後日談 「希望の未来へ」【Bパート 勝ち取った未来】
【3】
始業式が滞りなく終わった放課後。
校門で集合した裕太達は、一斉に警察署へと歩き始めた。
もちろん、裕太は話しかけられなければ無言で、ただ先頭で話を聞くだけのスタンスだった。
「わぁ! 前も思ったけど、ナインとシェンの制服姿、似合ってるわよぉ!」
「それは褒めているのか? まあ感謝はしておこう」
「素直じゃないのうナインは」
「せやせや、二人とも部活はキャリーフレーム部に入るんか?」
「他に得意分野は無いしな」
「わらわとナインの無敵コンビがおれば、全国大会とて無双じゃろう!」
「でもさ、それって他の学校からしたらたまったものじゃないよな」
「高校野球にプロ野球選手が参加するようなものですね!」
「ついでにメジャーリーガーもってな感じやな。確かに相手がかわいそうや!」
「かわいそうといえばぁ、現2年生もかわいそうよねぇ」
「レギュラー、しかもエースの座を1年生に取られるわけだからなあ」
「訓練が足りないだけではないか。私よりも強くなるのは不可能ではない」
「学生に軍人級の練習を強いるなや……」
後ろでかわされる楽しそうな会話。
ジェイカイザーを失う前であれば、あの輪に気兼ねなく入れたのだろう。
けれども今の裕太には、その勇気もなかった。
自分の臆病さに嫌になりながら、気づけば警察署に到着していた。
門の前で待っていたレーナが、遠くからこっちだと手招きする。
「ゼロセブン、なぜここに?」
「わたしも呼ばれたんですぅ~! っていうかナイン、まだナナ姉って呼んでくれないの?」
「恋愛が成就したから無しだ。離婚のひとつでもしたら呼んでやらなくもない」
「じゃあもういいわよ! だって、進次郎さまとわたしはずーっと一緒だもん!」
「私も忘れちゃだめですよ! ですよね、進次郎さん!」
「う、うん。ふたりとも僕の大切な人だからね!」
「翼……」
「二人は僕の翼……やっけ、くすくす」
「ええい! ひとのプロポーズの台詞でいちいちからかうんじゃあない!」
「相変わらずにぎやかだな、若いもんは」
裕太が顔を上げると、目の前に立っていたのは大田原だった。
彼は裕太の肩をバシバシと叩きながら、格納庫の方へと引っ張り寄せていく。
「い、痛いですよ大田原さん」
「坊主、なにいつまでもしょげてんだよ」
「俺だって、好きでこうなったわけじゃありません」
「へっ、その態度がいつまで持つか見させてもらうぜ」
「え……?」
背中を押され、よろめきつつ足を踏み入れた格納庫。
その中心には、ブルーシートにかけられたキャリーフレームの前に立つジュンナの姿があった。
彼女の手には、宇宙服のヘルメットのような物体が抱えられている。
「ジュンナ……?」
「ご主人さま、これを」
差し出されたヘルメットを、裕太は無意識に受け取る。
その中には、なにやら機械の部品みたいな塊が一つはいっていた。
「ジュンナ、これは?」
「よくわかりませんが……あなたの大切なものだと」
「俺の……?」
しばらくその部品を見つめ、思案を巡らせる。
どう記憶をたどっても見覚えのない物体。
頭の中にハテナマークを浮かべながらしばらく考え込んでいると、不意にポケットに入れていた携帯電話が震えだした。
「何だろ、母さんの病院からか……な……!?」
携帯電話を手に取り、その画面を見た裕太は言葉を失った。
明らかに有るはずのないものが、そこに映っていたから。
角張った、直線で構成されたような、お世辞にも格好いいとは言えない顔のアイコン。
まるで眠っているようにフガフガと言っていたそれは、目を覚ましたようにハッとした顔をした。
『な、なんだ……? ここがマシン戦士のヴァルハラか……? それとも天国か?』
「ジェ……ジェ……」
『むむっ!? なぜここに裕太がいる!? まさか、あの爆発に巻き込んで一緒に!?』
「ジェイカイザー!!?」
【4】
後から聞いた話によると、ジェイカイザーが生き残ったのは奇跡のようなめぐり合わせだったという。
あの戦いの決着の時、この世に未練を残していたジェイカイザーは、機体が溶け切る前に無意識のうちに意識データを周囲に飛ばしていたらしい。
その際、偶然にも近くに投棄されていた古い携帯電話にデータが転送され、爆発とともにその携帯はあらぬ方向に吹っ飛んでいったとのこと。
そして昨日、落とし物として交番に届けられたボロボロの携帯電話。
持ち主を探すためにとメモリの内容を引き出そうとしたところ、ジェイカイザーが発見されたという。
「ジェイカイザーーー、お前~~~!!!」
『な、なんだ裕太!? やっぱり一緒に死んでしまったのか!?』
「違うよ、俺もお前も……生きてるんだよ!! みんな!」
「え? なになに? ジェイカイザー?」
「生きてたのか! 本当に!?」
「わ~~良かったです~~~!!」
「だから言っただろう。あいつのようなやつが死ぬはずがないと」
「ほんま良かった~~! ジェイカイザー、笠本はんあんさんがおらん間ずっとな」
「めでたしめでたし、じゃのう!」
「裕太!」
後ろから覗き込む面々をかき分け、裕太を背後から抱きつくエリィ。
彼女の柔らかな感触が、裕太の背中を包み込む。
「本当に……本当に良かった……!」
涙声で喜ぶ彼女に釣られて、涙が出そうになる裕太。
けれども、ジェイカイザーの『いけーキスだー』という囃し立てを聞いてから、涙を流すのが馬鹿らしくなった。
「さて、もう一つサプライズがあるんだが……良いかな?」
いつの間にか現れた訓馬に声をかけられ、「サプライズ?」と首をかしげる。
彼の指差す方を見ると、ブルーシートがかけられたキャリーフレームの横で、照瀬と富永がシートの端を引っ張っていた。
数秒の後に取り払われるシート。
その下からは、信じられないようなものが姿を表した。
趣味の塊のような、原色をふんだんに使ったロボット。
青を貴重とし、頭部は絶妙に格好良くないカクカクとした顔が彫られている。
「ジェイカイザー……なのか!?」
『うおおっ! すごいではないか! 新品のピカピカだ!』
細かいディテールこそ変わっているが、それはジェイカイザーそのものだった。
エリィ達が一斉に群がり、ペタペタと装甲を触り始める。
裕太が遠目からその外観に感動していると、訓馬が前に出てコホンと咳払いをした。
「正確には〈ジェイカイザーⅡ〉と言ったところか。フォトンリアクターこそ搭載していないが、〈エルフィスMk-Ⅱ〉をベースにしたから性能は折り紙付きだぞ?」
『聞いたか裕太! ついに私のベースもエルフィスか、しかもマークツー!』
「……訓馬さん。俺、すっげー嫌な予感がするんですけど」
ジェイカイザーの改修なりパワーアップに必ずつきまとうこと。
それは、あまりにも膨大な費用がかかったことにより発生する借金。
しかし、裕太の不安を吹き飛ばすかのように老人はクククと笑った。
「なあに、メタモス戦を始めとした地球を守る戦いで、コロニー・アーミィから莫大な報酬金がでていてな」
「そっか! よかった~」
「……で、残念なことに元のジェイカイザーのデザインを起こす際に、結構予算オーバーをしてしまって……」
「……やっぱり?」
「まあ、借金と言っても50万円ほどだ。君ならすぐに返せるだろう」
「ああーっ!! やっぱり借金生活じゃねえかよぉぉぉぉ!!」
感動から一転、立て続けに別の涙を流すこととなった裕太。
しかし、裕太の気持ちを汲む気などない、といった風に突然格納庫に警報が鳴り響いた。
「工業地帯にて、愛国社を名乗る暴走キャリーフレームが出現! 特殊交通機動隊は直ちに出撃せよ! 繰り返す、特殊交通機動隊は直ちに出撃せよ!」
大田原たちへと放たれたであろう命令を聞き、裕太は訓馬と頷きあう。
そして、目の前でコックピットハッチを開く〈ジェイカイザーⅡ〉へと駆け出した。
「よし、行くぞジェイカイザー! 出撃だ!!」
『おう!!』
───────ロボもの世界の人々 ~ 完 ~
けれども、彼ら彼女らの人生は、これからも続く!!
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登場マシン紹介No.50
【ジェイカイザーⅡ】
全高:8.3メートル
重量:7.8トン
訓馬が裕太のために用意した、ジェイカイザーそっくりな外見を持つキャリーフレーム。
エルフィスMk-Ⅱをベースとしているため、性能は軍用機レベルの中の上といったところ。
ジェイカイザーの意向を汲みフォトンリアクターは搭載していないが、実は後から搭載できるように訓馬が用意している。
固定兵装は頭部バルカンのみで、標準装備として警察から支給された電磁警棒とショックライフル、及びΝ-ネメシスから差し入れされたビームシールドを搭載。
これからの裕太の人生を彩る、素晴らしい機体である。




