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最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います  作者: 八緒あいら(nns)
第一章 新ルート開拓編

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第六話「やり直し」

 私がオズワルドとの仲を深めるために利用しようとしているもの。

 それは――誘拐イベントだ。


 とある日にお姉様が街へ出ると死亡イベントへと変貌してしまうが、本来は無関係な対岸の火事。

 対処法は簡単で、当日、街に行かなければいいだけ。

 死亡イベントを起こすことのほうが難しいくらいだ。


 ……実はあのイベント、私が誘拐されることもできる。

 これを利用し、オズワルドと共に街へ出て誘拐してもらおう、という訳だ。


 人間は危機に陥ると傍の異性を強く意識するようできている。

 本能がそうさせるのだ。

 その状態で、私が華麗に脱出の手引きをすれば――。


「ソフィーナかっこいい! 一生あなたの言うことを聞きます!」


 ――となるだろう。


「まずはあの裏庭の場面からやり直しね」


 私はノートに先程までの人生で覚えたことを書き込み、それを机の奥深くに仕舞い込んだ。



 ▼


「この方に一目惚れしました!」


 吐きそうな台詞を再び口にしながら、オズワルドの婚約者の座につく。

 誘拐イベントは発生が早い。

 前回と同じルートではオズワルドとの勉強会を始める前に終わってしまう。


 なので、今回は私の方から家庭教師に相談することにした。


「オズワルド様と一緒に勉強会……ですか」

「はい。少しでもお側に居たくて」


 実際は顔を見るだけで過去のあれこれを思い出してブン殴りたくなるが、もちろんそんなことは一切顔に出さない。

 少しだけ頬を染め、上目遣いでもじもじと指を合わせる。


 必殺・おねだり顔。

 成長するにつれ女性には効かなくなる――どころか、反感を買ったりするようになる――が、五歳の今では万人に効く最強の技だ。


「だめ……でしょうか?」

「私の一存では決められませんので……他の者と相談させて頂きます」


 術中に嵌まった家庭教師は、にへ、と私のおねだり顔に頬を緩める。


「今のところ問題になりそうなのは……」

「学ぶ範囲については大丈夫です。おねーさまに教えていただいていたので、オズワルド様と同じところでもご迷惑はおかけしません」


 私はあらかじめ用意しておいた、二年先の部分を解いた問題集を見せた。

 ほう、と口を開く家庭教師。


「これをお一人で解かれたんですか?」

「はいっ」

「……ソフィーナお嬢様は優秀なんですね」


 そんなことはない、と、胸中で首を振る。


 私は何を学ぶにも人より遅い。

 得意げに広げる問題集も、すらすら解けるまでどれほど時間を要したことか。

 巻き戻る能力が無ければ、それこそ両親が言っていたように『出来損ない』だっただろう。

 そして、お姉様が私の力を信じてくれなかったら――運命に、神に抗おうとなんてしなかっただろう。


「おねーさまの教え方がよかったんです」


 謙遜でも何でもなく、今の私があるのはお姉様のおかげなのだ。



 ▼


 オズワルドとの勉強会は、四日目で頓挫した。

 ここまでは前回の通りだ。


「わたし、探してきます」

「あ、ソフィーナ様……!」


 部屋を飛び出し、アレックスと遭遇する。


『オズワルドの居場所を聞きますか?』

 はい

 いいえ


 ……ここで『いいえ』を選んだらどうなるのか。

 気になるが、今は放置でいいだろう。

 前回と同じく『はい』を選択する。


「ひょっとしたら裏の庭園に居るかもしれないよ。ただ、見つけるのは難しいかも」

「ありがとうございます。そちらを探してみますね」


 難しいも何も、もう隠れている場所は分かっているのだ。


 裏庭に移動した私は、草むらの一部をかき分ける。


「オズワルド様、みーっけ」

「げ!?」


 迷いなく発見した私を、オズワルドは心底驚いた様子で出迎えた。


「ど、どうしてここが?! 兄上すらも知らない僕だけの場所なのに!」

「女のコは、好きな人がいる場所が分かるチカラを持っているんですよ?」


 適当に誤魔化すと、オズワルドは「そうなのか……!?」と、完全に信じている。

 面白いのでそのまま放置しておいた。


「勉強がイヤなんですか?」

「どうせ兄上が父上の後を継ぐんだ。僕がわざわざ学ばなくてもいいだろう!」


 両手を広げ、自らの研鑽の無意味さを力説するオズワルド。

 ……ここの部分は本当に変わらない。

 ブン殴って言うことを聞かせてやりたくなるが、ぐっと我慢し、私は彼に魅力的な提案をする。


「じゃあ……遊びませんか?」

「僕が、お前と?」

「はい。オズワルド様の知らない遊び、私は知ってるんです」

「なに?」


 少しだけ悪い笑みを浮かべ、私は塀の隙間から見える外を指した。


「城下町へ行かれたことはないですよね? あそこには楽しく遊べる場所がいーっぱいあるんですよ。いろんな食べ物が並べられている市場。たくさんお話を聞かせてくれる吟遊詩人たち。あとは……街を流れている水路を辿るのも面白いですよ」


 下町は庶民の場。

 貴族階級の中では汚くて薄汚れた場所、という印象を持つ者も少なくないが、屋敷に籠もっていると絶対に見られない光景が広がっている。

 場所によっては本当に汚いところもあるが……少なくとも私はあの開放的な雰囲気を気に入っていた。


「しかし、危険じゃないのか?」

「私は一人で何回も行ってますよ」

「そうなのか……!?」


 今ではなく、未来では――だが、そのことは言わないでおく。

 嘘は言っていない。


「昼間は安全な場所です。ちょっとした冒険するみたいなものですよ」

「……よし、分かった」


 ――釣れた。

 私は内心でほくそ笑む。


「きまりですね。じゃあ、行きましょう」


 手を差し伸べると、オズワルドは少しだけ躊躇した後――私の手を取った。

 するりと腕を絡めつつ、オズワルドが気に入りそうな笑みを浮かべる。


「ふふっ。二人の初デートですね♪」

「やめろ! 気持ち悪いことを言うな!」


 ……ぶっ飛ばすぞ、この野郎。

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