第11話「宇宙海賊と成層圏の亡霊:前編」【Aパート 宇宙海賊】
【1】
「え? 俺たち軌道エレベーターに乗れないの!?」
搭乗口で軽部先生から待ったをかけられた裕太たちは、信じられないと言った表情で彼を取り囲み詰問する。
「先生! 生徒が修学旅行から帰れないなんて話がおかしいでしょう!」
「あたしたち事件に巻き込まれまくってヘトヘトなんですけどぉ!」
「ブーブー!」
「ぷんすか!」
「だーっ! 話を聞けーっ! だいたい笠本! そこの綺麗な女性は誰だ!」
そう言って軽部先生が指差した先には、裕太たちからいっぽ離れたところで背伸びをして様子を覗き込んでいたジュンナがいた。
突然指さされたジュンナは、辺りを見回して自分以外に指されている人がいないかを確認し、向き直って首を傾げ。
「ハイ、私は、ご主人様である笠本裕太さまの所有物です」
「なっ……! 笠本っ! お前……女性にこんな事言わせるとは……せっかくの修学旅行になにやってるんだ!! 先生は悲しいぞ……!」
「お、おいジュンナ! ま、紛らわしいこと言うなよ! せ、先生、ち、違いますからね!? この人(?)何もしてませんからっ!!」
「……はあ。ご主人様は冗談が通じませんね」
冷めた顔をしながらやれやれといったポーズをとるジュンナ。
軽部先生はそんな彼女を一瞥したあと、頭をポリポリとかいて咳払いをした。
「事情はわからんがとにかく、君生徒じゃないだろ? 生徒以外の席は取ってないんだよ。それに……!」
軽部先生がぐいっと伸ばした腕の向きを変え、港の建物の外に立っているジェイカイザーを指差す。
「キャリーフレームを運ぶための費用も馬鹿にならないし、なによりフレーム運送用の車両なんて既に予約で埋まってる! つまりだ。どう文句を言われようがそのジュンナって娘を乗せることもできないし、あのキャリーフレームを運ぶこともできんからな!」
「行きは運んでくれたじゃないですかー」
「あれはヨハンを助けた恩義があったからエレベーターガードの連中が口添えしてくれたんだよ。だが、その期間はもう終わってるんだ」
うーん、と裕太は頭を悩ませた。
一旦ジュンナとジェイカイザーを置いていく、というのもひとつの手かもしれない。
しかし、このふたりのことだ。目を離している内に何をしでかすかわからない。
かといって別の便で帰ろうにも、目の前の便を逃すと次の発車は翌朝になるため余計に宿泊費用などがかさんでしまう。
具体的な解決案が浮かばないままウンウン唸っているうちに、本来乗るはずだった軌道エレベーター行きシャトルの、搭乗締め切りを伝えるアナウンスが鳴り響いた。
真剣な顔で軽部先生が「で、どうするんだ?」と最終判断を仰ぐと、一緒に考え込んでいたエリィがすっと手を挙げる。
「あたしは笠本くんと他にあてを探しますのでぇ、先生たちは先に行っててください」
「いいのか? 岸辺たちはどうする?」
「こうなったら一蓮托生です。親友として、天才として彼らを手助けしますよ」
「私も進次郎さんが残るならご一緒します!」
裕太たちの判断を聞き終わった軽部先生はウンウンと納得したように頷き、「じゃあ、頑張れよ」と一言だけ言ってシャトルの中へと消えていった。
港に残された裕太たちは改めて向かい合い、どうするかの相談を始める。
「なあ銀川、あてを探すって言ってたけど……何かいいアイデアがあるのか?」
「もっちろん! 宇宙海賊の手を借りるのよ!」
「「宇宙海賊!?」」
宇宙海賊、それは文字通り宇宙という暗黒の大海原で悪事を働くならず者のことである。
海賊船に見立てた宇宙艦を乗り回し、キャリーフレームを使って民間船を襲撃し略奪を繰り返していると、裕太は以前ネットで見たことがあった。
「おいおい銀川、海賊の手を借りるなんて冗談じゃねえぞ」
『そうだぞ! 銀川殿のような美少女やジュンナちゃんのような美女が宇宙海賊などに助力を願えば、あんなことやこんなことを……』
「されないわよ!! 宇宙海賊と一口に言っても本当に悪い海賊もいれば、人助けをしてくれるいい海賊だっているんだから。それとも笠本くん、今すぐにキャリーフレーム1機とあたしたちを地球に送ってくれる宛て、今すぐ見つけられるっていうの?」
「いや……ないけど……」
妙に自信たっぷりなエリィに先導され、裕太たちは民間船が停泊する区画へと移動することにした。
───Bパートへ続く




