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最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います  作者: 八緒あいら(nns)
第一章 新ルート開拓編

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第二話「婚約者を横取りする妹作戦」

 お姉様の生存にはオズワルドが不可欠だ。

 もちろん、必要なのは腑抜けたオズワルドではない。

 彼の兄アレックスとまではいかなくとも、相当な優秀さを持ってもらわなければならない。


 前回までは洗脳という方法で優秀なオズワルドを確保していた。

 繰り返しになるが、この方法では最終的に詰んでしまう。


 ならば回りくどくとも、育てるしかない。

 ……実はこの方法、洗脳の前に一度試している。

 そのときの時間軸は学生になった頃。

 逃げるオズワルドを捕まえ、講義や訓練をサボらせないというやり方だった。

 それが駄目だったから洗脳に切り替えたのだが、方法は合っていたのだ。


 ただ、始める時間が遅すぎたというだけ。

 今回は私が家庭教師となり、みっっっっっっちりと必要な知識と技能を叩き込む。

 ついでに、このどうしようもない性格の矯正も。


 そのためにはまず、私とオズワルドの接点を増やさなければならない。

 最も確実なのは、お姉様に変わりオズワルドの婚約者になること。

 この会に私が参加した理由はそれだ。


「ひ、一目惚れ……?」

「はい! かっこよくてたくましくて、なによりその意思の強い目のとりこになりました! わたしとけっこんしてください!」


 おぇー!


 無邪気な笑顔の裏で、胃の奥からこみ上げる何かを必死で我慢する。

 嘘は上手になったが、さすがに一ミリも思っていないことを口にすると吐きそうになる。


 特にオズワルドに対しては好意より殺意の方が大きい。

 こんなクソ野郎、さっさと池の底に沈めたいが……お姉様の生存のためには手を差し伸べるしかない。

 本当に、制作者(かみさま)は意地悪だ。


「ソフィーナ。本気で言っているの?」


 珍しく視線を鋭くするお姉様。

 心臓が、ギュ……と痛くなる。


 しかし私は気丈に振る舞いつつ、オズワルドの腕にさらに強くしがみついた。


「はい、お姉様。オズワルド様をわたしにゆずってください」


 ――未来の話だが、学園に通う頃になると決まって私とお姉様の不仲説が囁かれる。

 どれだけ噂の出所を(物理的に)潰そうと、それが消えることは無かった。

 それほどまでに貴族の姉妹仲は悪くて当たり前、というのが定説なのだ。


 公爵令嬢だから外面だけ仲良くしているが、実は水面下でいがみ合っている――その方が、人々は納得できるらしい。


 そんな世論を反映して、未来の世界では仲の悪い姉妹の物語が流行していた。

 今回の作戦は、その物語を参考にさせてもらっている。


 名付けて『婚約者を横取りする妹』作戦だ。


 オズワルドの性格矯正は並大抵の方法では叶わない。

 だからこそ、幼少期のこの頃から鍛えておかなければならない。


 これもお姉様のため。

 お姉様が生き延びられるのなら……クソ野郎の婚約者になることも、お姉様に嫌われることも……何てことは無い。


「ソフィーナ。(たわむ)れもそれくらいに――」

「まあまあ、良いではないか」


 見かねた父が私を睨むが、それを止めたのは……意外なことに国王陛下だった。


「こちらとしてはレイラ嬢、ソフィーナ嬢のどちらがオズワルドの婚約者になってくれても構わんぞ」


 陛下の目的は、オズワルドを私たちの家との繋がりに使うため。

 お姉様でも私でも、婚約さえできればいいと思っているのだろう。

 思わぬ助け舟に、お父様も口を噤んだ。


「お願いを聞いてくださりありがとうございます陛下」

「なに、構わんさ」

「それで……もしよろしければ、なのですが。お姉様をアレックス殿下の――」

「それはならん」


 続く言葉をぴしゃりと遮られた。

 あわよくば、この時点でお姉様とアレックスを婚約させられればと思ったが……さすがに無理か。

 王族と公爵家は密接な関係にあり、私たち姉妹が王族の兄弟を独占すれば他の公爵家が黙っていない。


 私が一度にできることは限られている。

 欲張って足元を掬われては意味が無い。

 今はこれで我慢するとしよう。


「オズワルド様、これからよろしくお願いします♪」

「ふ、ふん! しっかり僕を支えるんだぞ!」


 偉そうにふんぞり返るオズワルドに、私は笑みを浮かべた。


「もちろん。しっかりと支えさせて頂きますよ。()()()()()、ね……」



 ▼


「ソフィーナ。入るわよ」


 その日の夜。

 寝間着姿のお姉様が、私の部屋にやってきた。


「おねーさま。勝手なことをしてごめんなさい」


 理由はどうあれ、お姉様からすれば婚約者を奪われたことに変わりはない。


「それはいいのよ。私はオズワルド殿下を……そういう目ではまだ見れないし」


 この年齢のお姉様にはまだ『自分がオズワルドを支えなければ』という意識はない。


 これが芽生えると厄介だ。

 たとえ円満に婚約を解消しようとしても、心が不安定になってしまう。

 それを防ぐためにも、このタイミングでオズワルドを奪うことは必須だった。


「本当にオズワルドに一目惚れしたの?」

「はい」


 明瞭に答える私を、じぃー、と見やるお姉様。


「あなた、何か私に隠していない?」

「なにもかくしてません」


 じぃー。

 姉は疑いの眼差しを向けている。

 理由は分からないが、何かを隠しているように見えるのだろう。


 お姉様は私のことになると勘が鋭くなる。


「お父様やお母様からああしろって言われたの? もし嫌々そうしているなら私から言うわよ」

「いいえ、本心です」

「…………なら、いいけど」


 お姉様は心配してくれている。

 常に自分のことは二の次。

 何度繰り返しても、お姉様はお姉様だ。

 その優しさに潤む目元を誤魔化すように、私はお姉様に飛びついた。


「わっ」

「おねーさま。今日は一緒にねませんか?」

「仕方がないわね……今日だけよ?」


 やれやれ、と私の頭を撫でるお姉様。

 二人で他愛のない話をしているうち、私たちはどちらからともなく眠りについた。


 明日から、オズワルドをみっちりと鍛えなければ。

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