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【次作品予告】鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第0話「すべてを失った少女」

 【1】


[笠本はんへ]


 宇宙船の座席の上で、内宮千秋はノートパソコンに文章を打ち込んでいた。


[黄金戦役って名前がついたあの戦いから、今日で8年やて。早いもんやなあ。]


 新天地へ向かう前に、かつての想い人へ送るメッセージ。


[銀川はん、というか今は笠本エリィやったか。ふたりの結婚式に行けなかったのホンマ堪忍な。アーミィ養成学校のスケジュールが地獄すぎたんや。]


 携帯電話の画面に映る、結婚式の集合写真から目を離し、窓を覗く。

 宇宙空間の遠くに見えるのは、これから向かう新天地。


[金星でのコロニー・アーミィの仕事が落ち着いたら、絶対会いに行こう思うてるから、よろしゅうな。]


 惑星の外周を取り囲むように、12基の大きなスペースコロニーが輪を描いていた。


[うちが行くコロニー群、ビィナス・リング言うんやて。オッシャレやろ~。]


 携帯電話で窓越しに金星をパシャリと撮影。

 撮ったばかりの写真を手際よくパソコンへと転送し、メッセージに添付。


[いま、二人は木星に住んどるんやろ? 木星と金星とじゃ、結構距離あるけど……うちらの絆は切れへんで!]


 到着が近いことを告げるアナウンスが、機内に響く。

 席を立っていた乗客たちが次々と席に戻り、いそいそとシートベルトを巻く音がこだまする。


[ほな、予定空いたらまた連絡するわ。お幸せにな! 内宮千秋]


 転送ボタンを押し、既読を示すマークが付いたところで内宮はノートパソコンを閉じる。

 と、同時に携帯電話がにわかに震え始めた。


「はいもしもし、内宮ですけど……何やて? 早速出撃!? はん、はん……わかりましたわ。ほな」


 宇宙港に付いた船から、乗客がゾロゾロとなだれ込むように降りていく中、内宮は窓の外を向いてため息を付いた。




 【2】


 金星コロニー・アーミィに就任して最初の任務。

 それは地獄という他に形容ができなかった。


(こんなん……人間のすることちゃうで……!)


 キャリーフレーム〈ザンドール(エース)〉のコックピットからモニター越しに見る景色。

 それは、虐殺が終わった街だった。


「隊長より各機へ伝達。例の殺人兵器が残っているかもしれん。決して油断せずに生存者を捜索しろ!」

「「「了解ラーサ!」」」

「りょ……ラーサや!」


 金星式の返答法に慣れないまま、空中から地上を見下ろす。

 大学代わりに通ったコロニー・アーミィ養成学校の訓練で、死体に対する耐性はつけたはずだった。

 けれども、眼下に広がるのは何千何万もの人間が、切り刻まれたような傷を受けて物言わぬ骸にされたその結果。

 その光景を見て何も感じないほど、内宮は軍人としてできた人間ではなかった。


「うわ……こっちは家族連れかいな。かわいそうに。夫婦に……子供か」


 原型を保っている家屋の2階を、高度を落として覗き込む。

 胴体を両断されて倒れる男女と、押し入れの中で片腕を切り落とされた女の子。

 壁に突き刺さって停止しているのが、話に聞いた殺人兵器とやらだろう。

 直径が人間の身長を超えるほどの大きさの円盤から、回転ノコギリのような刃が飛び出している。

 これが生身の人間に襲いかかる光景など、想像もしたくない。


「……この家にも生存者はなし。ん?」


 今、確かに押入れの中の女の子がピクリと動いた気がした。

 機体を高度維持モードに切り替え、しっかりとヘルメットをかぶっているのを確認してからコックピットハッチを開ける。

 そしてベランダから部屋へと入り、女の子の元へと駆け寄った。


「……この子、まだ生きとる!」


 血に染まった流れるような金髪をした幼い少女。

 見た感じ年齢は9か、10と言ったところか。

 まだ息がある彼女の切り落とされた腕の傷口を、機体から持ってきたメディカルパックで応急処置をし、止血する。


「死んだらアカンで、強く生きるんや……!」


 祈りを込めながら少女を抱きかかえ、コックピットに戻る内宮。

 ハッチを閉じ、操縦レバーを倒して早く病院船へと家屋に背を向けた、その瞬間だった。


「……うせやろ?」


 家屋に突っ込み、機能停止していた殺人兵器が、急に轟音を上げ始めた。

 崩れ始めた家屋から〈ザンドール(エース)〉を離れさせた内宮。

 しかしその殺人兵器は屋根を突き破り、円盤の側面につけられたノコギリ刃を激しく回転させながら突進してくる。


「……早い、けど動きは単調や! せやったらぁ!」


 ギリギリまで殺人兵器をひきつけ、今にも当たる! といった瞬間に機体をのけぞらせる。

 同時にビームセイバーを発振させ、受け流しながら一撃。

 空中で真っ二つに切り分けられた円盤が、浮力を失い落下を始める。


「落とさせはせぇへんで!」


 そのまま、殺人兵器を追うように〈ザンドール(エース)〉を加速。

 地面に落下する前に、その残骸を2つともビームセイバーの熱で焼き消した。


「……ふぅ。寿命縮んだわ。はようこの子を連れてかんと」



 これが、片腕を失った少女・葉月華世と、アーミィの若い兵士・内宮千秋の出会いであった。

 二人の運命はこれより2年後。

 黄金戦役より数えて10年後の時に、動き始める。


 誰の予想もつかない方向へと……。



      ────「鉄腕魔法少女マジ・カヨ」へと続く


───────────────────────────────────────



登場マシン紹介No.51

【ザンドール(エース)

全高:8.4メートル

重量:10.8トン


 金星コロニー・アーミィで制式採用されているJIO社製の軍用キャリーフレーム。

 8年前の機体であるザンドールをベースに、アーミィでの幅広い任務に対応可能なように細かなカスタマイズが施された機体。

 名前のAはもともとアーミィのAだったが、様々な事情により(エース)となった。


 ちなみに、この頃の地球圏コロニー・アーミィの制式採用機は正式版となったジエルであるが、金星が前の制式採用を使用している理由は、金星圏は諸所の対応が後回しになるためである。



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