194 切り札は非公式な27番目の娘
「由乃さんのお母さん、安心して下さい」
間門陽介、その娘達、さらには勇太ファミリーも驚いている。
骨髄移植のドナーとなることに、風花はためらいがない。
名乗れない関係だけど、異母姉妹・由乃を助けるため。
しかし、純子&風花のCDデビューも12月12日に迫っている。
手術日が大急ぎで準備を整えて12月7日。遅くとも11日。
これは病気の性質上、早いほどいい。
勇太の前世より血液の病気治療は進化しているが、早期発見、超早期治療という条件付き。
化学療法の精度に関しては、パラレル世界の方がガクンとレペルが落ちる。
男子が少ない影響なのか、機械技術の進化が勇太前世より鈍い気がしている。
ともかく風花は今が大切な時期だ。
レコード会社も伊集院君の強いプッシュがあり、発売イベントを盛り込んでいる。
売り出す側も、手放しに応援するわけではない。
全曲が勇太、すなわち男子作詞作曲ということ。
すでに9月3日のゲリラライブで披露した曲も収録されると告知があり期待も高まっている。
だから風花を売り出すのは今しかない。
『すでに知名度がある』勇太や純子とは違う。
折しも12月。
クリスマスイベント、年末のカウントダウンなどで地元民放局のオファーを受けて出演することも決まっている。
その反響次第で次の仕事も入る。ダメなら入らない。
ドナーになり、手術を受けると個人差はあるけれど1ヶ月くらいは体調面の不安が残る。
音楽で生きていきたい風花の最大のチャンスが潰れるかもしれない。
すがる思いで風花に由乃のことを頼みたい香里奈。
だけど彼女も会社の幹部。それに会社を立ち上げた頃と照らし合わせると、風花に取ってどんな時期か分かる。
ドナーになることで失うものの多さも考えられる。
「風花さん・・由乃を」
それでも助けて欲しい。母としての思いだ。
風花は香里奈の手を取って、にっかーと笑った。
「由乃さんのお母さん、私が必要なものを由乃さんにあげます」
間門陽介、嘉菜、そして他の姉妹も風花に対して何も言えない。
風花が嬉しいことを言ってくれた。
けれど風花のキャリアを考えた上で、この選択肢が正解なのか分からない。
風花はためらわない。
なぜなら亡くした産みの母親が、そんな人だった。職業は警察官。
その日、風花は小5だった。
母親とは仲が良くて、仕事の話を聞いていた。その日は普段と違って、どんな仕事だとか教えてくれなかった。
内容が言えないということは、政治的な要人か重要な男子の警護が仕事かなと思った。
守るために戦う女。
そんな母親をカッコいいと思った。
朝、3人の母親、2人の血が繋がらない姉妹とご飯を食べて全員で家を出た。
ただの日常だった。
5年3組で4時間目の授業を受けていたときだ。
教頭先生が大急ぎで教室に入ってきた。姉妹2人も呼ばれた。
だけど職員室に行くと、風花だけが校長先生に両手を取られた。
『落ち着いてよく聞いて、風花ちゃん』
政治家警護の仕事中、銃を持った暴女が現れた。要人を庇った風花の産みの親は・・
驚きすぎて声も出てこなかった。姉妹に手を取られ病院に直行して対面したのは、目を閉じたままの母親。
朝まで笑っていた母親だった。
風花の祖母は亡くなっていた。母親は2人残っているけれど、本当に血の繋がりがある人間はいなくなったと感覚で分かった。
だけど勇太との出会いから梓とも知り合い、梓と異母姉妹だと確信した。
勇太とルナに確認を取って間門陽介の娘26人とも姉妹だと分かった。
名乗る気はないし、名乗れない。
それで良かった。そういう存在を見つけたことで胸が温かくなった。
葉子とも出会えた。
一緒にいて安心感がある人。10歳も歳上なのに、何か抜けてたり、いい加減だったり。
美味しい肉じゃがを作ってくれる。一緒にご飯を食べて、閉店後のリーフカフェでギターを弾かせてくれる。
産みの母親を亡くして10年、再び自分の居場所ができたと思えた。
これから自分は、得られるはずだったものを少しだけ捨てる。
恐らく、来月の仕事のキャンセルが響いて、当面は個人の仕事は来ない。下手をしたら二度と大きな仕事がないかも。
周りには多くのものを捨てたように映るだろう。
だけど令和初の男子が作詞作曲したCDで演奏者として純子と共に名前が残る。
『sotubu』では勇太が風花のものにしてくれた曲の再生回数が2000万回を越えた。
公的に歌う権利を渡されたのが自分だから、収益が丸々振り込まれる。
風花の価値観からしたら、十分なのだ。
「お母さん、私もお母さんみたく、人を守れるよ」
肉親を亡くす辛さを知っている風花。目の前に、娘の由乃を亡くすかもしれない香里奈がいる。
由乃は法律的に認められていなくても妹だ。
助けるの一択なのだ。




