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第10話「フルメタル・ガール」【Fパート 逃走経路】

 【5】


「今、銃声がしなかったか?」


 裕太たちが脱出したビルの脇で、停めてある大型トラックの運転席に座っていた男が、恐る恐るといったふうに助手席に座ってタバコを吸う相棒の男に問いかけた。


「まさか、ここに〈量産型エルフィス〉を運び入れたこと、警察の連中にバレたんじゃ……」

「バカ言え、そんなことがあるか。わざわざ木星のコロニーから運んできたブツがそう簡単に察せられてたまるかよ」


 イラついたような態度で、助手席の男は灰皿にタバコの灰をトントンと落とす。


「だけどよ、仲間が廃品置き場で襲われたそうじゃないか」

「きっとツキノワグマにでも襲われたんだよ。だってここって月だしよ、ガハハ──」


 ガクン、とトラックが大きく横に揺れる。

 走行中に縁石えんせきに乗り上げたのならまだしも今は停車中。

 男たちは「な、何だ!?」と言いながら慌ててダッシュボードの上に置いていた拳銃を手に持ち、トラックから飛び降りて急いで荷台を確認した。

 そこにいたのは、荷台のキャリーフレームを覆う布を取り払おうとする女の姿。


「動くな! 何をしている!」

「ちょっとまて、あいつの服装……ニュースで言ってた、やられたやつが取られた服じゃねえか!?」

「確かに……じゃあお前が!」


 拳銃を向けて威圧するが、女は意にも介さないように〈量産型エルフィス〉のコックピットへと消えた。

 機体が奪われるのではないかと片方の男が狼狽えるが、もうひとりの男は「起動キーはこっちの手元にあるんだ」と余裕の表情で荷台に足をかけ、そのまま上に登ろうと足に力を入れる。

 だがしかし、男の予想に反するように〈量産型エルフィス〉が動き出し、運転席を踏み潰すように立ち上がった。

 開きっぱなしのコックピットから覗いていたのは、女が背中から無数のケーブルのようなものを伸ばし、コックピットのあらゆる機器に接続している姿だった。

 女は赤く光る目を輝かせると、男たちの周辺に頭部のバルカン砲を斉射する。

 女は男たちが腰を抜かし動けなくなったことを確認すると、バーニアを操作し〈量産型エルフィス〉を空へと飛翔させた。


「……ここまでくれば追ってこれないだろう」


 サツキが擬態したホバーボードで、大通りを走る車の間を走りながらホッとした表情で裕太が呟いく。

 このプロ仕様ホバーボードは最高時速100キロを超えるハイスペックモデルであり、慣性制御システム搭載で事故の際の安全性も保証されている。

 初っ端から80キロ近い速度でしばらく走り抜けたので、そう簡単には追いつかれはしないだろう、と裕太は高をくくった。


「それにしてもあの女、人間じゃなかったな……肌の下から金属見えてたし」

「そうですね。まるでこの間進次郎さんと一緒に見た映画の、ダミーネーターみたいでした」

「それの続編に出てるようなのに似たお前が言うなお前が。……どうした銀川?」

「うーん……あの人の赤い目、どこかで見た気がするのよねぇ」

「本当か!? そもそもなんで俺達が襲われてるのかってわからないんだから、早いところ思い出してくれよ」

「そう言われたって……あら?」


 背後から聞こえるキャリーフレームのバーニア噴射音に裕太が振り向き見上げると、道路の上を道に沿うように飛ぶ〈量産型エルフィス〉の姿があった。

 その後ろで同じように見上げていたエリィが、いつものようにあの機体が何で、特徴はどうとか話し始めたのを聞き流しながら何気なく〈量産型エルフィス〉を観察していると、突如としてゴーグル状のカメラアイが光り、頭部のバルカンが発射準備を完了させた独特な駆動音を唸らせる。

 その音を聞いたらしいエリィは、ハッとした顔で裕太の後ろ襟をぐいっと掴み、横に引き倒すように力を入れながら叫んだ。


「笠元くん! 右に避けて!」

「ええっ!?」


 驚く間もなくエリィの腕に身体を横に傾けられ、進む方向を変えるホバーボード。

 その刹那、元いた場所に降り注ぐバルカン砲の弾丸。

 間一髪、という言葉がぴったりな状況だった。


「なんで攻撃されてんだ!?」

「コックピットの中見て! さっきの女の人が乗ってるわよぉ!! つぎ左!」

「マジかよ! どわあっ!」


 エリィに引っ張られ空中からの機銃掃射を左へと回避する。

 なぜあの女がキャリーフレームに乗っているのかと考える暇もなく、裕太はアクセルスイッチを踏む足に力を入れてスピードを上げる。

 大通りを走る自動車の脇をすり抜けるように疾走すると、裕太を狙った弾丸が当たったのか、後方にすれ違った自動車がスピンを起こして爆発を起こした。


「ひぇぇっ! 笠本くん助けてぇぇ!」

「くそっ! このまま逃げるばっかりじゃキリがねえ! 銀川、俺のポケットから携帯出して進次郎に繋いでくれ!」

「わ、わかったわ!」


 裕太の言うとおりに、エリィは携帯電話を取り出してアドレス帳から進次郎のダイヤルをタッチし、発信と同時に携帯電話を裕太の耳にあてた。

 数回のコールの後、「もしもーし」と気の抜けたような声で返事をする進次郎に、裕太は怒鳴りつけるように叫ぶ。 


「進次郎! 今どこだ!?」

「僕がどこかだって? スイカブックスで目的の品を手に入れたから、宇宙港のロッカーに戦利品を仕舞いにだな」

『裕太! すごくいいものが手に入ったぞ! 満月犬先生の限定頒布エロ同人誌だ! 帰ったら裕太にも……』

「んがぁぁぁ! 今それどころじゃねえんだ! 進次郎、今すぐジェイカイザーに乗って、今から送るポイントに向かってくれ!!」


 早口でまくし立てる裕太に対し不信感を持っているのか、煮え切らない返事をする進次郎。


「そう言われても僕はジェイカイザーを操縦したことがないんだぞ?」

「大丈夫だって! ジェイカイザーがサポートしてくれるし、お前天才だろ!?」

「ムッ、そうだとも天才だとも! フン、貴様が思うより早く到着してやるさ!」


 自信たっぷりな返答をして電話を切った進次郎に対し(ちょろいな)と心の中で小馬鹿にしつつ、〈量産型エルフィス〉が放ったライフル弾を身体を傾けてかわす。

 2度も回避すれば身体が覚えてくれるもので、前動作を見てから悠々と回避することができた。

 少し余裕の出てきた裕太は軽くエリィの方に振り返る。


「よし、銀川! この近くで人のいなさそうな広い場所がないか探してくれ!」

「えっ!? ちょっと待ちなさいよぉ! ええと……右に曲がって真っ直ぐ行ったところに空き地があるわねぇ」

「よし、じゃあ進次郎にその場所をメールで教えてやれ! 右に曲がるんだっだな、掴まってろよ!」

「ちょっと待って、きゃああっ!?」


 裕太はガクンと身体を傾けつつ、前方のセダンタイプの車をジャンプ台代わりにに飛び上がり、中央分離帯と反対車線を飛び越えつつビルの間の路地に入っていった。

 その後を追うように〈量産型エルフィス〉も進行方向を変え、裕太の上空をキープするように飛行する。


「よしよし、そのまま追ってきてくれよ……!」


 額から汗を垂らしながらも、裕太は不敵な笑みを浮かべつつ路地を疾走した。




    ───Gパートへ続く

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