっ……んくっ……っふぅ」


 

 1/3ほどを一気に飲む。

 視界が二つあるという不思議な状態でも、こぼさずちゃんと口に含めることができた。    

 やはり未だ慣れず辛いのは頭、思考の方だな。

 二つのことを一度に処理してるからか、時々思考が止まったり、脈絡のないことがいきなり頭に浮かんだりするんだよ。


 困るから、今の内に慣れておかないと。



「……? ってか二人とも、水分補給は大丈夫か?」

  


 さっきから二人はお菓子こそちゃんと食べているものの、飲み物は何も手に付けていないことに気づく。


 

「二人が動き回ってたんだから、俺以上にちゃんと水分とっとかないと」



 そう言って、まだ2/3ほど残っている手に持ったペットボトルを差し出した。



「!?」


「!?」



 その瞬間、なぜか二人の動きが固まった気がした。


 えっ、何?


 

≪ご主人、今度はこっち? 何となく一回通った覚えはあるんだけど……。多分、“トウコ”お姉さんの服の中を出たり入ったりしてた時だから、うろ覚えで≫



 久代さんの服の中を出入りぃぃぃ!?

 おまっ、大学中の男の憧れである、あの久代さんの中にまでっ!?

 


「……えっと、いいの? マスター、私たちが、その、マスターのを飲んでも?」


 

 ん? 

 あっ、あぁ、会話中だったな。

 

 一端冷静になってファムへの指示をこなし、再びアトリとソルアに向き合う。



「そりゃ良いに決まってる。別に誰のって決めて持ってきてないからな、飲み水は」



 当たり前だ。

 だがなぜかその回答で、二人は顔を真っ赤にしてしまう。 

 


「うっ、はぅっ……あっ、アトリ、先、良いですよ」

 

「い、いやいや! ソルアこそ……うぅぅ。こんなの、エッチすぎるわよ」



 ……ペットボトルの水を飲むのの、どこの何がえっちぃんだよ。

  

 えっちぃさで言ったら、アトリさん、君の見た目の方がヤバいでしょう。

 何その露出過多のサキュバス服は。



「…………」



 胸元も谷間ガン見え、脇だって見えてるし。

 お腹とその下に空いてるハート型の穴はなに?

 おへそ丸見えヤバタニエンですわ。

 

 ってか肌に浮いてるピンクの怪しげな紋様、そんなのあったっけ?


 脚も、膝上まであるブーツ以外は普通に肌出てるし。

 付け根までも見えてるって何なの、誘ってんの?


   

「うぅぅ~。――飲むっ! 飲めばいいんでしょう、もう!」



 アトリさん、なんでそんな自棄(やけ)みたいになってんの。

  

 水を押し付けあっていたようだが、アトリが飲むことになったようだ。

 ……別にどっちが先でも、結局は飲むことになるんだから同じじゃないの?



 でも、なんか俺もちょっと違和感ある。


 ……ただそれが何か、上手くわからない。

 これが二重視界、そしてそこからくる二重思考の不慣れさのせいなのかなぁ。



「んくっ……んくっ……――っ! どう、飲んだ、飲んだわよ!?」


「そ、その……今度の時、ご主人様の後は、私が先に飲ませていただきますので」


「おっ? お、おう……」



 アトリとソルアから同時に謎の宣言をされた。

 どう返せばいいか全くわからず、ただただそうとしか言い様がなかった。


 

≪――あっ、ご主人とソルアお姉さんだ! うぅぅ~やっと合流出来たよ~。……あっ、そのエッチな格好の人が、新しいお姉さん?≫



 そしてタイミングよくファムが帰還を果たし、無事合流できたのだった。 

今回は本当に久しぶりにやらかしました。

2/3ほどかき上げてちょっと休憩と思って、なんか押し間違えたみたいで。


……保存されずにデータが消えていたなんて。

この世にはこんなに恐ろしいことがあるんですね。


流石に今回は心が折れて、冗談抜きで書くのを1日お休みしかけました。


ただこうして更新できたのも、本当に皆さんが応援してくださっているおかげです。

その積み重ねが大きな励ましになり、再び「……しょうがない、書こうか」という気持ちにしてくれました。


本当にありがとうございます。


今後も是非、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと執筆の際のとても大きな励みとなります。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] テンポがいい。 [一言] 仕事で数時間かけて打ち込んだデータがexcelがクラッシュして吹っ飛ぶ。。。 あの絶望感w 普段こまめにセーブしててもセーブしてない時に限ってクラッシュするもんな…
[良い点] 間接キスで照れるサキュバス ウブだこと
[一言] > ……でも時として、優しさが人を追い詰めるってこと、君たちは知っているかい?  地獄への道は善意で舗装されている! > そう言って、まだ2/3ほど残っている手に持ったペットボトルを差し出…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ