最終話 「大地に還る」【Dパート 反撃の狼煙】
【4】
「マリーヴェル大元帥より入電! 敵集団の抑え込みに成功中とのこと!」
「わかりました、では──」
「艦長! あらたなワープアウト反応! 敵軍の増援です!」
「……何ですって?」
「数、200機ほどを補足! なおも増えています!」
もう少しで勝てるのでは……と、深雪がそう思った矢先のことであった。
損傷が激しいΝ-ネメシスは、戦場の中心からやや外れた位置に陣取っている。
それは、この艦に搭乗しているのは民間人が多数であるがゆえにと、アーミィ側からの提案によるものだった。
だがこのまま、傍観しているばかりでは済まないであろう。
「深雪ちゃん、僕に行かせてくれ!!」
いの一番に名乗り出たのは、甲板で〈エルフィスMk-Ⅱ〉に搭乗し、砲台代わりに警戒をしていた進次郎だった。
「サツキちゃんがせっかく救った地球を、このまま危険に晒すわけには!!」
「却下します。意気込みは結構ですが現実を見てください。あなたの腕前では足手まといになる確率のほうが高いです」
「だけど!」
「もうしばらく辛抱してください。こちらも手をこまねいていたわけではありませんから。エリィさん、シェンさん。ふたりとも彼が飛び出さないように見張っていてください」
「了解じゃ!」
「でも……本当に大丈夫なのぉ?」
不安そうなエリィの声。
少々ヒーロー気質が強い彼らが息巻く気持ちはよく理解できる。
けれども、信じてくれとしか言えないのが、現在の深雪の立場であった。
間に合ってくれという願い。
無力な幼い子どもが艦長席からできることは、ただ祈るだけだった。
※ ※ ※
デフラグ・ストレイジが何を考えているのか。
その答えを導き出す前に、裕太は再び渦中へと戻された形となった。
不思議と、機械化したゴーワンを手に掛けたことに不快感はあまりなかった。
あまりにも哀れだったからか、相手が機械であることで割り切れていたからか。
とにかく、今はそういう事を考えている場合ではないという意識が、裕太を突き動かしていた。
新たに現れた敵軍を、残り少ない戦力のサジタリウス艦隊とともに迎撃に当たる。
しかし、あれだけあった艦隊の戦艦も、今攻撃に参加しているのは旗艦の〈サジタリウス〉と1隻の〈タウラス級〉だけ。
数十機はいた〈ジエル〉も、レーダーにはもはや両手で数えられるほどしか反応は残っていない。
「くそっ! 敵の戦力は底なしかよ!」
「怯むな、裕太少年!」
「大元帥はんの言うとおりや! 心が折れたら負けやで!」
「そうは言ってもよ……!!」
もう何回目かわからない、指揮官機へのとどめ。
いちいちとどめを刺す度に、人間の意識が入った球体から怨嗟のこもった断末魔が通信越しに響いてくるので、裕太の心身は消耗する一方だった。
そして、そうやって無人の〈エビルカイザー〉を10機前後停止させても、またすぐに別の部隊が襲いかかってくる。
そのようなことが繰り返されれば、いつかは起こり得ること。
「しまったッ……!!」
『裕太っ!!』
疲労によって引き起こされる、僅かな操作ミス。
僅かではあるが、致命的な操作ミスである。
受け止めそこねた敵のフォトンソードが、裕太のコックピットめがけて振り下ろされる。
位置的に、内宮やアーミィの援護も望めない状況下。
(ここまでかよっ……!)
諦めかけた、その時だった。
突如、戦場に降り注ぐ無数のビーム光。
それはこちらを狙うものではなく、的確に〈エビルカイザー〉だけを背後から襲いかかった。
「な、何や!?」
「間に合ってくれたか……!」
「こちら、木星防衛軍旗艦〈ジュピターサーティ〉艦長、遠坂明! これより、サジタリウス艦隊を援護する!」
遠方に現れた20をゆうに超える戦艦群と、その格納庫から次々と発信するキャリーフレームたち。
その中のひとつが、光の尾を描きながら戦場へ突入。
凄まじい速度で駆け巡りながら四方八方へとビームの嵐を撒き散らし、次々と〈エビルカイザー〉を葬ってゆく。
「まったく……相変わらずスグルくんは活躍が派手だねえ」
「大元帥はん?」
「何でも無い。向こうからは金星コロニー・アーミィの増援……どうやら支援要請は聞き入れてもらえたようだね」
戦況が、一気に傾いた。
木星、金星から送られた戦力群はまたたく間に〈エビルカイザー〉の数を減らしてゆく。
指揮官機を狙うだとかそういう戦略を取る必要もないままに、圧倒的なまでの数の暴力と質の高さで大群を押しつぶしていった。
確かに勝利を確信してよい……はずである。
しかし、裕太の中で何かが引っかかっていた。
───Eパートへ続く




