143 ルナに見せたかった海辺の街
文化祭が終わった次の日、祭日と重なった10月14日の月曜日。リーフカフェも定休日。
ルナと海辺の街に出かけた。
県をひとつ越えて在来線を乗り継ぐと、乗り換え時間まで入れて来るのに1時間半かかった。
曇って海風が少し肌寒い日。
ルナは薄手の上着を着ている。だけど勇太は暑くて、相変わらずの薄着モード。
パラレル市で電車に乗った時、同じ車輌にハーレム軍団も乗ってきた。
中高生混成の男子2人、女子12~13人くらいのハーレムがいた。男子2人はハンサムだ。
お陰でスマホで動画を撮っている女子も多かった。
勇太も声をかけられて、サインを求められた。作詞作曲家として。
パンの歌も発売してるし、そっちの知名度が上がっている。
水族館がある駅でハーレムだけでなく、多くの人が降りた。
勇太とルナの目的地では、2人を入れて5人しか人が降りなかった。
それからルナと2人きりだ。
パラレル勇太が生まれ育った街から東に約10キロ。現世では縁もゆかりもないはずのエリア。
水族館もなければ、海水浴場や絶景スポットもない。
少し内海になっていて海面が凪いでいる。釣りをする人の小船が防波堤の内側に繋いである。
右側に小さな岬も。パラレル勇太の記憶にはおぼろ気にしかない。だけど、この勇太の中では明確なビジョンが残っている。
前世で勇太が育った街のパラレルタウン。
防波堤の位置も微妙に違う。海辺にあった釣具屋の場所にコンビニだったりする。だけど全体の雰囲気が懐かしい。
ルナの手を引いて、商店の間の細道から通りを1本入った。住宅エリアがある。
「うん、やっぱり俺や薫の家はないな」。前世で勇太の家があった場所、そこから200メートルの今川薫の家も探したけどなかった。
今世では10キロ西にパラレル勇太やパラレルカオルの子供の頃の家があるはず。
ここにあったらおかしい。
勇太は少し笑った。
「あ、ルナ、ひとりで笑ってごめんな」
「勇太の家って、この町内じゃなかったんだよね・・」
すでにパラレルルナもパラレル勇太が育った場所を知っている。まさか、ここが憑依勇太の本当の故郷だとも言えない。
海が見える場所に再び出ていた。
何と言って説明していいか思いつかなかった。だから産んでくれたお母さんをダシに使う。
「実の母親と2人で来たことがあるんだよね。特徴もないこの海辺が俺だけのお気に入りのスポットなんだ」
「勇太だけの?」
「うん。梓さえ連れてきてない。誰も知らないんだ」
にこにこした勇太に、ルナも嬉しくなってきた。
「だから・・」
「うん」
「ルナを連れてきたくなったんだよね」
「わ、わたし?」
「そう、ルナと来たかった」
はっとして、ルナは勇太を見た。やっぱり自分は誰かの代わりじゃない。過去に勇太が好きだった『ルナ』との思い出を辿っているわけではない。
その思いが深まった。
勇太も同じ気持ちだ。
前世ルナと海岸線は歩いたけど、ここではない。もっとオシャレに整備された西の方。前世ルナの家の近くだ。
そこをあえて、目の前のルナと辿る気はない。
目の前にルナに、本当の自分の原風景を見せたかった。
前世ルナとの思い出は大切な宝物として心の中に残している。
だけど、自分が前世で逝って、死がふたりを分かつこととなった。
なのに実際には、自分も向こうの世界のルナも生きている。
あっちのルナもきっと幸せになると信じるしかない。だから自分も一生懸命に生きる。
中途半端な思いを外に出しても目の前のルナを悲しませるだけ。
思い出の場所がパラレル世界でも似すぎていて、少し気持ちが揺れている。その程度だ。
海岸に降りられる階段があった。そこに2人で座った。
「ルナ、あの歌を歌ってよ。前にも歌ってたフランスの歌」
「あ、あれ?」
「うん。覚えたいんだ」
パラレルルナが好きな歌は、フランスの古い歌。昭和のマルチタレントでジャンヌという人だった。
前世で該当する人がいるのか、勇太は知らない。
「♪♪♩♪♩♩♩♩♩₩₩♩♩₩₨₨₢₡」
ルナは張り切っている。それは勇太が把握していなかった世界観のひとつ。
勇太は軽く言ったけど、男子から歌のリクエストをされる女子は130人に1人という世界。
張り切ったルナは、勇太が予想していたより3倍くらいの音量で歌い出した。
勇太はルナの手を強く握った。ルナは語りかけるように歌いながら、手を握り返してくれた、
前世のルナはyraという歌手のファンで、ドラマの主題歌になったデビュー曲が大好きだった。
すごく売れた。今世でパクって出しても間違いなく売れると思う。
だけど出さない。
前世のルナへの思いがにじみ出てしまうと、目の前のルナを悲しませてしまう・・
だから封印する。




