第10話「フルメタル・ガール」【Dパート 楽しい買い物】
【4】
「どーお? 似合うかしらぁ?」
試着室から、先程選んだばかりの服を身につけたエリィが、セクシーポーズのつもりなのだろうか、身体をくねらせたポーズで裕太に問いかけた。
「あーはいはい、美人美人。よかったねー」
「もう! 真面目に見なさいよぉ! ねぇ金海さん、試着終わったー?」
「はい! どうですか?」
そう言ってエリィの隣の試着室から、サツキがオレンジ色のワンピースを身につけた姿でゆっくりと出てきながら、その場でくるりと回った。
裕太は「いいんじゃないか」と言いながらサツキが出てきた試着室の中に視線を移すと、同じワンピースがカゴに入ったまま置かれているのが見える。
サツキにとって、衣服というのは体の一部。
そのため、彼女に衣服を購入するという概念はなく、こういった洋服店に来るのも新たな服のバリエーションを増やすための情報集めのためでしかない。
店からしたらとんでもない客である。
「もう、笠本くんったら金海さんには真面目に答えるんだー。あ、店員さんこのカゴの中全部買いまーっす!」
エリィはそう言って、ふくれっ面から素の顔に戻りながらサイフからクレジットカードを取り出し、声高らかに店員を呼んだ。
※ ※ ※
「よーし、じゃあ次に行きましょう!」
カバンの中を購入した洋服でいっぱいにしたエリィが、片腕を突き上げて意気揚々と宣言をする。
エリィとサツキが試着を終えるのをただ待っていただけの裕太は、進次郎と一緒にいたほうが退屈しなかったのではと少し後悔をし始めていた。
裕太が辟易した顔をしているのに気づいたのか、エリィがにっこりと微笑みをかけながら尋ねる。
「笠本くん、疲れてるの? 何もしてないのに?」
「何もしてないから疲れてるんだよ。お前は楽しそうでいいなあ、このっ」
裕太は軽い気持ちで、エリィの頭にポスっと弱いチョップをした。
叩かれたところを手で抑え、大げさに痛がるふりをするエリィ。
「ああん、ひどぉい」
「余計なこと言っている暇があったらさっさと次に行くぞ。俺ぁさっさと終わらせて休憩したいんだ」
「じゃあ次は喫茶店に行きましょう! そうしたら裕太さんも休めますよ!」
「金海さんは優しいなあ。進次郎の奴が羨ましいよ」
「んもう!」
ぷりぷりと怒るエリィに冷ややかな笑いを送りつつ、エレベーターのボタンを押そうとする裕太。
ここは8階であり、できればエレベーターを使ってスッと1階まで降りたいところであったが、見上げるとエレベーターの停止している階層表示はどれも10階以上。
そのどれもが上向きの矢印も合わせて点灯していたため、この階に到着するまでかなりの時間がかかりそうだった。
横でサツキが同じように階層表示を見上げ、残念そうな声をこぼす。
「エレベーター、しばらく来そうにありませんね」
「だったらそこの階段から降りようぜ。いい運動になるぞ」
「えー? 階段やだぁー」
「じゃあ金海さん、行こうか」
「ああん! ちょっと笠本くん、置いていかないでよぉ!」
───Eパートへ続く




