第8話「コロニーに鳴く虫の音:前編」【Bパート スペース・ポート】
【2】
「やあ笠本。この……ジェイカイザーだっけ? これはここに置いていて大丈夫かい?」
シャトルから降りた裕太に、エレベーターガードの宇宙服に身を包んだヨハンが〈ザンク〉に抱えられたジェイカイザーを親指で指差しながら問いかけた。
祐太は灰色の無機質な壁に囲まれた発着場を見渡し、民間のものと見られるキャリーフレームが数機置いてあるのを見て、ヨハンに尋ね返す。
「なあヨハン、ここ以外に置いておく場所ってあるのか? 駐車場みたいなの」
「駐機場のことか? あると言えばあるが、全部有料だな。一日あたり日本円にして5000円くらいの利用料だ」
「却下だな。ここに適当に転がしておいてくれ」
『おい』
ジェイカイザーの抗議も虚しく、音を立てて無造作に置かれる本体。
裕太としては頑丈なので多少手荒でも大丈夫と踏んだのだが、ジェイカイザーは扱いが悪いことが気に食わないらしく、携帯電話の中から声にならない声を出している。
「笠元、そのうるさいAIはなんとからならないのかい?」
「ならないから困っているんだよ。そういやヨハン、お前は軌道エレベーターに戻るのか?」
裕太が素直な疑問をぶつけると、ヨハンは指を横にチッチと振りつつ、小馬鹿にしたような偉そうな表情で裕太を睨んだ。
「笠元ぉ~~、僕らは日本のサラリーソルジャーと違って24時間戦えるような生き物じゃあないんだぞ。午前勤務が終わったから今日はこのコロニーでのんびりプライベートタイムさ。それより君は、クラスメイト達がすでに行っちゃったようだがいいのかい?」
「ん? ああ、問題ない。俺たちゃバスには乗らないからな」
首を傾げるヨハンに余裕の表情で返す裕太。
本来であればこの発着場からバスに乗って宿泊先のホテルへと向かう。
しかし、コロニーのバスというのがこれまた、環境に配慮した特殊な車両故に利用料金が結構高く付く。
そこで、希望者はバスを使わずレンタルの2脚バイクを使うことで費用を節約できるようになっている。
「笠元くーん、バイク持ってきたわよぉ!」
笑顔でそう言いながら、2脚バイクに乗ったエリィが裕太のもとへと到着した。
その後ろからは、2脚バイクの後部座席にサツキを乗せた進次郎もやってくる。
「裕太、さっさと行こうぜ」
「そうだな。じゃあヨハン、またな」
「ああ」
ヨハンに軽く別れを告げた祐太は、エリィの乗る2脚バイクの後部座席に跨り、そのまま発着場を後にした。
「はぁー。やっと1組が終わったんか」
祐太たちを見送ったヨハンの背後から聞こえてくる関西弁。
その声に振り向くと目の細い少女、内宮がげんこつで肩をトントンと叩きながら気だるそうにシャトルから降りてきていた。
彼女のあとに続くように、先程バスに乗っていった生徒たちと同じくらいの人数がドヤドヤと騒がしくシャトルの中から溢れ出る。
ヨハンの姿に気づいた内宮は、ニヤッと笑みを浮かべて言った。
「あんさん、確かヨハン言うとったっけ。レンタルバイクはどこや?」
───Cパートへ続く




