第12話「宇宙海賊と成層圏の亡霊:後編」【Cパート ガンドローンの威力】
「よし、今よ! 行っけえ、ガンドローン!」
レーナが叫ぶやいなや、〈ブランクエルフィス〉の背部に装着されたX字に伸びるパーツが、その4つの先端を分離させる形で放出される。
分離された先端──ガンドローンはその一つ一つがまるで意思を持っているかのように宇宙空間を飛びまわり、先行していた1機の〈ザンク〉を取り囲むようなフォーメーションを組みピタリと静止した。
そして次の瞬間、ガンドローンの先端に空いた小さな穴から緑色に輝く細いビーム弾が放たれる。
四方からビームの弾丸で機体を貫かれた〈ザンク〉は内燃機関に引火でもしたのか、一瞬膨らむようにその姿を歪ませ、直後に大爆発を起こして消失した。
そして、ひと仕事を終えた4機のガンドローンは〈ブランクエルフィス〉のもとへと舞い戻り、元にあった場所に収まることで機体のバックパックのシルエットをX字へと戻す。
無線浮遊ビーム砲『ガンドローン』。
何度かエリィの語るうんちくで聞いたことはあったが、実際に見るのは初めてだった。
ビーム砲自体が小型なため、単発の威力はビームライフルに劣るものの、あらゆる方向から攻撃を仕掛けるため防がれにくいのだとか。
目の前で起こった事象のように、急所をつけばビームの貫通力もあって威力の低さはいくらでもカバーが利くようだ。
「や、やるねえ」
「へへーん、ガンドローンは凄いでしょ41点!」
もはや自分の呼び方に対してツッコむ気も失せた裕太は顔を引きつらせながらも、レバーを操作しジェイカイザーの手に、ヨハンからずっと借りっぱなしのビームセイバーを握らせた。
短い柄の真ん中にあるセーフティを解除し、眩しく輝くビームの刃を発振させ正面から接近する〈ウィング〉へと向き直る。
『来たぞ裕太、正面だ!』
「よっしゃ!」
レーダーの反応と目視の情報を統合して目標との距離を測り、リーチに飛び込んできた〈ウィング〉へと斬撃を放つ。
もしかしたら人が乗っているかもしれない……という考えが裕太の頭をよぎり、思ったより早いタイミングで攻撃を仕掛けてしまった。
空振りに近い攻撃は〈ウィング〉の胴体部を僅かに切り裂いただけに留まり、腹部にあるコックピットハッチを割って宇宙空間に散らせる。
露出した操縦席の中は誰も乗っておらず、まるで個々の部品ひとつひとつが自我を持っているように、レバーやペダルがひとりでに動いている様子が確認できた。
「ああいうのを見せられると、亡霊って言いたくなる理由もわからなくはないな……」
予め聞いていたがゆえに冷静につぶやく裕太。
信じられないような超常現象を目にしても、これが現実に起こっていることなんだと無理やり頭を納得させながら、再び接近してきた無人の〈ウィング〉にジェイカイザーの頭部に装備されているジェイバルカンを発射する。
銃口から伸びた火線は吸い込まれるように〈ウィング〉の無人コックピットへと打ち込まれ、制御装置を破壊されてその活動を停止させた。
「やるじゃない、40点」
「おいレーナ、何気なく点数下げるんじゃねえ」
「だって、一発撃ち漏らしたじゃない! そういうの命取りになるんだって!」
恐らく裕太たちとあまり歳は変わらないのであろうが、宇宙海賊として実践を遥かに多く積んできたであろうレーナの言葉には妙な説得力があった。
そういえば、襲われていた輸送船はどうなったのかと周囲に目を配ると、急いで戦域を離脱したのかその船は既に遠く離れ、ただの光点にしか見えなくなっていた。
「助けてやったんだからお礼の一言くらい言ってくれればいいのに」
「無茶言うんじゃないわ40点。向こうも必死なんだから……。でもこれでライフルが使えるわね……あっ!」
レーナの〈ブランクエルフィス〉が指差した方に視線を移すと、まるで下の方から形作られるようにして先程撃墜した〈ザンク〉が再生していた。
そしてさっき裕太が機能停止させた〈ウィング〉も破壊されたコックピットハッチが元通りに修復され、再び動き始めた。
気がつけば同様に生体反応のみられないキャリーフレームが3機、4機と徐々に増えていき、背景となっている地球に斑点が増えるように増殖し、裕太たちを取り囲んでいく。
「……これって、やばいやつ?」
「さっ、テキパキ片付けましょ。パパの〈ネメシス〉に攻撃が向いたらお姫様だって危険だし、進次郎さまを守ってあげないと!」
「そうだな……!」
ジェイカイザーはショックライフルを握り、〈ブランクエルフィス〉はガンドローンを放ち、復活した無人キャリーフレームへと攻撃を開始した。
───Dパートへ続く




