第11話「宇宙海賊と成層圏の亡霊:前編」【Cパート コネクション】
「あいたたた……別に格好つけだけのために眼帯してるんじゃないんだけどねぇ……。片目を隠すことで、突然暗闇に放り込まれても視界を確保できる大昔の海賊の知恵なんだからさー。眼帯つけて艦隊戦ってね」
「寒いわぁ……。でも、宇宙で暗闇に放り込まれることって無くない?」
「……そうだね」
ナニガンが諦めたように眼帯を外してポケットに入れる。
どのような事情かは察することができないが、誰かに眼帯をつけることを勧められでもしたのだろうか。
しかし裕太はそんなことよりも、先程から切り込みたかった話をようやく繰り出せるタイミングだと、この頼り無さそうな宇宙海賊の一歩前に出た。
「それはそうとナニガンさんだっけ? あんた宇宙海賊って言ってたよな」
「そりゃあそうだけど、君は?」
「笠本くんはね、あたしの恋ムググ……」
「後にしろ銀川。えっと、宇宙海賊なら俺達5人とキャリーフレーム1機を地球まで運んでくれるって聞いたんだけど」
「そりゃあ、できなくはないんだけど今はねぇ……」
煮え切らない返事を返すナニガンの様子を、先程まで裕太に手で口をふさがれていたエリィが訝しげに見つめる。
彼女に対しては誤魔化しができないといったふうに、ナニガンはため息を付きながら説明を始めた。
「端的に言うと一昨日、成層圏付近で戦闘に巻き込まれてねえ……」
「一昨日? それってもしかして軌道エレベーター付近での戦闘だったりしない?」
「そうだけど? よく知ってるねえ」
裕太はその時、ヨハンが地球に落ちそうになった流れ弾の元凶がナニガンの海賊団だということを察した。
いろいろと文句を言いたいのはやまやまであるが、今は彼らの協力を受けないといけないのでグッとこらえる。
「その時に俺の艦、こっ酷くやられちゃったわけよ。月にやって来たのも、その戦闘でケガした連中の搬送とか、壊されたキャリーフレームの修理が目的でね」
「じゃあ、今はダメってことか?」
「ダメとは言わないよ。俺たちは宇宙海賊っていうより、お金で動く宇宙の便利屋さんだからね。ただ、修理費とか治療費でスッカラカン手前だからね。今すぐにって言うならそうだな……日本円だと30万、運賃で払ってくれたらいいかな」
ポチポチと入力した電卓を裕太たちに見せながら、一見真剣味に欠ける表情でナニガンが要求すると、エリィがぶーぶーと文句を言い始めた。
「ちょっとぉ、高くなぁい? お姫様価格ってことで安くできないの?」
「冗談きついなあ姫様。大赤字覚悟でこのお値段だよ? まあ、無理なら無理で他を……」
「それならば、この天才・岸辺進次郎がこの場を預からせてもらおうか」
突然名乗り出た進次郎に、裕太たちは呆気にとられてしまう。
進次郎はそのままナニガンの前に立ち、カバンから何やらメモ帳のようなものを取り出してスラスラと数字を書き込んでいった。
そして数字を書き込んだ紙をビリっと破り取り、ぽかんと口を開けたナニガンに手渡す。
「……あまりこの手は使いたくなかったが、今は緊急事態だ。その金額なら文句はあるまい?」
強気な態度で問いかける進次郎に、ナニガンは驚き顔をスッと平常に戻し「じゃあついて来てね」とだけ言って背中を向けて歩き始めた。
彼の後を追うように駆け出しながら、さっき何をしたのかと裕太は進次郎に問いかけた。
しかし進次郎は一言「お前だけには絶対教えん」とだけ返し、早足でナニガンの方へとスタスタ行ってしまった。
「ご主人様、彼……岸辺という男は何か素性を隠しているようです。拷問にかけて自白させましょうか?」
右腕をガトリング砲に変形させながら、物騒なことをジュンナが言いだしたので裕太は手のひらを立てて左右に振る形で否定の意を表しながら「余計なことはしなくていいから」と言うと、がっかりしたようにしょんぼりとした表情を見せて進次郎の後を追っていった。
「……おいジェイカイザー。もしかしてジュンナってサド気質あるんじゃないのか?」
『我々の業界ではご褒美です』
「おまえ一回撃たれてこい」
───Dパートへ続く




