第12話「宇宙海賊と成層圏の亡霊:後編」【Gパート 大気圏再び】
【5】
撃ち抜き、切り裂き、ガンドローンで蜂の巣にし、次々と無人キャリーフレームを落としていった裕太たち。
撃墜した機体はすぐさまサツキが説得し、その数を徐々に減らしていった。
「ハァ……ハァ……、あと何機だ……?」
「ゼェ……ゼェ……、残りは4機くらいだけど……もう時間が……!」
エネルギーも尽きかけ、弾薬もほぼ撃ち尽くした満身創痍の状態。
重力に引かれるエリアの中に残った数機の無人キャリーフレームを残した状態まで持っていったが、裕太たちの体力は限界に近づいていた。
そして、その宙域に接近する〈ネメシス〉の存在は、この戦闘の時間切れを意味している。
「レーナちゃん、流石にこれ以上は……」
「そうね進次郎さま……。40点、一度〈ネメシス〉に引き上げましょう」
「仕方ないか……」
裕太も諦めて〈ネメシス〉へと向かおうとしたその時、突然ジェイカイザーが『あれを見ろ裕太!』と残った無人キャリーフレームの方を移した映像を表示してきた。
その映像の中では、4機の無人キャリーフレームがまるでサツキが姿を変えるときのように金色のスライム状へと姿を変え、一箇所に集まって混ざり合い、巨大な何かへとその姿形を変貌させていく。
「な……!」
「ん……!?」
『だ……!?』
「なによ、あれ!?」
変化の止まった水金族の集合体は、キャリーフレームの二倍はあろうかという巨体を持つ肉食恐竜ティラノサウルスを思わせるフォルムの兵器となった。
キャリーフレームにしては大きすぎるし、その生物のような外観はいままでのどの機体にも該当しない。
「ザウル……」
「え?」
「進次郎さん、彼らはあの姿を〈ザウル〉と名乗っています!」
「名乗るって……あれ生き物なの、サツキちゃん!?」
進次郎が隣に座るサツキに問いかけているのだろう、通信モニター越しにサツキが首を横に振っている姿が見えた。
「あれは……彼らが見てきた兵器の中で最も強力なものの姿をかたどったものです」
「ってことは、ああいうのを作った連中がいるってことか。それより……」
重力に引かれながらも、〈ザウル〉は体を丸めるようなフォームをとり、表面装甲を淡く発光させる。
と同時に敵が攻撃のためにエネルギーを放出しようとしていると、コンソールに警告が表示されアラートが鳴り響いた。
『裕太、高エネルギー反応だ! 攻撃が来るぞ!!』
「えっ……ああっ!?」
ビームシールドを構えた瞬間、〈ザウル〉の全身から全方向へ無数の光線が放たれる。
細いレーザーにも見えるそれはビームシールドの防御壁の表面に弾かれるように屈折しながら、ジェイカイザーの巨体をジリジリと押してゆく。
他のみんなは無事なのかと裕太が後方のカメラ映像に注目すると、レーナの〈ブランクエルフィス〉も進次郎の〈エルフィスMk-Ⅱ〉もビームシールドでしっかり攻撃を防ぎつつ、母艦である〈ネメシス〉の甲板へ向けて後退をしていた。
艦の付近を通るレーザービームが揺らめきながら掻き消えているのを見るに、何かしらの防御装置あるいはバリアーが働いているらしい。
「よし、さすがにあのバケモノも大気圏に落ちたら終わりだろう。俺たちも〈ネメシス〉に帰るぞ! ……っ!?」
そう言いつつペダルを踏んだ瞬間、裕太はガクンという揺れとともに異変を感じ取った。
『裕太! 地球に引っ張られているぞ!! ペダルを踏むんだ!』
「しまった! バーニアがガス欠した!!」
「ちょっと笠本くん!? 大丈夫!?」
エリィが心配そうな声で通信を送るが、既に手遅れであった。
遥か下で、大気圏で押しつぶされた空気による断熱圧縮によって炎に包まれたように赤熱する〈ザウル〉を見てゾッとする裕太。
そうしている間にも機体は徐々に落下速度を増し、高度がみるみる下がっていく。
『裕太! この間の時のようにショックライフルの反動で……!』
「あん時はバーニア込みでギリギリだったんだぞ! くそっ……どうすりゃあいい!? どうすれば……!!」
ビービーというアラートが鳴り響き、ジェイカイザーの本体熱が上昇していることを示す、真っ赤な警告画面で赤く照らされるコックピット内。
コンソールから装備の詳細を参照し打開策を見つけようとするが、良い案は浮かばなかった。
通信で助けを求めようにも、周囲の大気がプラズマ化した事によって電波が遮られ、画面には無情にも圏外の文字が浮かび上がっている。
『熱いぞ裕太! 私たちはこのまま月で買った同人誌も読めずに死んでしまうのか!?』
「おいこら! 悔やむならもっと悔めることあるだろ!」
『ジュンナちゃんとイチャイチャしてみたかったーーっ!』
「そういうことじゃねえって! あーくそ!」
徐々に室温の上がっていくコックピットの中で、熱に思考を奪われながら助かる策はないかとぐるぐる考え込む。
そうしている間にもジェイカイザーがギャーギャー騒ぎ立て、集中して考えることができなかった。
「おいちょっと黙れ! 何か策があるかもしれねえんだから!」
『そうは言ってもだな! 下の〈ザウル〉がまたレーザービームを撃とうとしているのだぞ!!』
「だからって……は? あいつまだ燃えてないのか!?」
疑い半分に下方向を映すカメラの映像を見ると、たしかに〈ザウル〉が先程のレーザービームを撃つ体勢のまま大気圏を落下している。
それを見た瞬間、裕太の頭に電流が走るが如く名案が浮かんだ。
操縦レバーを握る両手に力を込め、コンソールを操作してウェポンブースターを起動させる。
『裕太、ライフルの反動では速度は……』
「バカヤロウ! もう1個ビーム使えるもんがあるだろ! ウェポンブースター起動!!」
『……! そうかッ!! ハイパービームシールドッ!』
裕太がトリガーを引くと同時に、手の甲を下に向けたジェイカイザーの左腕の手首から、エメラルド色の結晶が飛び出した。
その結晶は手の甲のビームシールドへと伸びていき、桃色の光を発していたビーム発振器からジェイカイザー全体を包み込まんとする緑色の長く広いビームが放出される。
輝く緑色のビームの泡に包まれながら、気体温度を示す表示の数字が下がっていくさまを見て、裕太はヘルメットを外して吹き出ていた汗を宇宙服の袖で拭った。
『裕太、これは……!』
「大気圏突入の時の熱ってさ、凄まじい落下スピードで空気を押しつぶすことから発生する熱なんだ。だからこうやってビームの壁で圧縮面を形成すれば……」
『本体には熱が来ないということか!』
「そういうこと。大気圏の熱よりもビームの熱のほうが温度は上だからビームシールドが熱でやられる心配もないしな」
手で顔をあおぎながら上方を見上げると、甲板に他のみんなの機体が伏せるように張り付いた〈ネメシス〉が降りてくる様子が見える。
大気圏を無事に抜け、周囲の空が黒から青へと変化し、裕太は安堵した。
───Hパートへ続く




