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第8話「コロニーに鳴く虫の音:前編」【Cパート 宇宙の市街】

 【3】


「こ、これがスペースコロニーの中なのか……!」


 エリィの運転する2脚バイクに乗って発着場を出た祐太は、目の前に広がる景色に思わず感嘆の声を漏らした。

 円筒形の内側に建物が張り付くように並び立ち、見上げれば空ではなく真っ逆さまの街並みが見える異様な光景。

 ところどころ縞模様のように設けられている採光用のガラス帯の外には時間帯に似つかわしくない真っ黒な宇宙空間が映し出されている。


『な、なんだか見ていて不安になる情景だな……』

「そうか? 俺はすごくワクワクしているんだが」

「ふふっ、笠本くんったら子供みたいにはしゃいじゃって」

「天才として忠告するが、今の裕太はすごく田舎者丸出しだからかなり恥ずかしいぞ」

「うぐっ」


 進次郎に指摘され、口をつぐんで膝を曲げて姿勢を下げる裕太。

 カッコつけたがりと、世間体を気にする裕太にとって田舎者丸出しというのは相当堪える称号である。

 黙り込んだ裕太を見てかエリィとサツキがクスクスと笑っていると、進行方向の信号が赤になったので2脚バイクの足を停止させた。

 そうして信号待ちをしている間に、後方から別の2脚バイクの歩行音が聞こえてき、その足音の主はやがて裕太たちの隣で停まった。


「やあ、また会ったな笠本」

「ヨハン、お前何しに……って何でお前、内宮を運んでんだ?」

「笠本はん、なんでうちを荷物みたいに言うんや失礼やな」


 ヨハンが運転している2脚バイクの後部座席に何故か跨っている内宮が、眉間にしわを寄せながら不満を主張する。


「そうか内宮、お前も財テクか」

「財テク言うなや笠本はん。まあ節約っつーたら節約やけどな。いやー助かったわ暇こいとる運転手がおって」

「僕は運転手じゃないんだが……トホホ」


 肩を落とすヨハンとケラケラ笑う内宮を見比べ、何があったかは読み取れなかったが、なんとなくヨハンのナンパ癖が悪い方向に発動したのだと言うことはなんとなく察することができた。

 信号が青になり、3台の2脚バイクが一斉に足を動かし始める。


「おふたりは、仲良しさんになったんですか?」


 不意にヨハンと内宮に向けてサツキがそう言ったので、二人が同時に首を横に振った。


「誰が。男を足代わりにするような細目女は御免被りたいね」

「その細目女の誘いにホイホイ乗った男が偉そうに言うもんやないで」

「なにおー!」

「おう、やるなら相手になったるで!」


 走りながらギャースカと喧嘩を始める2人。

 裕太はある意味お似合いだなと思いつつ呆れていたが、喧嘩の原因となったサツキは嬉しそうに笑っていた。

 おそらく、あれも人間の愛の形だなんだと勘違いしているのだろうきっと

 彼らを横目で裕太が見ていると、エリィが肘でちょんちょんと裕太の身体を小突き、遠くの方を指差した。


「見て裕太、あそこに〈ウィング〉が立ってるわ」


 裕太が指さされた方向に目を向けると、1機のキャリーフレームが銃を片手に辺りを警戒するような動きをしながら道端に立っているのが見えた。

 あたりを見回すと他にも数機、同様に警戒している〈ウィング〉が目につく。


「何でこんなところにキャリーフレームが?」

「ありゃあコロニーアーミィのものだよ。心配することはない」

「コロニーアーミィ?」


 ヨハンの口から出た聞き慣れない言葉に裕太が首を傾げていると、進次郎が「そんなことも知らないのか」と呆れた表情をしながら言った。


「裕太。コロニーアーミィっていうのはな、コロニーを守る軍隊みたいなものだ。といっても公的組織ではなく半分民間だが」

「ほう、そっちの眼鏡のお友達は中々物知りなようだな。軌道エレベーターに流れ弾が飛んできた事件を受けて、宇宙海賊とかを警戒してるんだよ」


 進次郎とヨハンの連携説明を聞いて、なるほどと裕太は納得した。


「〈ウィング〉は七菱製の可変キャリーフレームで、飛行機形態へと変形ができてぇ……」

「銀川、それの説明は今聞いてない」

「何よぉ、ちょっとくらい聞いてくれてもいいんじゃないのぉ?」

「あとでいくらでも聞いてやるから運転に集中してくれよ」

「んもぅ……」


 裕太は頬を膨らませるエリィをなだめるように、彼女の肩をポンポンと叩いた。



    ───Dパートへ続く

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