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第9話「コロニーに鳴く虫の音:後編」【Bパート ツクダニとサツキ】

 【2】


「あ! おふたりとも、おはようございます! 昨晩はお楽しみでしたか?」


 部屋に入ったふたりを、薄手のパジャマ姿なサツキがベッドの上から飛び切りの笑顔と意味深な挨拶で出迎えた。

 部屋の中に足を踏み入れながら、サツキの妙な挨拶についてツッコミを入れる。


「何がお楽しみだと思ったんだよ」

「それはもちろん! 男女ふたりがひとつ屋根の下ですること。つまり愛し合うことです!」

「昨日は散歩から帰って、そのまま寝ちゃったのよぉ。残念だったわねぇ、ね、笠本くん♥」

「ね? じゃねーよ! ねじゃ!! はぁ……朝っぱらから疲れさせるなよ……」


 頬を紅に染めながらクネクネするエリィに辛辣な言葉を投げかけた裕太は、部屋の中をキョロキョロと見回し進次郎とツクダニの姿を探した。

 レイアウトは裕太たちのいた部屋と変わらない中で、きれいに閉じられたサツキと進次郎の旅行カバンが壁に立てかけられている。

 そのまま部屋の中心に立って入り口からは陰になっている場所に視線を動かすと、部屋の隅に置かれた椅子に、机の上のノートパソコンに突っ伏すようにして、まるで燃え尽きたボクシング選手のようなオーラを醸し出しながら座る進次郎の姿を発見した。


「おい進次郎、大丈夫かしっかりしろ」

『ッハ……!こ、これは…し、死んでる……!』


「い、いや、僕はまだ生きてるからな……」


 静かに顔を上げた進次郎の、深い隈が刻まれた表情を見てすくみ上がる裕太。

 エリィも軽く「ヒッ」とつぶやきながら怯えたような顔つきになり、咄嗟にサツキを問い詰め始めた。


「金海さん、岸辺くんに何があったのぉ!? あの虫が何かやったの?」

「ええ、まぁ。ツクダニ、夜に目が冷めたみたいで部屋を飛び回った後、進次郎さんのベッドの上で休憩してたんですって」

「えぇ……」


 進次郎にしてみれば、響く羽音に目を覚ますと、眼前に目を爛々と光らせたツクダニがいたということになる。

 そりゃあ眠れなかったのも無理はないなと裕太は理解し、進次郎に同情しつつも部屋を変えたことでその犠牲者がエリィにならなかったことに半分ホッとした。


「裕太……僕は顔を洗ってくるよ……」

「行ってこい進次郎。金海さん、ツクダニは?」

「上ですよ!」

「上? うぇっ……」


 裕太が見上げると、部屋の天井にツクダニがへばりついていた。

 サツキが一言「ツクダニ」と呼ぶと、ツクダニはブーンと羽音を出しながら飛び、サツキの頭の上にまるで帽子のようにピトッと停まった。


「それでは、朝食を食べに行きましょう!」

「その格好で行くのか……」

「あ、それもそうですね!」


 サツキはそう言うと、その場でくるりと1回転し、身にまとう服をパジャマからおしゃれな私服へと変化させた。


『目の前で女の子が着替えたのになんだろうこの物足りなさは』

「黙ってろ、ジェイカイザー」


 にこやかに微笑むサツキをよそに、裕太はジェイカイザーに辛辣な言葉を飛ばした。


 顔を洗い終わった進次郎をさっさと着替えさせた裕太達は、そのまま一階にある食堂に行くため階段へと向かった。


「ふわぁ……」

「おい進次郎、気をつけろよ」

「何を気をつけるって……わわっ!」

『進次郎どの!』


 階段を降りている途中で、突然進次郎が足を踏み外す。

 一瞬、後ろのめりに宙に浮き、踊り場へと落下する進次郎を見て裕太達は声にならない声を出した。

 と、同時にサツキの頭の上に乗っていたツクダニがすごいスピードで進次郎のもとへと飛んでいく。


「あだっ!?」

「ギュミッ!」


 踊り場の床に尻を打ち付け痛がる進次郎と、その進次郎の頭が階段の一段目の上にいるツクダニに乗っている。

 間一髪、ツクダニがクッション代わりになってくれたのか、進次郎は尻もちをつくだけで済んだようだった。


「岸辺くん、大丈夫?」

「いててて、こいつが助けてくれたのか……?」


 進次郎にそっと撫でられ、ツクダニは嬉しそうに「ギュミッ」と鳴いた。


『むむむっ、なんだか私はツクダニが可愛く見えてきたぞ』

「ついにバグったかジェイカイザー。いつかはどうかなると思っていたが」

『勝手に私をバグらせるな! というかバグらないぞ私は!』



    ───Cパートへ続く

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