183 これが僕らの友情パワーさ
リハーサルは順調に進んだ。
勇太達はゲストのような立場なので、歌やトークが出番。また、本職の人達が色々とやるときに後ろで手をたたく。
あとは抽選で当たってステージに上がったちびっ子たちと触れあうくらい。
勇太ファミリー、伊集院君のパラ高ファミリー合作で、パンの歌を出しているがCDジャケットに載っている全員で歌うのは久しぶり。
風花のギターで、歌を合わせている。
「ゴブリンパンも♩♪♪♩♩♪だから大好きさー」
終わって、みんなでハイタッチ。
「いいねえ、久々にみんなと歌えて楽しいね。ねえ勇太君」
「だね。あしたの本番も頑張ろう」
スタッフがスマホで撮影している。本番前にアップはしないが、公開後に出す。
そうすると、番組の視聴率が上がるし伊集院君も承知済みだ。
その光景を歌、お絵描き、体操のお姉さん方がみている。
「ちくしょー、あいつら楽しそうだな」
「ですよね。あっちはわずか11人の中に男子が2人」
「それも噂のエロカワ君と、あの伊集院君だよ」
「ほら愚痴らないの。明日は、公開録画に男子のお客さんが来るでしょ」
「男子って・・。上限6歳よ」
「公開録画のときだけでいいから、男子入場の上限を18歳に引き上げてくれんかな」
彼女らは、何度も男子にプロポーズされている。しかし最高年齢が6歳。要するに番組のファンだ。
いくら男女比1対12でも、19~26歳のお姉さんたちの恋愛対象になるはずはない。
「ほら、しっかりしないと危ないよ」
今回はステージの上なので、子供番組に普段から出ている人達は立ち位置の確認。
スタジオと違って、動ける範囲を確認しないと怪我をする。確認が公開録画のリハーサルの基本だ。
勇太や伊集院君らは今、ステージを降りて最前列の席でプロのリハーサルを見ている。
「勇太」
「なんだよカオル」
「腹減った」
という訳で、勇太は荷物の中からゴブリンパンを出した。
「ほら、食え」
「あぐ、はんきゅー」
いつもの、あーん、ぱくだ。
ところが・・・
ステージ上でスキップを踏んでいた体操のお姉さんの片方が、この光景を見ていた。
「いいなあ・・」
「あ、ネネ、集中して、前、危ない!」
「え」
勇太のあーん、ぱくを見ながら動いていた体操のお姉さん1が、オーバーランしてステージから足を踏み外しそうになった。
勇太達から見て左側。
そしてお姉さん1の腕をつかもうとしたお姉さん2も前のめり。2人してステージから飛び出しそうになっている。
「やべっ」
勇太は、他人の危機になるとやたらと反応が速い。もしかしたら、女神印の力が何か備わっているのかも知れない。
今、それを講じている場合ではない。
いきなり立って走った。
しかし、歌のお姉さんが2人とも落ちそうになっている。
どうすれば、と考える前に大きな声がかかった。
「左へ!」
なんと伊集院君も反応していた。
勇太は一直線に、先に足を踏み外し背中から落ちてきたお姉さん1の下に滑り込んだ。
「ぐえ」
豪快な逆ボディープレスを食らいながらも、お姉さん1は守った。
そして、視界に入ってきたのは驚愕の光景。
華麗にジャンプした伊集院君が、お姉さん2を空中キャッチした。それもお姫様抱っこ。
潰れたカエルのような声を出して、大柄なお姉さんの下敷きになっている自分とは大違いだと思った。
「勇太君、大丈夫か!」
「うん、問題ないと思う」
背中の右側、下から2番目の肋骨前後にひび。女神印の回復力で全治30分。
「ご、ご、ごめんなさい」。勇太を抱きかかえて真っ青な顔で謝るお姉さん1。
だけど伊集院君は爽やかな顔で言った。
「大丈夫だよ、お姉さん方。僕達が未然に防いだから。何も責任は問われないよ」
「そ、そんな・・」
「これが、僕と勇太君の友情パワーさ」
決め顔の伊集院君。勇太は肋骨が痛いと言えなくなった。
体操のお姉さん1も離れてくれない。
伊集院君は気に入っている。友情のフレーズ。
伊集院君の友情パワーがスパークしたのは2度目。
1度目で嫁が2人も増えて、2度目は肋骨が2~3本折れた。
勇太は、次に友情パワーが炸裂したときが心配になってきた。
「はは、こっちも大丈夫」
声を出すたびに胸が痛い。お姉さん1も離れてくれない。
リハーサルが中団したけれど、大きな騒ぎにはならなかった。
明日は本番。
ルナやみんなに心配されながら帰った。
しかしと、勇太は思う。
伊集院君は、勇太が飛び出したとき勇太よりもかなり右の方に座っていた。
勇太はお姉さん1をギリギリで助けた。その距離3・5メートル。それで下敷きになってギリだった。
だけど伊集院君は、一瞬のタイムラグがあったとはいえ、5メートル以上の距離を詰めてお姉さん2を空中キャッチした。
勇太は女神印の回復力と響く声で十分にチートをもらったと思っている。
しかしパラレル伊集院君と友人であること。それ自体もチートの匂いがする。
それは女神様の仕込みなのか、それとも偶然なのかと考えている。




