第7話「奈落の大気圏」【Hパート 謎のボール】
【8】
「――ってなことがあったんだよ」
命がけの救出劇を終えた裕太たちは、ジェイカイザーの整備をガードの隊員たちに任せてサロンへと戻ってきた。
そしてジュースの飲みすぎてひっくり返っていた進次郎に事の顛末を説明していたのだった。
「うっぷ……そりゃ、大変だったんだなぁ」
「大丈夫か進次郎?」
「サツキちゃん、あなたどれくらい岸辺くんに飲み物を飲ませたのぉ?」
「私と一緒に、これくらいです!」
そう言って、長いテーブルひとつを埋め尽くすトレーと空の容器を指差すサツキ。
想像を絶する量に、思わずドン引きして言葉を失う裕太とエリィ。
「やれやれ、エレベーターのドリンクもタダじゃないんだぞ?」
呆れ顔のヨハンが手にバレーボールほどの大きさの白い球体を抱えながら階段を降りてきた。
「何だよヨハン。銀川を諦めたからって今度は金海さんを狙おうって魂胆か?」
「違うよ、君の……ジェイカイザーだっけ? それを整備していたら関節にこれが挟まっていたんだ」
「関節に……? 昇ってきた時に引っかかったのか?」
不信感をつのらせながら白い球体を見ていると、隣に座っていたサツキが目を輝かせながら物を欲しがる子供のように手を前に伸ばした。
「あのっ! そのボール私欲しいです!」
「俺はいらないからヨハン、金海さんにあげていいよ」
「そ、そうか。じゃあほら、大事にするんだぞ」
ヨハンからボールを渡されたサツキは、ぬいぐるみを抱きしめるようにギュッとその球体を抱きしめ、気持ちよさそうな笑顔を浮かべた。
「間もなく、ジオ・ステーションに到着いたします。お客様はお忘れ物の無いようにお気をつけください」
ピンポンという音の後にアナウンスがそう流れると、ヨハンがついてこいと手でジェスチャーを送りながら窓際へと歩いていった。
裕太たちも後を追って窓から外を覗く。
窓越しの視界の中に、小さなコロニーが黒い宇宙の中にポツリと浮いてるのが見えた。
「あれが、君たちの目的地となる工業コロニー『アトラント』だよ」
「へぇー、思ったより小さいんだなぁ……」
「ええっ?」
裕太がそう呟くと、隣りにいたエリィが信じられないと言った顔で裕太の顔を覗き込んだ。
「あのね、笠本くん。宇宙って地上と違って空気という遮るものが何もないから、はるか遠くのものでもハッキリ見えるのよぉ」
「エリィさんの言うとおりだぞ。あのコロニーなんて、本当は日本のひとつの県ほどの広さなんだからな」
「ま、マジかよ……」
驚きながらも思い返せば、ヨハンの〈ザンク〉を追っていた際に目視があてにならないと実感したばかりだった。
宇宙という空間が、いかに地球での常識が通用しないかを思い知らされながら、裕太は改めて窓からコロニーを見つめた。
……続く
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登場マシン紹介No.7
【ザンク】
全高:8.1メートル
重量:9.3トン
JIO社製の宇宙用キャリーフレーム。
歴史の長いキャリーフレームであり、スペースコロニーが建造される以前の米露の第二次宇宙開発競争時代から存在している傑作機。
宇宙船のメンテナンス、宇宙建造物の組み立て、更には宇宙戦闘までこなすポテンシャルを持っており、人類が宇宙進出して間もなく起こった宇宙戦争においても戦力として多大な貢献を果たした。
現在となっては数十年前の機体となり型落ち同然ではあるが、生産された機体数が膨大であるがゆえに軍の払い下げ品やレストア品が安価で大量に出回っており、エレベーターガードのような民間の防衛隊や宇宙海賊などの小規模勢力で重宝されている。
エレベーターガードで運用されているものはJIOの最新宇宙用キャリーフレームである〈ガルルグ〉のパーツを組み込んでいるためカタログスペックよりは性能が上がっている。
【次回予告】
スペースコロニー『アトラント』へと降り立った裕太たち。
彼らは宿泊するホテルでくつろぎ、疲れた身体を休める。
しかしその後、サツキの部屋で異変が起こる。
それは、サツキが手にしたボールに起因するものだった。
次回、ロボもの世界の人々第8話「コロニーに鳴く虫の音:前編」
「ふふっ、笠本くんったら子供みたいにはしゃいじゃって」
「天才として忠告するが、今の裕太はすごく田舎者丸出しだからかなり恥ずかしいぞ」
「うぐっ」




