エピローグ短編2「深雪と梅雨のお泊り会」【Dパート 無知の恥】
【4】
「ところで────」
深雪は、話しながら気になっていた物体を指差す。
それは部屋の一角に置かれた、畳まれた寝間着と下着のセットの山。
「あれ、ここに置いてあっていいんでしょうか?」
「さあ……?」
首を傾げる春人。
脱衣所に持っていくべきかと深雪が思っていたところで、ガチャリと部屋の扉が開く音。
その音と同時に、春人が顔を真赤にして固まった。
「どうしましたか? 春人さ……」
「深雪、あがったぞ」
ナインの声のした方へと視線に移した深雪は、唖然とする他なかった。
なぜなら、彼女は手にバスタオルを持ったまま、一糸まとわぬ姿で部屋の入口に突っ立っていたからである。
一切隠す気のないナインは、恐らく同年代の中では大きいであろう乳房も、毛の一つも生えていない股間部も丸出しであった。
「わーっ! わーっ!?」
「どうした春人、そんなに騒いで」
「ボクハナニモミテイマセンカラァァァ」
掛け布団を頭から被り、全裸のナインを見ないように努める春人。
その傍らで深雪は、ナインの寝間着セットを引っ掴みナインへと突進する。
「どうしたじゃないですよ! ナインさん、廊下に出てください!」
「む……?」
何が悪いのか、よくわかってない風なナインが、深雪に引っ張られる形で廊下へと追い出される。
とりあえず、と深雪が下着を投げ渡しても、ナインは首を傾げるばかりだった。
「一体何があったのだ? 緊急事態か?」
「あなたが緊急事態の原因なんですよ!」
「ただ私は風呂から上がったばかりだが……」
「どうして素っ裸でうろついているんですか!? 着替えは持っていかなかったんですか!?」
深雪の迫力に圧されてか、渋々といった風に下着を身に着け始めるナイン。
彼女の姿を見て、深雪はナインが外見年齢こそ15歳くらいであるが、実年齢が2,3歳であることを思い出す。
おそらくは戦闘や日常生活の知識など、基本的なことは最初から教えられているのであろう。
しかし、戦闘用のクローン兵士として生み出された彼女には、性知識と行ったものが一切与えられていないのかもしれない。
深雪はそういった知識に関しては、耳年増である。
大人であろうとして知識を磨いていく過程で、そういった情報は嫌でもどこかで目にはする。
年齢が幼いため欲求としてはいまだ発現していないが、知識として男女間でやって良いこと悪いことくらいは十分知っている。
「どうせ着替えるのに、風呂場も自室も変わらないだろう。どうして着替えを脱衣所で済ませる必要があるのだ?」
「大問題ですよ! 裸で家の中をうろついて……カーティスとかは何も言わなかったんですか!?」
「別に何も? あの男はむしろ嬉しそうにしていたな。これは喜ばしいことではないのか?」
深雪は握った拳をわなわなと震えさせながら、カーティスへと恨みをつのらせた。
あのスケベオヤジは恐らく、女子高生が無知から全裸でうろついているのを良いことに、あえて指摘せずに眼福を享受しているのだろう。
そうなると頼りになりそうなのは彼の奥さんであるロゼであるが、この分だと頼りになってはなさそうだ。
「とにかく! 男の人の前で、特に胸や股間を見せたりするのは恥ずかしいことなんですよ! そういうのは好きな相手ができてからするものなんです!」
「別に、私は春人もカーティスも嫌いではないが?」
「好きとか嫌いの意味が違うんです! あー、もう……なんて言ったらいいのやら……!!」
乾きはじめの髪をかきむしりながら苦悩する深雪。
その間にもナインは下着を身に着け終え、寝間着に袖を通していた。
「二人とも、なにをしておるのじゃ?」
そんな時、聞こえてきたシェンの声。
深雪は助けを求めようと彼女の方を向き……シェンもまた生まれたままの姿で突っ立っていたので、その場に倒れそうになった。
「ど う し て あ な た 達 は、 そ ろ い も そ ろ っ て!!!!」
「「????」」
深雪の怒号が、家中に響き渡った。
───Eパートへ続く




