第12話「宇宙海賊と成層圏の亡霊:後編」【Eパート 出撃!エルフィスMk-Ⅱ】
【3】
手早く宇宙服を着込んだ進次郎は格納庫にいたヒンジーの指示に従い、白い装甲が眩しい〈エルフィスMk-Ⅱ〉のコックピットへとサツキとともに乗り込む。
サツキは曰く宇宙服はいらないそうなので私服のまま、パイロットシート脇の空間に補助シートのような簡易イスを作り出して小さなお尻をその上に載せた。
「ヒン爺さん、発進オーケーだ!」
「馬鹿言っちゃいけねぇ坊主! 宇宙に出るんだからハッチくらい閉じろ!」
「げっ……。か、風通しが良くて結構いいかもしれないと思っていたんだ」
誰に向けての言い訳なのか、進次郎はミスを恥じながら正面コンソールを指で操作しコックピットハッチを閉じた。
閉じたハッチの内壁が点灯し、周囲のモニターと合わさって周辺の地形を映し出す。
操縦レバーを握る進次郎の手に、まるで静電気をバチッとさせたような痛みが走った。
(これが裕太の言っていた神経接続か)
機体の足を載せたカタパルトにデッキまで運ばれながら、戦場に出る覚悟を決める進次郎。
これがロボットアニメなら、初陣で天才的な操縦技能を発揮して八面六臂の大活躍をする場面。
自らの内なる才能を信じ、操縦レバーを握る手に自然と力が入る。
「よし。岸部進次郎、〈エルフィスMk-Ⅱ〉、行きます!」
よもや裕太が言い切れなかったセリフを言えたとは露知らず、掛け声と共にカタパルトに打ち出される進次郎。
無重力下に投げ出されながらも勘とノリとアドリブで操縦レバーをガチャガチャし、姿勢を正しながら機体のバーニアを吹かせる。
「進次郎さん、素敵です! あ、前方から2機、キャリーフレーム来ましたよ!」
「フッ、僕が真に天才だということを証明してやらねばなぁっ!」
気合とともに、進次郎は機体の腰にマウントされているビームハンドガンを〈エルフィスMk-Ⅱ〉の手に取らせ、そのままモニター越しに照準を合わせて引き金を引いた。
と同時に次の標的へと照準を合わせ、また引き金を引く。
短い時間に放たれたふたつの光弾は、キャリーフレームのコックピットがある腹部を貫き爆発を引き起こした。
「サツキちゃん! 説得を!」
「はい!」
進次郎が促すと、サツキは祈るように両手を合わせ、ブツブツと独り言を言い始めた。
「私の言葉を聞きなさい……。あなた達は勘違いをしています……。戦闘は人間のコミュニケーションではありません……。誤った認識を忘れ、私へと従いなさい……!」
そう唱え終わるやいなや、先程撃墜したばかりのキャリーフレームの残骸が崩れるように消え始め、やがて見えなくなった。
どうやら説得というものが効いているようだ。
出撃直後に2機撃墜という、初陣に出たてでの輝かしい戦績に進次郎は鼻を鳴らしながら力強くペダルを踏む。
「よし、このまま裕太たちと合流する!」
「それにしてもすごいです進次郎さん! 初めての操縦なんでしょう?」
「ハッハハハ! 天才の僕にかかればこれくらい……どわっ!?」
突然コックピットがグラグラと揺れ、コンソールに警告が表示される。
足先にビームを受けたらしく、総称箇所を映すカメラがつま先の焼ききれた機体の足を表示していた。
続いてレーダーに反応がひとつ。
接近してくる無人の〈ザンク〉が手に持ったビームライフルの銃身を〈エルフィスMk-Ⅱ〉に向け、光弾を発射した。
「だああっ!?」
慌ててペダルを踏み込む進次郎だったが、先程の破損でバランサーに狂いが生じたのか、縦にぐるんと一回転したあと〈ザンク〉に突っ込む形でバーニアが噴射される。
そしてガツンと敵機に正面衝突してしまい、ビームセイバーを抜いた〈ザンク〉が反撃とばかりに切りつけてきた。
背筋を凍らせ冷や汗をどっと吹き出しながら、進次郎は操縦レバーについている発射トリガーを、指が反り返るほど強く押し込む。
その操作によって〈エルフィスMk-Ⅱ〉の頭部に装備されているマシンガンが発射され、コックピットにその振動が伝わってきた。
放たれたタングステン製の徹甲弾はそのまま〈ザンク〉の胴体に無数の穴を開け、機体から小さな爆発を2、3回起こした後サツキの説得を受けて消滅した。
突発的に死の危険に晒された進次郎は、ゼェゼェと過呼吸気味になった呼吸を大きく息を吸う事で落ち着かせ、額の汗を拭いながら顔を青くした。
「……け、堅実に行ったほうが良さそうだな」
「そうですね進次郎さん」
───Fパートへ続く




