第7話「奈落の大気圏」【Bパート 軌道エレベーター】
【3】
二列に並んで車両へと続く階段を登っていき、いよいよ軌道エレベーターの車両に足を踏み入れる裕太たち。
目の前に広がるのは赤く柔らかな絨毯敷きの左右に別れた通路と、壁から伸びる向かい合わせになった長椅子の置かれた光景。
例えるならば環状に曲げた新幹線の車内みたいな構造をしており、中央の柱に巻き付くように上階へ続く螺旋階段が備え付けられている。
「中に入ったらチケットに書いてある階まで登って、指定されたイスに座れよー」
軽部先生の指示を聞きながら、金属製の螺旋階段をカンカンと靴音を鳴らしながら登る裕太。
軌道エレベーターに入ってから宇宙服が重くなったように感じたが、他の面々は平然としているので気のせいだろうと流した。
階層で言うと4階辺りまで登った裕太は、手に持ったチケットに書かれた座席番号と、座席の側面に貼り付けられた数字の刻まれたプレートを交互に見ながら自分の席を探す。
「笠本くん、あそこあそこ」
「お、本当だ。サンキュ」
背後を歩いていたエリィのアドバイスで無事に座席を見つけた裕太は、座席の上にある棚を開いてその中に自分の荷物を放り込んだ。
そして窓際の席に座ると、その横に嬉しそうな顔でエリィが着席した。
対面の席には進次郎とサツキが、サツキを窓際に座らせる形で裕太達と向かい合うように腰を下ろす。
窓の外を食い入るように覗き込み、進次郎の横でキャッキャとはしゃぐサツキを横目に、祐太はエリィに教えてもらいつつシートベルトをしっかり締めた。
やがて、周囲の席が全てクラスメイトの見慣れた顔で埋まると軽部先生からシートベルトを締めたかのチェックが入った。
チェックが終わると、「間もなく発車します」とアナウンスが車内に流れ、ガクンと車体が揺れると同時に外の景色が下がり始めた。
ぐんぐんと軌道エレベーターは速度を増し、あっという間に窓の外に見えていた地上が霞んで見えなくなり、10分ほど経つと空の色が少しずつ暗くなり、やがて夜空のように真っ黒に星の光が見えるだけになった。
「ただいま、当機は大気圏を突破いたしました。これより、お客様はシートベルトを外しても構いません。到着予定時刻は――」
アナウンスが聞こえるやいなや、裕太たちは一斉にシートベルトを外して立ち上がり、両手をうーんと上げて伸びをした。
「んああーーっ! ……ったく、大気圏突破まで動けないとか暇すぎるぜ」
「十数分くらいで文句言わないのぉ」
『見ろ、裕太! 窓の外だ!』
ジェイカイザーに言われて反射的に窓の外に顔を向ける裕太。
眼下に見えるのは青く輝く美しい地球。
肉眼で初めて見る地球に、思わず裕太は「おお」と感嘆の声が漏れた。
テレビの映像や教科書なんかで見たことはあったが、実際に自分の目で見てみると受ける印象は全然違うものであった。
『この美しい地球、絶対に悪の手に渡す訳にはいかないな……』
「いや、俺たち特に悪と戦ってねぇだろうが」
『わからんぞ、聞いた話によれば宇宙には海賊が出没するという。そういった連中が襲いかかってきたら私の出番だ!』
「そう言って、昨日解放された新機能を使ってみたいだけだろ」
呆れながら、警察署でメンテナンスに付き合った時に解放された新機能の概要を思い出す裕太。
「手に持った武器の威力をアップさせる『ウェポンブースター』って、一体何相手に使うつもりだよ」
『悪のキャリーフレームに決まっているだろう!』
「バカ言え! 現状の武器でも威力は充分だし、無駄に破壊を撒き散らすだけだ。絶対に使わないからな」
『ぬぬぬ……!』
勝手に悔しがるジェイカイザーに裕太が呆れていると、進次郎が見下したような表情で「やれやれ」と言った。
「なにが『ぬぬぬ』だ。宇宙に出ただけではしゃいでいるようじゃあ、この修学旅行ですぐに疲れてしまうんじゃないか?」
「進次郎、金海さんがあっちに走っていったぞ」
「え? ああっ! サツキちゃん待って!」
勝手に走り出したサツキを追って螺旋階段へと消えていく進次郎。
追いかけていく進次郎の動きがあまりにも面白かったので、思わず裕太は笑いがこぼれた。
「あいつの方が先にバテるかもな。……ん? どうした銀川」
エリィに肩をトントンと叩かれた裕太が振り返ると、軌道エレベーターのパンフレットを広げた彼女がその一部分を指差していた。
「ねえ笠本くん、サロンコーナーはジュースが飲み放題なのよぉ。ここにいても退屈だし、一緒に行きましょう!」
「飲み放題か、そいつはいいな! どうせコロニーとかは飲み物が観光地補正がかかって高いだろうから、ここで飲み溜めておこう」
「すぐにお腹が膨れて限界になると思うけど……」
そんな会話をしつつ、ふたりは上階へと続く螺旋階段を上り始めた。
───Cパートへ続く




