第9話「コロニーに鳴く虫の音:後編」【Iパート 必殺ハイパービーム斬り!】
「ジェイカイザー、ウェポンブースター起動!」
『了解だ、裕太!』
裕太がコンソールからウェポンブースターを起動すると、ジェイカイザーの両手首からエメラルド色の結晶が伸びるように飛び出し、手に持ったビームセイバーを巻き付くように包み込む。
結晶の影響を受けたビームセイバーはその刃の色を輝く緑色へと変化させ、刀身が太く長く巨大化していく。
目の前で突如起こったビームの肥大化現象に恐怖を抱いたのか、女王虫が低い唸り声を上げながら後ずさる。
「行っちゃえー! ハイパービーム斬りよぉ!」
「耳元で叫ぶなって銀川! 喰らえ強化ビームセイバー!」
『カイザービーム一文字斬りぃぃぃ!』
三者三様の技名を叫びながら振り下ろされた10メートル大のビームの刃は、女王虫のバリアーに阻まれ激しい閃光を放った。
裕太は操縦レバーを押し込む手に力を入れるも、ビームセイバーはバリアーを押せはしているが貫くまでには至ってなかった。
「あの女王虫、バリアーを前方に集中させてるんだ……!」
目の前でバリアーとビームセイバーがぶつかる閃光に目を眩ませながら、進次郎は冷静に分析をしていた。
バリアーを集中させているということは、現在こちらに向いている背後はがら空きである。
しかし、攻撃を仕掛けようにも〈ザンク〉は丸腰、〈エルフィス〉は逆方向から来る宇宙怪虫を迎撃すべく注意を払っている現状。
この状況で女王虫に攻撃を仕掛けられるキャリーフレームは存在しなかった。
そこでふと、先程裕太の父がでたらめに撃った弾丸のうち、一発が宇宙怪虫の動きを止めたことを思い出した。
「なあサツキちゃん、あの女王虫のどこかにとんでもない弱点ってないかツクダニに聞けないか?」
「で、できますけど……。ええと、首の付け根? に呼吸器官に通じる小さな穴があるらしいです。2センチくらいの本当に小さな穴らしいですけど……」
「フ、充分すぎる大きさだ。なぜなら僕は……」
情報を聞き終えた進次郎は、サツキから受け取った拳銃を両手で握り、照準器を覗き込む。
よく目を凝らすと、女王虫の首元にシミにも見える小さな点がうっすらと見えた。
息を止めて手の震えを抑え、額から汗が吹き出るのも構わず慎重に狙いをつける。
「僕は、真に天才だからなあっ!」
進次郎の握る拳銃から小さな、されど力強い鉛の弾丸が発射され、女王虫の首元にある極僅かな穴に吸い込まれるように向かっていく。
「キシャァッ!!?」
一瞬。ほんの一瞬だけ女王虫が怯み、ビームセイバーを止めるバリアーの抵抗感が少しだけ緩んだ。
その一瞬を着いて裕太は操縦レバーを握る手に力を込め、全力で腕を押し込む。
力を込めすぎて震える裕太の手に、エリィが微笑みを浮かべながらそっと手を重ねた。
「「『はぁぁぁぁああっ!!』」」
ガコン、と操縦レバーが最奥に押し込まれる感触。
それと同時にビームセイバーがついに女王虫のバリアを切り裂き、その巨大な体躯を真っ二つにぶった切った。
そしてエネルギーの切れたビームセイバーの光の刃はV字の切り込みの入った地面から引き抜かれるように縮み、ジェイカイザーの手元で消失した。
女王虫を失ったことで指揮系統が無くなったからか、レーダーに映る宇宙怪虫を示す光点が逃げるように外側へと離れていき、やがてすべて消えていった。
コックピットの中で汗だくの顔を裕太に向けたエリィが、やりきったという笑顔を裕太に向けた。
「や、やったわね笠本くん……!」
「……おい銀川、なんで自分が役に立ったかのような顔をしているんだ」
「え? あたしの力を笠本くんに貸してあげたのよぉ」
「あーもう勝手に手を乗せるんじゃねえ! 邪魔で力入れにくくなっただろうが!」
「ひっどーい!!そうやってあたしの想いを踏みにじるんだー!」
「うるせーうるせー! もう乗せてやんねー!」
『裕太、何をやっている! 新手が来たぞ!』
「「えっ!?」」
ジェイカイザーのレーダーに新たな光点が灯り、真っ直ぐではあるがゆっくりとした速度でこちらに向かっていた。
「そんなこと言われてももうガス欠だぞ!?」
「ちょっとぉ! 少しは残しておきなさいよぉ!」
「だってボスを倒したら終わりってのが定石だろうが!」
裕太とエリィが言い争っている内に、先程までのとは体色の異なる宇宙怪虫がゆったりと地面に着地した。
ジェイカイザーを守るように内宮の〈エルフィス〉が宇宙怪虫との間に割り込み、身構える。
「サツキちゃん! 危ないぞ!」
外から聞こえてきた進次郎の声に気づき足元を見ると、ツクダニを抱いたままのサツキが宇宙怪虫に向かってゆっくりと歩いていた。
しかしその顔は穏やかで、しかし少し悲しそうな表情をしていた。
「彼らは敵ではありません。ツクダニを迎えに来たんです」
───Jパートへ続く




