第9話「コロニーに鳴く虫の音:後編」【Hパート 女王虫】
【9】
「こなくそーっ!」
「ヨハン! 迂闊すぎや!」
女王虫の強固なバリアーに攻撃を阻まれ、決め手に欠けるヨハンと内宮。
しびれを切らしたヨハンがビームセイバーを両手で掴み、バーニアを吹かせて跳躍してから落下の勢いを乗せた斬撃を放つ。
しかし、その一撃はやはりバリアーに阻まれ、空中で制止するように受け止められてしまう。
女王虫はその隙を付くように、鋭い鎌状の前足を振り下ろし〈ザンク〉の右腕をまるでバターに刃を通すかのごとくいとも簡単に切断した。
そのままバリアーに弾かれるように〈ザンク〉が吹っ飛び、「ぐえっ」というヨハンの呻き声がスピーカー越しに辺りに響く。
切り落とされた右腕は地面にめり込むように落下し、手に持っていたビームセイバーがエネルギーを失い、円柱状の柄だけの状態で地面を転がった。
「せやから迂闊や言うたんや! こりゃあ、はよ勝負決めへんと危ないで……!」
内宮の目の前に表示されている〈エルフィス〉のレーダーには、コロニーアーミィの包囲網を突破しこちらへ向かっている宇宙怪虫の反応が複数映っていた。
しかし、現在こちらにあるのは弾切れ寸前のライフル一丁と、片腕を失った〈ザンク〉。
それ以外は〈エルフィス〉で肉弾戦を仕掛けるくらいしかできそうにないが、あのビームセイバーすら防ぐバリアーに対する決定打には成り得そうもない。
じりじりと距離をつめる女王虫との距離を保つように、ゆっくりと〈エルフィス〉を後ずさりさせている内に増援の宇宙怪虫が2匹、女王虫の背後に降り立った。
頬にじっとりと汗を垂らしながら、(万事休すやな……)と半ば諦めの感情を内宮は心に浮かべた。
だが、その感情は数秒の後に払拭することとなった。
「ギャピィィィ!」
甲高い断末魔とともに、青白いスパークを迸らせて宇宙怪虫の一匹がその場に崩れ落ちる。
何が起こったのかと、もう一匹の宇宙怪虫が振り返る間もなく、ジェイカイザーが上空から強襲し、手に持った白い警棒を外殻を貫くように突き刺し、キャリーフレームですら一撃で機能停止をする電撃を肉体に直接浴びせた。
「やったぁ! 笠本くん、すっごぉい!」
「おい銀川、耳元で叫ぶな! 集中できないだろうが!」
2匹の宇宙怪虫が動かなくなったことを確認した裕太はエリィのいる方の耳を片手で塞ぎつつ、カマキリのような姿の女王虫へと視線を移した。 と同時に、内宮とヨハンからのノイズ混じりの通信がコックピット内に聞こえてくる。
「おそいぞ笠本、僕なんかこっぴどくやられちゃって……」
「アホやらかしやだけや。それよりあのカマキリ野郎、ごっついバリアー持っとるらしいで」
「バリアー?」
「ああ、実弾のライフルはもちろんビームセイバーすら刃を通さんバケモンや。笠本はん、突破できそうか?」
「……悪いけどビームセイバー以上の威力の武器、持ってないんだよなあ」
「はあ!?」
素っ頓狂な内宮の声を聞いている内に、女王虫はジェイカイザーを一番の脅威と認識したのか、ギギギと金属をこすり合わせるような声を出しながらジェイカイザーの方へと向き直った。
そして飛びかかりながら放つ女王虫の鎌の一撃を避けるように、裕太は咄嗟にペダルを踏み込みジェイカイザーにバックステップをさせた。
『よく避けたな、裕太!』
「気をつけろ笠本! その鎌、スッパリ切れるぞ!」
「その抽象的なアドバイスなんとかしろヨハン! とりあえず食らったらまずいってことだな。んでどうするんだよ、こっちも攻め手ゼロだぞ!」
「くっ……! そうだ、僕を大気圏から救ったあの技はどうだ!」
あの技、とは最近開放されたウェポンブースターのことだろう。
ジェイカイザーの腕からエメラルド色の結晶が伸び、その結晶をまとった武器がパワーアップするという代物である。
「ったって、ショックライフルを強化してもビームライフル止まりだったぞ。ビームセイバーが効かない相手に使っても……」
「……そうよ! じゃあビーム兵器をパワーアップさせればいいじゃない!」
「そう言ったって、どこにそんなものが?」
「こっちだ! 受け取れ、笠本!」
ヨハンの声に反応して〈ザンク〉の方を向くと、〈ザンク〉が残った左腕で地面に転がったビームセイバーを掴み、振りかぶって投げようとしていた。
裕太は即座にヨハンの狙いに気づき、背部のハードポイントからショックライフルを手に取り、女王虫に向かって数発放った。
ライフルの電撃弾がバリアに阻まれ霧散するも、女王虫の注意がヨハンに向くこと無く、〈ザンク〉が宙に投げたビームセイバーがジェイカイザーの手元へと無事に到着する。
空中でビームセイバーを掴んだジェイカイザーはそのままスイッチを入れ、明るい桃色のビームの刃を発振させた。
───Iパートへ続く




