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エピローグ短編1「ジェイカイザーの初デート」【Bパート ジュンナの要求】

 要点だけをかいつまんだ結果、機械人間製造のネックというのは自己の確立と独立性の確保にあるという。

 人間であれば、たとえクローンであっても生まれた環境や育つ過程で個性というものが生まれ、外見から人間性まで全く同じ個体は生まれることはない。

 しかし、コンピューターによって完成された、意識をデータとして複製できるアンドロイドであれば話は別である。


 とある研究機関が自我を持った人工知能を開発しテストした結果、単体で人間と対話する分には問題はなかったらしい。

 しかし、複製した人工知能をボディに入れたものと、パソコン内のオリジナルが鉢合わせした際に自己の存在というものに対しての認識にバグが発生し、自己崩壊を起こしたという。

 「ドッペルゲンガー遭遇」と名付けられたこの現象から判明したのは、人工知能にとって同一存在を複製して生み出すのはご法度だということ。

 そこで進次郎が……というか、コズミック社が出した結論というのが……複数の人工知能をかけ合わせ、ランダム性を加えた「遺伝」を経て新たなAIを生み出すことだった。


 人工生命分野では古くから一般的な技法として、遺伝的アルゴリズムというものが用いられてきた。

 遺伝的アルゴリズムとは簡潔に説明すると、良い結果を出したアルゴリズム(動作パターンのようなもの)同士を無作為に混ぜ合わせ、さらに低確率で突然変異と言う形でランダムな変化を行わせることである。

 これは生物が交配によってより良い遺伝子を生み出そうとする行為を模倣したものであり、この手法が人工知能分野でも有効的なのは実証済みである。


「──つまり進次郎。ジェイカイザーとジュンナの思考を混ぜ合わせて新しいAIを作るってことか?」

「おおむねその通りだ裕太。ちなみにジェイカイザーの頭脳のベースが人間であることは問題ではない。ジュンナも過程は知らぬが、同様の人間ベースのAIだということが調査の過程で明らかになっている」

「私は言うなれば、後天的に機械化されたルイド星人ですからね。そういう意味ではジェイカイザーと似通った存在です」

『では早速ジュンナちゃん、協力して進次郎どのの役に立とうではないか!』

「嫌です」

『あがあっ!?』


 二度も即答で振られ、閉口するジェイカイザー。

 別に生物的な行為をするわけではないので、問題はないんじゃないかと裕太は思ったのであるが。


「考えてみてくださいご主人さま。知らずらずのうちに自身の遺伝子が勝手に使われて、その結果生まれた存在を認知できますか?」

「あー、うー……そう考えるとちょっと嫌だな」


 脳裏に浮かぶのは、ナンバーズ製造の際に勝手に遺伝子を使われたらしいキーザの顔。

 彼は今、誕生していない個体も含めると70人前後の娘たち(ナンバーズ)を抱える、大家族の大黒柱である。


「ってことはぁ、岸辺くんのプロジェクトはお流れかしらぁ?」

「……そうなるな。本人の了承を得ずして行うほど、コズミックは追い詰められているわけではないし」

『誠に遺憾である』


「別に、私は完全に拒否をしたわけでは有りませんが」

「「「えっ?」」」


 手で口元を隠しながら視線を背けるジュンナ。

 その行為の意図は読めないが、発言としては協力の意図ありと言った感じである。


「ジュンナ、どういうことなんだ?」

「私は別に、そのアンドロイド製造の協力をすることについては肯定的ということです。これまで身体のメンテナンスをしてもらった恩が、コズミック社にはありますし」

「じゃあ何で?」

「そうですね、マスターならわかるでしょう。一度もデートすらしたことがない相手と、子供ができるということへの忌避感が」

「あー……わかるかもぉ」

『デート?』


 不意に出てきた単語に、声が上ずるジェイカイザー。

 勘の鈍い裕太でも、だんだんジュンナの言いたいことがわかってきた。


「私は別に、ジェイカイザーが嫌いなわけではありません。真面目なときはカッコいいですし、日々のセクハラ発言だけがネックなだけです。とはいえ、一番好きなのはご主人さまですが」

『うん? これは喜んで良いのか悔しがれば良いのか』

「喜んどけ喜んどけ。ってことは、まんざらでもないってことなのか?」

「そういうことです」


 ジュンナが一番好きなのは裕太、と言ったあたりでエリィの顔つきが強張ったのは置いておくことにする。

 とにかくどうやら、ジュンナが嫌がっているわけではないというのだけは確かである。

 あくまでも一度でも良いから恋人らしい行為を経てから子を作りたい。

 それだけのようだった。


    ───Cパートへ続く

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