【PHASE5-4】吹き荒れる旋風マシン
――静岡・富士スピードウェイにて突如出現したD.D.G、【ヴァーチャル・フォーミュラX】に単独で挑もうとするゲームチェイサー・ハリアー。
一人のゲーム戦士が、二十数名の軍勢相手で一位を勝ち取るには余りにも無謀な挑戦ではあるが、ハリアーには頼もしい仲間がいる。このゲームで仲間への救助要請を図る事になるだろうか。
それ以前に、ヒート達ゲームチェイサーのメンバーはこの事態を把握しているのだろうか……?
〘◇Now Lording◇〙
――代わって地底空間・喫茶店『パラケルスス』。ハリアー以外のメンバー全員が、活動範囲の拡大を図るために喫茶店に集結していた。
「天音、【ヴァーチャライズ・サーチ】のアップデートデータを本体に設置したまえ」
「りょーかいですジョーカーさん!」
響波姉妹の姉、ツインテールの天音ちゃんは大型コンピュータのCPU部分にディスクのようなアップデートデータを装填、次第にインストール体制に入った。
「それがD.D.Gの察知範囲を広めてくれるの?」
「そうですアリスさん。今まで東京全域が限度でしたが、皆さんがゲームで勝ち取った賞金が資金となったお陰で、ジョーカーさんの技術の力で日本各地のD.D.Gを察知することが出来たのです!」
今度は響波姉妹の妹、三編みロングの琴音さんが誇らしげに語った。
普段ゲームチェイサーは、D.D.Gの出現時刻・場所を本拠地であるパラケルススの司令室に設置された【ヴァーチャライズ・サーチ】、つまり仮想空間を作り出す次元の歪み・ヴァーチャル空間を検知してD.D.Gに挑んでいた。
しかし秘宝“栄光の太陽”の欠片を探すにも、大規模な活動範囲と時間が要されると判断したジョーカーは、この検知装置の改良を図って東京全域から日本各地へ大幅改新! ゲームチェイサーの活躍に貢献させようと考えた訳だ。
《【ヴァーチャライズ・サーチ】アップデート・100% 完了》
おや、意外と早めにアップデートが完了しましたよ!
「よし、これで我々の活動の眼が広がった。早速起動してみよう」
ジョーカーは響波姉妹に、ヴァーチャライズサーチのアップグレード版を起動させる。すると早くも大型モニターに映し出されたのは日本の全体マップ。そこから無数の色とりどりな点がマーキングされているではないか!
集団恐怖症には多少キツイ日本各地を覆う点々の数々、ヒートもこれには圧倒された。
「オイマジか、検知した時点で数百もD.D.Gが出現される事になるのかよ!」
「一応この検知は最大で三日後まで把握できるが、もう少し条件を絞った方が良さそうだ。“栄光の太陽”の出現の可能性が高いゲームなら……」
ジョーカーは条件検索で“栄光の太陽”の欠片を獲得出来るD.D.Gに絞ってみると、先程とは打って変わってマーキングは数えるほどに減っていった。
「成程、“栄光の太陽”狙いでも十件行くかいかないかの割合なのか」
「どんだけ確率低いねん……ありゃ。ジョーカーさん、静岡の所で点滅してるマーキングは何でっか?」
ツッチーが目に付いたのは、マーキングとは別に時間毎に点滅している緑色の大型マーク。ジョーカーは改めて確かめてみると、
「これはハリアーの現在地を表すマークだ。最初にお前たちに渡した四大精霊のジャケットに埋め込んだGPS装置から発信されたものだが……静岡の小山町とは、随分遠出したものだ」
静岡県の小山町…………って、ここってもしかして。
「そこ、富士スピードウェイの場所じゃねぇか?」
「えー! ハリアーってばジョーカーさんの集合ほったらかしてレースしてるの!?」
ヒートとアリスがご察した通り、そこはマップから見ても富士の近くに長いメインストリートが特徴的なサーキットエリアが目立つ富士スピードウェイ。しかもそのド真ん中には、丁度“栄光の太陽”の欠片が出現する可能性を秘めたD.D.Gがマーキングされていた。
「待て、そのD.D.Gがマップでは“出現済・進行中”と出ている。……まさかハリアーだけでこれに挑んでいるのでは……?」
(―――――――――繋がった)
ヒートはこの時、張り巡らせていた伏線が一本の線になるようにハリアーの思惑を悟った。
彼の単独行動、友人の繋がり、D.D.Gの出現といった要素から逆算して浮かび上がった、ヒートの湧き上がる不安の意。
「おじちゃん、今すぐ俺達を富士スピードウェイまで転送させてくれ!
―――ハリアーのヤツ、嵌められたんだ!!」
ヒートの青ざめた表情から何を想像し、それを止めようとしているのかは彼のみぞ知る事。
そんな事などいざ知らず、地上・富士スピードウェイでは今まさにD.D.G印のヴァーチャルレースの戦いの火蓋が切られようとしていた!
〘◇Now Lording◇〙
――ゲームチェイサー・ハリアーを含む24名のゲーム戦士が、ピット・パドックにてマシンの整備を経て、スタート地点『スターティンググリッド』にセットされたマシン24台。
モータースポーツではレーススタート前に、コースの手馴しとして一周だけ周回走行する『フォーメーションラップ』を終えて、改めてグリッドに着くことになっています。今回はこういったモータースポーツ用語も込でゲームをお送り致します。
フォーメーションラップを終えた全車が再びグリッドにセット。マシンに登場する彼らの下を見下ろすはスタート手前に設置された横一列に連なるシグナル。その左端の下部分に点灯した二つのレッドシグナルがスタートの“構え”の合図であります!
フォーミュラマシンにスーパースポーツ、大小異なるも低く唸るエンジン音が、早く走らせろと煽りを立てているように感じます。このヴァーチャルレース、未曾有の事態は必須のこのゲームを制するのは誰か!?
レッドシグナルが左から右へと、連なり点灯した時がカウントダウン!!
―――3・2・1……………
レッドシグナル・全消灯! ピットロード出口のブルーシグナル点灯!!
ガォォオオォォォオオォオオオオオ!!!!!!
一斉に吠え立てるモーターマシンの大咆哮!! 痺れを切らせた猛獣達が自慢のホイールで突っ走る!!!
さぁ最初が肝心のスタートダッシュ、ここでマシン流星群から抜けて最前線を突っ走るのは……
出て参りましたご覧ください!! フォーミュラマシンを超越したエメラルドグリーンの流れ星、ゲームチェイサー・ハリアーが巧みに走らす『サウザンドストーム・1000HSX』!
風をもぶっちぎる時速300キロのスピードが、空気抵抗をも劈いて周囲に渦巻の暴風を起こしている。まさに旋風マシン!!
――――彼の進む地平線は未知のヴァーチャル空間、そこから立ち塞がるものは果たして何か!!?
〘◇To be continued...◇〙




