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最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います  作者: 八緒あいら(nns)
第四章 嫉妬編

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第十話「狭まる道」

※前の話で齟齬があったので少し文章を変更しています


オー爺が来た時期

修正前→選択肢が出てから数ヶ月後。

修正後→ミレイユが去った後。


いつもながらガバガバですみません。

 さすがに実力を見ずに追い返す訳にもいかず、オー爺をお姉様の家庭教師に宛がってみる。


「さすが公爵家の家ですなぁ。しっかりと花壇が整理されていて、花も喜んでいます」

「ありがとうございます。それよりも先生、魔法の授業を……」

「おおーこれはすみませんな。で、どこまで話してましたかな」

「これから実技です」

「そうだそうだ。レイラお嬢様は覚えがいいですなぁ」


 私はお姉様の授業風景をハラハラしながら眺める。


「あの人で正解なのかな。教え方とかはソフィーナから見てどう?」


 隣に座るノーラがそう尋ねてきたので、私はここ数日のオー爺への感想を告げた。


「座学は覚束ない、すぐに話が脱線する、極めつけは魔法の実力だ。見てみろ」


 ちょうど魔法の実技が始まったので、そちらを見るように促す。


「『精霊……えーと……清らかな水をこの辺に』」


 オー爺がしわくちゃの手をかざすと、ぽちゃん、と水滴が落ちる。

 その量はダメ教師その四・ハロルドよりも少ない。


「呪文の詠唱を忘れる、精霊への敬意がない、何よりも――」


「ではレイラお嬢様。今日はこの辺にしておきましょう」

「え、もう終わりですか……?」

「申し訳ありませんなぁ。もう魔力がすっからかんでして」

「はぁ……」


 お姉様とオー爺のやり取りを聞きながら、私は握り締めた拳でテーブルを叩いた。

(ノーラの肩がびくりと動いた)


「――魔力が少ない! 水やり程度の魔法数発で枯渇するとかあり得ないだろ」


 一応、お姉様にも感想を聞いてみた。

 オズワルドの紹介ということもあり、かなり気を遣っていたが物足りないことは明らかだった。

 スイレンを発端として始まった今回のループ。

 奇病の時より試行回数はかなり少ないが、それらを俯瞰して考える。

 皮肉なことだが、スイレンが課した過負荷な訓練をしている時が一番お姉様は輝いていた。

 オズワルドの婚約者だった頃はそんな素振りは全く見せていなかったが。

 本当に、魔法が大好きなのだ。


 オズワルドという重荷のないこのルートでは好きなことを好きなだけしてもらいたい。

 そのための最適なルートは、私が絶対に見つけ出す。


(理想はやはりミレイユ→スイレンの順番か……?)


 最初からスイレンを教師にすると、その分過負荷な訓練が前倒しになってしまう。

 最初はミレイユに師事するところからスタートしてもらい、その後スイレンにバトンタッチする形にすれば負荷はその分ましになるはず。


 この順番なら、スイレンの最終試験を乗り越えられるんじゃないか……?


(もしくは魔物襲撃イベントを回避する方向で行くとか)


 お姉様の過負荷な訓練に早い段階で気付いた際、スイレンに訓練を適度に緩くしてもらうように掛け合ったことがある。

 そのせいで二人は郊外へ訓練に出て、不幸にも魔物に出くわしてしまう。

 訓練を適度に抑えてもらいつつ、外に出ないように働きかければ……。


(いや。スイレンはもう信用できない)


 スイレンは二年もの間、お姉様を壊すための訓練を課していた。

 彼女の本心を知った今、掛け合いや相談は論外だ。


 私はノーラに思いついた可能性を話して聞かせる。


「スイレンさんの最終試験をレイラが突破できるかどうかと、魔物襲撃イベントを回避できるかどうか。その二つはループして試した方がいいね」

「すまない」

「水くさいなぁ。そんなこと思わなくていいんだからね」


 花をモチーフにしたティーカップの中身を飲みながら、ノーラは「そういえば」と指を立てた。


「ソフィーナが言ってた『精霊への敬意』って、ないとマズいの?」

「ああ。最悪、魔法が発動しなくなる」

「そうなんだ!?」


 私たちが使っている精霊魔法は、魔力という対価と呪文を使い、精霊に『お願い』することで魔法を代行してもらう技術だ。

 自分ができないことをしてもらうのだから、そこに敬意が無ければ魔法は上手く発動しない。


「例えば知らない奴に『おい、水を汲んでこい』って言われるか、『すみませんが水を汲んできていただけませんでしょうか』って言われるか、ノーラはどっちの言うことを聞きたくなる?」

「後のほう」

「ほら。そういうことだ」

「なるほど~」

「敬意がいらないのは強い魔力を持った奴だけだ」


 ダメ教師その一・ドノヴァンがいい例だ。

 あいつは魔力が多いから不適切な呪文でも魔法が発動した。

 けれどまだ成長途中のお姉様には、お姉様に合った呪文を唱えなければならない。

 だからドノヴァンをまるごと真似したお姉様の魔法は微妙な効果しか出なかった。


「さっきの例で言うと『おい、水を汲んでこい』と言いつつ金貨を投げつけてきたら渋々でも従うだろ?」

「う……うん」

「精霊もその辺は現金なんだ。魔力さえ多めに与えれば渋々でも働いてくれる」

「なるほど。……じゃあ、ちゃんとした呪文を唱えればドノヴァンさんはもっと少ない魔力で魔法が使えたり、同じ魔力消費でももっと威力を高められた?」

「そういうこと」

「すごい、分かりやすい」


 一度は納得しかけたノーラだが、私の方を見て再び首を傾げる。


「けどソフィーナ、無詠唱で魔法が使えるとか言ってなかったっけ?」

「あれはまた別の技術」

「今は使えないの?」

「無理だ。身体がもたない」


 低レベルの魔法ですら少なくない負荷がかかる幼少期(いま)の身体。

 もし無詠唱なんて使ったら全身から血を吹いて死んでしまう(経験済み)


 私はテーブルに突っ伏し、頭を抱えた。


「あー、どこかにミレイユの性格とスイレンの実力を兼ね備えた水魔法使いはいないのか」

「あはは……たまにはそういうご都合主義展開があってもいいのにね」


 愚痴をこぼしながら、私は早々に去って行くオー爺の背中を見送った。



 ▼


 それから何度かループを重ね、スイレンを回避できるルートを模索した。

 結論から言えば、無理だった。


 ミレイユ→スイレンの順で最終試験を迎えれば超えられるかと思ったが、お姉様はそこで必ず『壊れる』

 これはそういうイベントらしい。


 魔物襲撃は論外。

 やはりスイレンはこの時点でお姉様を壊す算段を付けていたことが分かっただけだった。


 オズワルドが別の家庭教師を連れてきてくれるかもしれない、という期待を込めて例の選択肢が出るルートで進んでいるが、どうやらオー爺しか相手はいないらしい。



 徐々に選択の幅が狭まり、私が進むルートが一本化されてくる。

 スイレンを家庭教師に据え、ある程度お姉様を鍛えてもらい、その後。





 ――スイレンを、殺す。

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