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第11話「宇宙海賊と成層圏の亡霊:前編」【Fパート 格納庫の怪談】

 【4】


「えーっと、艦の後方ってこっちだよな」

「そうなんじゃない? 形からして」

「それにしても……さすがに3人乗りはキツイな」


 ジェイカイザーを操縦しながら、裕太はシート脇の左右の空間にいるエリィとジュンナに目配りをしつつ不満げにぼやいた。


「ご主人様、私は特に問題ありませんが。マスターが空間を圧迫しているのでは?」

「ちょっとぉ、どういう意味よぉ! あなた、あたしをマスターと呼ぶ割に全然敬意ないんじゃないのぉ?」

「私はご主人様のモノですから。あなたはただ、古いマスターの関係者と言うだけの存在です」

「生意気ぃ! あたしまだ、あんたにファーストキス奪われたの恨んでるからねぇ!」


 ビシっと裕太の目の前を横切るようにエリィがジュンナを指差し、その腕をプルプルと怒りで震わせる。

 しかし、ジュンナは涼しい顔をして「私は気にしていませんが」とちぐはぐな返しをし、ドヤッと胸を張ってエリィのものよりも大きい胸の膨らみをプルンと僅かに揺らした。


「そうじゃなくってぇ! ねえ笠本くん、あなたからも何か言ってあげてよぉ!」

「ご主人様、マスターの言うことなど気にする必要はありませんよ」

「うるさいな!! ステレオで大声出し合いやがって! ちったあ黙ってろい!」


 裕太の大声にエリィはビクッと竦み、ジュンナはエリィに向かってニヤリといやらしい笑みを送る。

 このふたりの間に挟まれ、裕太は大きなため息を吐きながら操縦する以外にできることはなかった。



「どっこいせっと。着艦完了」

『ご苦労だったな、裕太』


 艦の中間くらいからから格納庫へと伸びるカタパルトデッキへと、おっさん臭い掛け声を出しながらジェイカイザーを着地させた裕太はふーっと一息をついた。

 足元にあるいかにも足を載せてくださいといった角ばった草履状の物体に機体の足を載せる。

 するとガコンという音とともにカタパルトが動き出し、ジェイカイザーの本体が格納庫の中へとスライドしていった。

 カタパルトが停止したのを確認し、コンソールを指で操作してコックピットハッチを開くと我先にといった感じでエリィがデッキへストンと飛び降りる。

 一方ジュンナはデッキに降りると裕太に向かって手を伸ばし、ジェイカイザーから降りる手助けを丁寧にしてくれた。


「おっ、こいつが小僧のキャリーフレームか」


 カツンカツンと靴音を立てながら、片手に工具箱を持ったひとりの老人がデッキに入って来た。

 老人はジェイカイザーを見上げると「ほーう」と感嘆の声を上げ、そのままコックピットの中をおもむろに覗き込む。


「お爺さんだぁれ?」

「わしの名はヒンジー、この艦の整備班長じゃよ。と言っても若い連中はこの間の戦闘で全滅。命までは取られんかったがみーんな入院してしまったがな」


 シワの寄った物悲しい表情で格納庫の一画をみつめるヒンジー。

 彼の見つめる先にはところどころ黒く焼き焦げたように変色した壁面があった。


「爺さん、この間の戦闘って相当ひどい戦いだったんだな」

「ひどいなんてもんじゃないぜ小僧。なにせ、大気圏突破と同時に攻撃を食らっちまったんだからな。キャリーフレームの発進もままならないまま乗り込まれてこの有様よ」

「酷いわねぇ……。どんな宇宙海賊にやられたの?」


 そう訪ねられると、ヒンジーは天井を見上げてため息をつき、「宇宙海賊相手なら良かったんだがなぁ」と意味深な発言をした。


「と言うと?」

「坊主どもは知らねえと思うがな、数ヶ月前から成層圏に出るんだよ。……キャリーフレームの亡霊がな」

「ぼ、亡霊ぃ!?」


 科学の時代に不釣り合いな単語に声を裏返らせて慄くエリィ。

 ヒンジーは怖がる彼女をさらに脅すように、おどろおどろしい声色で話を続ける。


「成層圏を通ろうとするとな、キャリーフレームが何もない所からボウっと現れて襲ってくるんだ。なんとか撃墜してコックピットを見ようとすると誰もいなくて、それどころか機体そのものがすーっと消えていって……振り返ると別のキャリーフレームが!!」

「キャァァァァ!!」


 恐怖に耐えきれなくなったのか、エリィが悲鳴をあげる。

 真横にいた裕太は突然の大音響に思わずひっくり返り、元凶たるヒンジーも驚いて目を白黒させていた。



    ───Gパートへ続く

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