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第10話「フルメタル・ガール」【Bパート 月面都市】

 【2】


「よぉーっし! 月だーっ!」


 宇宙港の巨大な建物の自動ドアをくぐり、外に出た裕太は青空のもと大きく伸びをしながら叫んだ。

 まばらに空きのある駐車場の中央に走る太い歩道を歩き、賑やかな市街に繋がる大通りを臨む場所に立つ。

 修学旅行も最終日、宇宙港に隣接するホテルで一晩を明かした裕太たちは、これから月の大都会へと足を踏み入れるのだった。


 月、それは人類が宇宙進出を始めた時に一番最初に惑星地球化テラフォーミングが行われた地である。

 授業中に軽部先生から聞いた話だと、まず地中に人口重力発生層を埋め込むことから惑星地球化テラフォーミングは始まるらしい。

 地球と同じ重力を発生できるようにした後、ドーム状の疑似オゾン層を形成してその内側に空気を充満させる。

 そうしてできた空間に動植物や人間の生活環境を作ることで街を作っていくことで、目の前に広がる月の都は作られたそうだ。


 そんなことはさておきと、深呼吸をしながら地球とあまり変わらぬ空を見上げる裕太。

 その横では、私服姿のエリィとサツキが同じように上を見あげていた。

 雲ひとつない青空の中に浮かぶ、見覚えのない物体を見つけた裕太はそれを指差してエリィに尋ねる。


「……なあ銀川、あの空に映ってる、丸いでっかいのは何だ?」

「丸いの……って、地球よあれ」

「地球!? 俺達が住んでいる地球が空に浮かんでるのか!」


 驚き興奮する裕太を見てクスクス笑いながら、エリィは微笑みながらも呆れたような顔つきで当たり前のことのように説明を始めた。


「バカねぇ、ここは月の大地。地球から見上げたら月が見えるように、月から見上げたら地球が見えるのは当たり前でしょう?」

「青くてキラキラして綺麗ですね! まるで宝石みたいです!」

「ほら、金海さんは宇宙人だからこういう反応してもしょうがないけど、笠本くんは地球人なんだからもっとマシな反応をしなさいよぉ」

「へーへー……」


 口うるさいエリィの言葉を聞き流しながら、空に地球が浮かぶ奇妙な光景にしばし見とれたあと、裕太は視線を降ろして携帯電話を取り出し、地図アプリを起動した。

 画面の上で指を滑らせ、昨晩の内に計画した行き先を確認する。

 有名ブランド店が入ったファッションビルに、小洒落た喫茶店に、様々なアクセサリーを取り扱う雑貨屋。

 予定した目的地のほとんど全部エリィが決めた所ではあるのだが、サツキには特に欲もないし、裕太もオシャレやファッションには興味がないので行きたい場所が特になかったのだ。

 月の街は、宇宙に住まう若者たちが憧れる繁華街なのである。


「まずはこっちの道を真っすぐ行った所のビルだな……っておい銀川、携帯の画面覗くなよ」

「いいじゃないのぉ、エッチなサイト見てるわけじゃないんだしぃ。あら? ジェイカイザーの顔アイコンが無いわね」

「ああ、あいつなら進次郎の携帯に出張してるぞ」

「珍しいわね、喧嘩でもしたのかしらぁ?」

「あ、わかりました! 進次郎さんと一緒にドージンっていうのを買いに行ったんですね!」

「金海さん、正解」


 そう、進次郎とジェイカイザーはかねてより計画していた月限定同人グッズの購入に乗り出したのだ。

 詳しいことは知らないが、月でしか活動していない作家が何人かいるらしく、その人物の作品はダウンロード販売こそされているが、実物は月のショップでしか流通していないという。

 だったらダウンロード販売で済ませればいいじゃないのかと思うが、進次郎はちゃんと実物を手に入れてこそだと言って引かなかった。

 ここ数日、ジェイカイザーが携帯電話の中でせっせとリストを作成していたのも、今日この日に購入する物品をリストアップしていたらしい。


 あの2人が意気揚々と買いに行くということはつまりアレやらコレやら、そういうものなので裕太はとくに欲しいとも思わず、エリィの買い物に付き合うことにしたのだ。

 久々にジェイカイザーがいない生活に羽根を伸ばすのも悪くない、というのが裕太の心情であった。


「さあ! 時間も限られてるし、早速最初の目的地に行くわよぉ!」

「って言っても、結構遠いなあ。2脚バイクでもレンタル……と思ったけど金海さん免許持ってなかったよな」


 2脚バイクは二人乗りだったよなぁと裕太が頭を悩ませていると、サツキが得意げな顔で人差し指を左右に振った。


「チッチッチ! 私を誰だかお忘れですか? こうやって……ほら!」


 そう言いながら、サツキはその場にしゃがみ込んでグネグネと身体を変化させた。

 そのまま角ばった形状に変化を続け、やがて彼女の身体は2脚バイクへと変身した。

 水金族であるサツキは服装などの細やかな変身だけでなく、バイクなどといった無機物への変身もできるということを裕太とエリィはすっかり忘れていた。


「さあ、お乗りください!」

「助かるけど、あまり人前で変身するんじゃないぞー」

「はーい!」

「よし、それじゃあ改めて、レッツゴーよぉ!」


 運転席にエリィ、後部座席に裕太を乗せて、サツキが扮した2脚バイクが勢い良く走り出した。




    ───Cパートへ続く

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