最終話 「大地に還る」【Eパート 真の狙い】
【5】
「……何故だ? なんでデフラグはこの状況下で静観しているんだ?」
『裕太、どうしたのだ?』
「ずっと違和感を感じていたんだ。ヘルヴァニアを憎むデフラグ博士が、なぜこのエリアにばかり〈エビルカイザー〉を送り込むんだ……?」
『地球を防衛するコロニー・アーミィを叩くことで優位に立つためでは?』
「地球にだって、国ごと防衛組織が存在するんだ。それらとやり合うには数が足りてないし、ここで戦力をいたずらに損耗しているのはおかしいんだ……!」
自身を支持してくれているであろう人間を、球体の機械に移して捨て駒のように投入する。
確かに、このエリアを制圧するだけであればそれで十分である。
しかし、その目的がヘルヴァニア人を殺すことであったなら、道理が通らない。
『む? 裕太、友軍機のひとつが地球へ落下しているようだぞ!』
「なんだって?」
裕太がレーダーに目をやると、確かに映る地球へ近づいていく、友軍を示す緑色の光点を見た。
しかし状況的にそれはありえないはずである。
地球へ向かおうとする敵を止めるために戦いに、敵がいない地球方面へと向かう必要はない。
今さっき到着した援軍だって、地球圏の外側からやって来たばかりである。
そして、飛び交うアーミィの通信にも、味方機が地球に落下しているなどという報告はない。
「そうか……そうだったんだ!!」
裕太は操縦レバーを思い切り倒し、ジェイカイザーを反転させた。
同時にペダルを力いっぱい踏みこみ、全速力で光点で示された機体の方へと加速する。
『裕太……!?』
「やっとわかった……デフラグの狙いが!」
大気圏に接近していることを示すアラートが、コックピットに響き渡る。
しかしその音を気にすることなく、裕太はウェポンブースターを起動する。
手の甲を下に向けたジェイカイザーの左腕の手首から、エメラルド色の結晶が飛び出した。
「最初からデフラグは、地球人に勝とうなどとは思っちゃいなかったんだ!!」
その結晶は手の甲のビームシールドへと伸びていき、桃色の光を発していたビーム発振器から、ジェイカイザー全体を包み込まんとする緑色の長く広いビームが放出される。
強化されたビームシールドに身を包んだまま、大気圏へ突入。
かつて修学旅行の帰りに一回やったこと故に、恐怖感は無い。
ただただ、前方に見える黒い点にしか見えない機体を、追いかけ続けた。
「その手でヘルヴァニア人を殺す、それだけが目的だと考えたなら……!」
大気圏を無事に抜け、周囲の空が黒から青へと変化した辺りでウェポンブースターを解除。
バーニアを全開に吹かせながら、落下速度を徐々に落としにかかる。
「一人でも多くのヘルヴァニア人を殺したいと考えたならば、目的地はひとつしか無い!」
雲の層を幾つもとっぱし、眼下の光景が町並みと山々へと移り変わる。
その風景は、ジェイカイザーの中から地図越しに何度も見た風景。
「世界最大のヘルヴァニア人密集度を誇り、反ヘルヴァニア組織の活動が最も活発な場所……俺たちの住む、代多市だ!」
初めてジェイカイザーと出会った日、その場しのぎのために巨大な機体を隠した山。
寺沢山へと落下し、巨大な土煙を上げる前方の機体。
その土煙の中へと、ジェイカイザーも突入する。
そして、落下の衝撃で形成されたクレーターの縁に、裕太は着陸させた。
土煙の中から立ち上がる、邪悪な様相の機体。
それは〈エビルカイザー〉よりも、2倍近い大きさをしていた。
例えるならば、ハイパージェイカイザーの邪悪版。
「よくぞ、ワシの目論見を見破った……」
『デフラグ博士……なのか!?』
「どこまでも邪魔をしてくれるな、地球人! そしてそれに与し創造主へと刃向かうかジェイカイザー!!」
黒い機体の胸部にある、緑色の宝石のような物体が輝き始めた。
その輝きは、何度も見たことのあるフォトンエネルギーが放つ光。
そして、宝石の周囲を取り囲む結晶は、ウェポンブースターによるもの。
「この〈グレートエビルカイザー〉で、ヘルヴァニア人もろとも滅却してくれるわァッ!!!」
※ ※ ※
「あ……!」
Ν-ネメシスの甲板の上でブラックジェイカイザーに乗っていたエリィの胸が、突然ズキリと痛んだ。
その痛みは、彼女の中のExG能力が、何かを感じ取ったことを示している痛み。
いても立ってもいられなくなったエリィは、ペダルに乗せた足に力を込めた。
「銀川さん!?」
「エリィ、どうしたのじゃ!?」
「わからない。わからないけど……裕太が危ないの! 行かなくちゃいけない気がするの!!」
エリィはブラックジェイカイザーを素早く航空機形態へと変形させ、ペダルを踏み込んだ。
直感に任せた方向へと、脇目もふらずに進んでいく。
『マスター、ジェイカイザーの移動経路を確認しました』
「ありがとう、ジュンナ。裕太はどこに?」
『地球……。いえ、この突入コースであれば……日本の代多市へと降りた模様です。移動ルートを調整し、自動操縦へと切り替えますか?』
「お願い。全速力で向かって!」
『わかりました。私も……機械ですが胸騒ぎのようなノイズを検出していますからね』
「裕太……ジェイカイザー……。無事でいて……!」
少女はただ、祈りながら両足に力を込め続けた。
そのバーニアの光を追っているものは、誰もいなかった。
※ ※ ※
〈グレートエビルカイザー〉から放たれた光の帯が、空間を走った。
とっさに回避したジェイカイザーの脇を通り抜けたビームが、進行上にある木々を消滅させながら進み、遥か向こうの基路山へと直撃する。
瞬間、空が真っ赤になると同時に大爆発を起こす基路山の山頂。
数秒して空の色がもとに戻った時そこにあったのは、半分から上をえぐり取られた基路山の姿であった。
「ぐぬぅぅぅっ、ブレスト・フォトン・ガイザーの射角がズレておったか!!」
『デフラグ博士……あなたは、本当に地球を攻撃するつもりなのか……!!?』
「ジェイカイザー、あいつはお前の知っている老人じゃない! 地球を滅ぼそうとする……敵だ!!」
───Fパートへ続く




