エピローグ短編1「ジェイカイザーの初デート」【Dパート ファスト・フード】
【4】
ジュンナの細く白い指が、カラッカラに揚がったフライドポテトを摘む。
彼女に掴まれたポテトはそのまま、真っ赤なケチャップを付けられてから口へと運ばれ、サクッと小気味いい音を鳴らした。
「……ジェイカイザー」
「何だ、ジュンナちゃん」
「どうして、私をずっと見ているんですか?」
ファストフード店の狭い席に向かい合わせに座りながら、黙々とポテトを食べる二人。
ジェイカイザーの使っているボディは、ジュンナ同様に食事でエネルギーを補給し味覚も存在するので、食べることについては問題はない。
何が問題かというと、勇んでデートへ繰り出したはいいが何をすれば良いのかわからないということであった。
ジェイカイザーは過去に遊んだエロゲやギャルゲでデートの知識を得ていたのだが、遊園地だとか植物園だとかそういう特別な場所を来訪することばかりしかしていなかった。
そのため、いざノープランで二人で出ると何をしていいかがわからず、正午だったこともあり何となくファストフード店へと入ったのであった。
「いやなに、ジュンナちゃんの指はキレイだなと思って」
「いつも見ているじゃないですか」
「そ、それもそうだな……」
会話が不発に終わり、がっくりするジェイカイザー。
決して好感度が低いわけではないであろうが、後も会話が弾まないと自信が失われていく。
仕方なくしょっぱいポテトを口に運び、慣れない食事の味に感覚を研ぎ澄ます。
「ジェイカイザーは、いつ自身の正体に気がついたのですか?」
藪から棒に、ジュンナが話題を振ってきた。
それは恐らく、ジェイカイザーの正体がデフラグ博士そのものだったことに対する質問だろう。
「そうだな……なんとなく、だったものがあの決戦で確信へと変わったというところか」
「どういう気分ですか? 自分という存在が思っていたものと違ったっていう気持ちは」
「……複雑な感情が渦巻いていたな。ただ、今となっては私は私であるという確固たる自信があるから、何も問題はない!」
「ふふっ、そうですか」
クスりとジュンナが笑った。
はたから見れば誤差レベルで口端が上がっただけであるが、付き合いの長い者ならそれが笑い顔であることを理解できる。
自分の話でジュンナが笑ったのは初めてだったので、ジェイカイザーもつられて微笑みを返した。
「そういえば、ジュンナちゃんはどうなのだ? さきほど進次郎どのが、ジュンナちゃんも人間ベースだと言っていたが……」
「私はルイド星人ですからね」
「ルイド星……そういえば私はルイド星のことを全然知らなかったな。ジュンナちゃんが良ければ、教えてくれないか?」
「楽しい話ではありませんよ?」
「無理にとは言わないが、私はもっとジュンナちゃんのことが知りたいのだ!」
「……そうですか。では話しましょうか」
ゆっくりとジュンナは語り始めた。
ルイド星、それは全人類が機械化した惑星。
新しく生まれる人間は、無作為に選ばれた保存遺伝子をかけ合わせて人工子宮内で誕生するという。
誕生した赤子はその時点で意識をデータ化し肉体は廃棄。
以後その意識データを仮想空間上で育成していくらしい。
市民階級の者の場合、ある程度意識体が成長すると機械の肉体と共に人間としての権利を与えられて自由を与えられる。
しかし、ジュンナのような奴隷階級の場合は成人まで仮想空間内で従順になるよう教育が施され、必要が生じれば用途に合わせた機械肉体が用意されインストール。
思考回路に自由を阻害するロックをかけられた状態で現実世界に降り立つらしい。
「……というわけで、私は潜入・工作・要人護衛の用途に特化したこの身体へとインストールされたわけです」
「な……」
「どうしました? 軽蔑しましたか?」
「ああ、いや。ひとつ気になったことがあってな……」
「なんですか?」
「ジュンナちゃんは女の子なのか!?」
ジェイカイザーの質問に、ガクッと首を下に向けるジュンナ。
どうやら、なにか的を外した質問をしてしまったようだ。
「ジェ、ジェイカイザーは私のことを何だと思ってたんですか……!?」
「いや、その方法で誕生するのだったら男の場合もあるなと思ってしまってな……つい」
「ま、まあいいでしょう。あなたの失言をいちいち気にしていてはキリがありませんからね……」
「ハッハッハ! ありがたいことだ!」
「……ふふ、やはりあなたは面白い人ですね、ジェイカイザー」
重苦しい空気から一転して、笑い声が店の一角で響き渡った。
───Eパートへ続く




