第12話「宇宙海賊と成層圏の亡霊:後編」【Dパート 天才の決断】
【2】
「亡霊フレーム、数を増しています!」
オペレーター席に座る男がレーダーを食い入る様に見つめながらナニガンに向けて叫んだ。
送られてきた映像を見ながら、ナニガンは「マズイな……」と数秒頭に手を当て、すぐさまオペレーターに指示を飛ばす。
「ビーム撹乱粒子散布。味方に当てないようにメインビームカノンも適当に撃ってあげて」
「ハッ!」
落ち着いた様子で指示を飛ばすナニガン。
しかし、その表情は決して余裕とはいえず、どこか焦りが表れていると進次郎は悟った。
そして焦りの表情を隠しきれていないのはナニガンだけではない。
進次郎の隣に立つサツキの顔もまた、亡霊フレームが再生した時からよりいっそう顔を青くし、ただ事ではない雰囲気を滲ませていた。
緊張に包まれる艦橋の空気の中、次に口を開いたのはエリィだった。
「このままじゃ笠本くんがピンチよ! こうなったら、あたしもキャリーフレームに乗って戦うわ!」
「ちょっと姫様、そりゃあ無茶ってもんだよ? そんなことして下手して怪我でもしたら君のご両親に合わす顔が無くなっちゃうし……」
「だけど、あたしだって砲台の代わりくらいには……!」
エリィの無茶な提案にナニガンはコンソールを見ながら少し考えこんだあと、諦めた表情をしてエリィの方に向き直る。
「じゃあさ、格納庫に〈ザンク〉あるからそれに乗って出ちゃってよ。ただし、推力の関係で船から離れたら戻れないから、甲板にしがみついてしっかり砲台役に徹してね」
「りょーかいっ!」
言われるやいなや、エリィは艦橋の扉を潜り抜けて廊下の奥へと走り去っていった。
「ナニガン艦長、僕の見たところ彼女はあまり操縦は……」
「もちろんわかってるよ。でもああでも言わないと姫様のことだ。勝手に抜け出して出撃しかねないからねえ。まあ、〈ザンク〉に乗って射撃大会やってるうちは安心だよ」
「おいおい……。それよりサツキちゃん大丈夫かい? さっきから顔色悪いようだけど」
先程からずっと青い顔をして頭を抱えていたサツキにそう問いかけると、彼女は突然進次郎の手を握り、涙目になりながら懇願した。
「進次郎さん、お願いです! 私をあの戦場に連れて行ってください!」
「ええっ!? ちょっとどういうことサツキちゃん!?」
「恐らくですが、皆さんが亡霊と言っているあのキャリーフレーム……私の同族です!」
その言葉を聞いた瞬間、進次郎は驚きつつも、頭の中で論理が組み立った。
無人で動き、破壊されても修復される機体。
一見すると不可思議な現象であるが、サツキのような水金族があの現象を引き起こしているとなれば何が起こったとしても納得がいく。
何にでも擬態し、その姿を変えることができる水金族はいくら激しい攻撃を受けても元の形状に擬態し直して、あたかも修復したかのように振る舞っているのだろう。
無から発生したように見えたのも、霧状に宇宙空間に散らばっていた水金族が集結したとかそこらへんだと予想できる。
「彼らは恐らく、この宙域に生まれ出て、最初にキャリーフレーム同士の戦闘を見たのでしょう。それでキャリーフレームを地球人と、戦闘行為をコミュニケーションの手段だと勘違いしちゃったんだと思います」
「なんて迷惑な……。とにかく、サツキちゃんをあの場に連れていけば、この事態は何とかなるのかい?」
「ええ……。破壊され、再生しようとしている間は水金族としての性質が表面化するので、私の声が届くはずです。そこで戦いをやめるように私が念波で説得をすれば……」
決意を固めるようなサツキの表情に冷や汗をかく進次郎。
現在、他にパイロットができる人物もいないので、白羽の矢が立つのは自分に違いないだろう。
だがしかし、進次郎はキャリーフレームをまともに操縦したことが無い。
月でジェイカイザーを動かしたのだって、人の意思を機体の動作にフィードバックするシステムに任せっきりで移動させただけにすぎない。
そんな状態で戦場に出ることに、進次郎は恐怖を感じていた。
月で裕太と激戦を繰り広げたジュンナはどこへ行ったのか、この場にはいない。
「進次郎さん……私はキャリーフレームを操縦できないんです。だから頼れるのはあなただけなんです。だから……!」
「そう言われても……」
戦いに臨む覚悟が決まらない進次郎が渋っていると、ナニガンがおもむろに進次郎の方を向き、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
「事情はよくわからないけども、君に好意を持っている女の子が男をやれと言っているんだ。大丈夫さ、君は天才なんだろう?」
「……そうだ、僕は天才だ」
天才という言葉に乗せられたと自覚しながらも、内から沸き立つ勇気に身体が突き動かされる衝動にかられる。
その場でじっとできなくなった進次郎はサツキの手を握ったまま艦橋から出る扉の前に立った。
「格納庫にある〈エルフィスMk-Ⅱ〉を使っちゃっていいよ。あれなら操縦に不慣れでもそこそこ戦えるはずだから」
「わかりました、艦長!!」
サツキとともに艦橋を走り去った進次郎の背中を見送ったナニガンは、ひとこと「若いっていいねぇ」と呟き、格納庫にいるヒンジーに通信を送った。
───Eパートへ続く




