第12話「宇宙海賊と成層圏の亡霊:後編」【Bパート 戦いの火蓋】
ビームシールドとは、小さな円形のビーム発振器からドーナツ状の超短距離ビームを放射することで防壁を形成する特殊な盾である。
ジェイカイザーの左手の甲に装着されたそれは、ビームセイバーで鍔迫り合いをし、切り払ってエネルギー弾を反射するように通常のシールドでは防げない攻撃を防ぐことができる。
しかし、ビーム発振器そのものが高級品なのと、メンテナンスが難しいので有用性に対し普及には至っていない……と、以前エリィが言っていた記憶があった。
実戦仕様の装備と出撃前というシチュエーションに、裕太は自らの気分を高揚させていく。
普段とは違う裕太の顔つきを察知したのか、ジェイカイザーが裕太に語りかける。
『緊張しているのか、裕太』
「冗談! 戦艦からの出撃って一度やってみたかったんだよ!」
興奮で高ぶる感情を抑えつつ、カタパルトがデッキへと到着するのを待つ裕太。
そうしている間に〈ブランクエルフィス〉から通信が入り、裕太の右に位置するサイドモニターに、コックピットに座るレーナの姿が映し出された。
「41点、行くわよ」
「だから点数で呼ぶんじゃねえっての。早く出ろよ後が詰まってるんだ」
「あら、女の子を急かす男はモテないわよ。あと、地球が近いから重力に引かれないように気をつけてね」
「わかったよ、うるさい女だ……」
「それじゃあ、早く行かないとね。レーナ・ガエテルネン、〈ブランクエルフィス〉、出るわよ!!」
彼女の掛け声と同時にカタパルトが火を吹き、〈ブランクエルフィス〉をレールに沿って押し出すように射出されていく。
いよいよ自分の番だと覚悟を決めた裕太は、一度は言ってみたいと思っていたセリフを言える機会が来たと心を躍らせていた。
そして、かねてより一人で練習していた言葉を、ついに口に出す。
「よーし! 笠本裕太、ジェイカイザー、行きぶぇッ!?」
言い終わらない内にカタパルトがジェイカイザーを放り出し、マヌケな格好のまま宇宙空間に投げ出された。
急いでオートバランサーを強めに設定して姿勢制御をし、セリフをちゃんと言えなかった悔しさをこらえながら操縦レバーをガチャガチャと動かして戦闘態勢を取る。
『裕太、一体何を言おうとしていたのだ?』
「う、うるせーな。さっさと輸送船の方へ向かうぞ……」
『了解だ、裕太!』
力強くペダルを踏み込み、バーニアを吹かせ〈ブランクエルフィス〉が飛んでいった方へと向かった。
裕太にとっては初となる無重力下での戦闘だが、不慣れな環境下でもキャリーフレームの制御装置はパイロットの望む動きを指先の神経から的確に読み取り、それをマシーンの動作へと反映してくれる。
バーニアを吹かせて、なんとか〈ブランクエルフィス〉に乗ったレーナのもとへと追いついた裕太が正面を見据えると、大きな地球をバックにする形でキャリーフレームが輸送船を襲っている姿を確認できた。
「41点、まずはわたしが仕掛けるわ。輸送船が戦場から離れるまで、銃器の使用は厳禁よ」
「わかった。……あのさ、そろそろ点数で呼ぶのやめてくれよ」
「イ・ヤ・よ!」
辛辣に返しながら、モニターの中のレーナはペロッと舌を出した。
そして先行するように〈ブランクエルフィス〉がバーニアをふかせ輸送船へと近づきつつ、懐から幅広のビーム剣『ビームブロード』を取り出す。
輸送船を襲っていた、〈ザンク〉と〈ウィング〉とみられるキャリーフレームは脅威を感じ取ったのか、輸送船の攻撃をやめてこちらへと振り向き、手に持った銃を構えた。
───Cパートへ続く




