126 ルナ、金星なるか
新人戦の個人戦も決勝戦を6試合残すのみとなった。
全13階級のうち7試合が終了。優勝者は勇太のとこにきて、祝福のハグをおねだりした。
勇太は応えながら呟いた。
「俺って、試合場に行くたびに、これやるの? まさか、世界規模の大会でもリクエストされないよな・・」
されます。
さて、63キロ級のカオルは開始1分の豪快な体落としで復活をアピール。69キロ級ハラダも大外刈りで順当に優勝した。
そして60キロ級の田中ツバキ部長も押さえ込みで勝った。
次は54キロ級決勝。パラ高・花木ルナVS茶薔薇学園・イズミヤエコの対決である。
その前に場外。
「おめでとうカオル」
「サンキュー勇太」
勇太がグーにした右手を伸ばして、カオルが応えた。おめでとうのグータッチだ。
「じゃ、またあとで」
「おう、終わったら打ち上げだな」
あっさりと自分達の陣営に戻っていった。
それはそれで、ギャラリーがざわついた。待て待て待って!と。
「カオル、あっさりしてるね」
「ん?だってアタイは仲間のヤエコの応援しねえと。勇太もパラ高のルナの方だよな」
ツバキ部長に聞かれ、軽く答えるカオル。
ギャラリー同様に、カオルが仲間のヤエコ、婚約者のルナの間でハラハラするシーンを期待してた。
けど、あっさりしてる。
観客は、勝手にカオルに感心している。
希少な男子より自分の陣営を大切にするのか・・
男子が一緒でも心が強い・・
私なら勇太君に付いて行っちゃう・・
カオルさんって、一味違うよね・・
あれがモテる柔道女子なのか・・
勝手に解釈して話している。これを真似してもモテる訳じゃないと言いたい。
単に、友達色が残っている2人の独特な距離感だ。
あとでカオルがネットで、この手の書き込みを見て困惑することになる。
「始め!」
ルナとイズミヤエコの試合が始まった。
いきなり攻めたのはルナ。ノーポイントだか、ヤエコを翻弄している。
公式戦、茶薔薇学園での練習試合を入れて2人は13回対戦している。
同階級の2人は中学時代から戦っているが、ヤエコの全勝。茶薔薇にスポーツ推薦で入った実力者だ。
ただし、今の瞬間はハンデを背負っている。
54キロのエントリーは30人。ルナはトーナメント抽選運に恵まれて、シード枠で4試合目。最初の2試合が白帯、準決勝だけ初段が相手だった。
対してヤエコは、試合時間に余裕がなく、かつフルで5試合のトーナメント位置を引いてしまった。そして初戦が事実上の決勝戦という相手。そこから準決勝までの3試合も同じ2段と対戦した。
左手の握力が戻らないくらいクタクタである。
しかしルナは攻撃の手を緩めない。
「うりゃああ!」
「くううう!」
ルナだって、この世界の戦う肉食女子。今は勇太の前世の男子と同じような感覚。小規模な大会だっていいから、大好きな勇太の前で優勝をしてみたいのだ。
開始4分。
ルナは大外刈りで有効1つ。ヤエコも足払いで有効1つ。
ここでヤエコが勝負に出た。
「私だって勇太君にハグして欲しいいぃ!」
「甘い!」
ルナは普段から体重が15キロ重い勇太の技を受け止めている。握力と腕力が落ちているヤエコの引き手を切って、逆に襟をつかんで自分の右足をヤエコの右足に絡めた。
ぱーん、とヤエコを投げて1本。
「勇太、やった、やったあ!」
よほど嬉しかったのか。礼をしたあとのルナが人目も憚らず、勇太に飛び付いてきた。
「おう、おめでとう!」
「嬉しい~」
たっぷり抱擁したあと、ルナは周囲の視線に気付いて降りた。
そして、やっぱりこうなる。
「勇太く~ん、私もお願いしま~~す」
ドドドと豪快な足音とともに、69キロ級の茶薔薇学園ハラダが飛び付いてきた。
助走を付けて飛び込んできたガッチリ女子を勇太が受け止めきれず、後ろに転がった。
会場が沈黙した。
女子達の暗黙の了解で、勇太に飛び付いていいのは60キロまでとなった。
もちろん勇太には、許可を取っていない。




