276 冬の選手権2回戦
勇太は2回戦の黒ヒヤシンス学園先鋒と向かい合っている。
お嬢様ばかりの学校で全員が白帯。なぜ1回戦を突破できたかというと、初戦の相手・紫フラレシア学園も白帯だらけ。
勇太の試合を見に行って刺激された。柔道部がなかったお嬢様高校に、この数ヶ月で新設柔道部が7つも出来上がった。
この県に限る現象だ。
泥仕合の結果、黒ヒヤシンス高校が勝った。
大将戦で小学校の時に2年間だけ柔道を習った2年生が有効を取った。
そして黒ヒヤシンス高校の先鋒選手オオバヤシ1年生は、1回戦が終わった瞬間に、踊りまくっていたそうだ。
2回戦で勇太と対戦することが決定したから・・
けしからん。
なのでパラ高はエントリー変更。秋に入部した1年生に経験を積ませることにした。敵は1回戦を見る限り全員が素人だった。
サイガカナ、ヨシキマイミを次鋒、中堅に入れた。
先鋒は勇太、副将キヨミ、大将ルナで3勝は確実に見込める。
1年生の5人全員が強くなったし、総入れ替えでも全勝だと思えるが、念のために保険をかけた。
ただ、サイガとヨシキはビビっている。試合自体というより、勇太を見にきたギャラリーの熱気に。
勇太がふたりを見て、自分の試合が終わったら元気付けのうと思っている。
対戦相手を見ると・・
黒ヒヤシンスのオオバヤシ154センチは目がギラギラしている。1回戦の相手と同じく、めぐってきたチャンスを堪能しようとしている。
観衆はいわば勇太の応援団。完全なアウエー状態だが、そんなことは覚悟していた。
いや、していない人間は護身術に柔道を少し習った程度で、こんな場所に立たない。
今のチャンスに比べたら満場のヘイトなんて微々たるもの。
彼女も、1回戦の先鋒もひとつの不文律は分かっている。
勇太は真剣に戦えば応えてくれる貴重な男子。
オオバヤシはネット小説のナーロッパなら、平民ではないが下級貴族。
お見合い経験はあるけど、下品な問題ありの男子としかお見合いをしたことがない。
噂の伊集院光輝なんて、可能性すらない。
覚悟を持って勇太に挑む。
「始め!」
「うりゃあああ!」
開始3分。オオバヤシは粘っている。
そして勇太は困っている。
オオバヤシは意気揚々と戦いに挑んだ。しかし、弱いのだ。
勇太は開始早々に足をかけて有効を取った。瞬殺できそうな感じがするけれど、受け身がヘタなのが分かった。
勇太はやっぱり前世感覚が残りすぎている。女の子に優しい。
内股、払い腰しか最近は使えない。どちらを使っても、彼女が頭か肩から畳にたたきつけられるイメージしかわかない。
足払いで有効3つを増やしたけど、大きなポイントを取れる技は素人女子には殺傷力が高すぎて使いにくい。
きゃ~、がんばれ~と会場の熱気がすごい。
オオバヤシが勇太の柔道着を引っ張りまくって動くから、勇太の胸が露出しまくりだ。
相手陣営は沸いている。意外と強いと知られてきた勇太相手に仲間が健闘しているから。
勇太が少し集中力を欠いていると、オオバヤシが仕掛けてきた。
背負い投げだ。
「うりゃああ!」
「ほいっ」
技を体の前面で受け止めた勇太。なんとも軽い。
条件反射で相手の腰に右腕を回して、股の間から左手を通した。
そして高々と持ち上げた。
パラ高でのルーティンをやってしまった。
最近、部活の締めの定番。
みんなが最後に持ち上げてもらうため、わざと緩く背負い投げをしてくる。そして勇太からの変則お姫様抱っこをやってもらった。
「ひゃっ!!」
オオバヤシは背中が冷やっとした。腰と左足がロックされて脳天から落とされると思った。
しかし、ピタリと止まった。オオバヤシは何が起こっているか分かった。
「こ、これ、ネットで見た変則・裏投げ風のお姫様抱っこだ。嬉し・・けど・・ここって」
そう、観衆が2000人も来てしまった試合会場だ。
たまたま仲間陣営が目に入ると、全員が鬼の形相だ。
あそこに帰りたくない。
異様な緊張に包まれて、目が回っている。
審判も止めない。いや、止めにくい。
技に入っているようにも見える。勇太が相手から手を離さなければ、このまんま投げても問題ない。
しかし勇太がためらっている。
ぼそっ。「このまんま降ろして、判断は審判さんに委ねよう」
彼女をゆっくり降ろしたが・・。すでに意識が飛びかけている。
勇太が、オオバヤシを背中から畳に降ろした瞬間だ。
「1本!」
「え?」
え~?えええ~~?と上がる声。
オオバヤシは幸せそうな顔で気絶していた。
勇太が降ろすとき、畳に相手の背中が付いた。これで投げ技に判定にされてしまった。
ネット上でも会場でも、今の技の名前について議論されている。
ちなみに笑顔で気絶したオオバヤシは、仲間陣営に引きずられて帰っていった。




